ラーナ
小鳥の囀ずる声で、私は目を覚ます。
すっかり日は上り穏やかな初夏の風が頬を撫でた。
「お目覚めですか、お嬢様?」
「ん…おはよう、パルメラ。」
私の上に掛けられていたサーコートをパルメラに手渡すと私は胡座を掻く。
んー、まだ眠い…けど、色々停滞しているから一つずつ処理しなければ。
「何か報告はある?」
「いえ、特には。ジュスカ卿が目覚めたくらいでしょうか。ですが…いくら声を掛けてもずっとあの調子でして…」
パルメラの視線の先を追いかけると、Orzの姿勢のまま何かをブツブツと呟くセリーヌの姿が。
「何故…何故私は突然気を失ったんだ?お嬢様をお助けする大事な局面だったのに…いや、あれは突然睡魔が襲ってきた様な…悔しい…!颯爽と現れ賊を討ち、お嬢様にーー『助けてくれてありがと、好きっ!』ってほっぺに口づけをしてもらえる好機だったのにぃー!」
あー…うん。今日もマリ(アンヌのことを)キチ(ガイなくらい好きな)なセリーヌはセリーヌだった。正直、九割九分私が催眠を掛けたせいで落ち込んでいるのだろうけど、彼女が気にしているのはそこではない気がする。
あと、声真似が上手いのが少しムカついた…どうでもいい特技持ってるな。
これもマリアンヌへの愛が成せる技なのだろうか…?
それでもセリーヌは通常運転の範疇だよね?
「えーっと、セリーヌは置いておこう。私達が今やるべきはあの子達をどうするかだよね?私が行くよ。」
「お嬢様、御自らですか?お言葉ですが、下々の者に直接お声をお掛けになるなどとーー」
「えーい、くどい!私がやるって言ったらやるの!パルメラは…大人しく着いて来るか、セリーヌの方に行くか決めなさい!」
全く、もう!ジェシカがギルドマスターになって私の側から離れてからパルメラはお小言が増えた気がする。私を気遣ってくれているのだろうけど、性に合わないのだ。
トコトコと村娘達の元へ向かう。
全員で七人、それぞれが光の灯らない目で虚空を見つめていたり泣いていたりと、各々違う行動をしていた。
私は比較的症状が軽微な少女に声を掛ける。
「気分はどうかな?ーーって最悪だよね。ごめん。私はリリアナ、センティス伯爵家の当主で今回の北伐軍の指揮官だよ。貴女のお名前は?」
「えっと…ラーナと申します。」
少女は伏し目がちにボソボソと答え、何とか聞き取れるくらいの声音で話した。
「ラーナ、私は貴族家として貴女達を村まで送る義務が有るわ。村まで案内してくれるかしら?」
「村は…在りません。私が村で最後に見た光景は火に包まれたものでした…おと…うさん…おかあ…さん…!ウゥッ…」
あー、やっちゃった!地雷を盛大に踏み抜いてしまった様だ。
そりゃ、若い娘を拐ってそのままにしておく賊は居ないよね…火くらい放つわ。
常々思うが私はもう少し思慮深さを身に付けるべきだよね…猛省しなくては…
気まずくなり、黙っていると段々と落ち着いてきたラーナが固まる私を見つめる。
いつの間にか、涙は渇きその眼には強い意思を感じる。
「貴族様…無礼ながら申し上げます…。先ずはお助け頂いた事に感謝を!そして、不躾ながらもお願いします。私を雇っては頂けないでしょうか?私は村では村長の一人娘でした。壊滅したとはいえ、村の民を…彼女達を養う義務があります…!戦働きでも、給侍でも構いません。どうか私の我が儘を聞き届けては頂けないでしょうか?」
背を折り懇願するラーナ。
私の動きをあの状態でも見ていたのだろう、しっかりした娘だ。
村長の娘ならばこの態度は納得出来る。
私としても彼女達を雇うのは大歓迎だ。
「良いでしょう。もうすぐ増援の部隊がやって来るから、それまで少し休んでいなさい。但し貴女だけを雇う訳にはいかないわ?他の六人も一緒に、よ?」
「ーー!ありがとうございます!ありがとうございます!」
「さぁ、休んで?パルメラ、鹿か猪か適当な獲物を取って来て?私は暫く上空から周囲を偵察してるから。」
「分かりました。」
パルメラが森へ姿を消すのを見届けると私は結界術で上空から監視を始めた。




