あんたは何れ……
私は立ちはだかる敵を切り捨て、遅れてきたA班が合流したのを見てマシューの方へ向かう。
「レイン、後は任せたよ?私はマシューの方を見て来る!」
「分かりました!」
「行かせるかよ!オラァッ!!」
私の行く先を巨体の兵士が邪魔立てする。
「退いて、あんたの相手をしてる暇ないから。雑魚はすっこんでて!」
「誰が雑魚だ!俺は第四騎士団千人長が一人グレゴ・モブールだ!貴様も立場ある者なら名乗れ!」
「はぁ…雑魚の相手してる暇ないんだけど…死んで。」
私は少々苛立っている。否、少々は少し語弊があった。
実は結構ブチギレている。
減らない敵、マシューの単独行動、目の前の雑魚、マシューの一騎打ち、マシューの最近の生意気な所、などなど…
まぁこのモブールだかなんだか知らない雑魚にはここで幕引きして頂こう。
振りかぶった斧を叩き落とす所作で私は結界を使いモブの四方を囲む。酸素も遮断したので何れ窒息するだろう。
今も結界をガンガンと音を立てて斧で殴っているが結界には傷一つ付きはしない。
しかもそうやって動けば動くほど体力を消耗し、死への階段を駆け上がるだけで自殺行為だ。
私はモブを無視してその場を後にし、角を曲がった。
マシューの姿は見当たらない。
変わりに身なりの良い死体が四つ転がっていた。
し 死体を避けつつ真っ直ぐ進むと血が点々と床に残っている。
それを辿っていくとマシューの姿と一騎打ちしたであろう相手の死体が血に濡れていた。
脈を図ると平均値だったので一息吐く。
マシューは気を失っている様でぐったりとしていた所々出血をしている。
「【最上回復】【気付】!」
治療をしたマシューは暫くするとヨロヨロと起き始めた。
「ウッ…僕は…?あれ、姉さーー」
「こんのッ、バカァー!私を心配させてどうするつもり?あんたね、身の程を知りなさい!今回は運が良かったから良いものの下手すれば死んでたのよ?自分がしでかした事の重大さを猛省しなさい!今日から一週間、安静にしてなさい!わかったわね?」
「で、でも姉さーー」
「わかった、わね?」
「はい…」
有無を言わさず再確認するとマシューは項垂れ、反論を諦めた様だ。
私はその場に尻餅を付く。安心したら力が抜けたのだ。
「姉さん、ごめん…僕強くなるから…!いつかは姉さんを守れるくらいに…!」
「うっさいバカ!こういう時くらい世界で一番くらい言ってみなさいよ!でもあんたが私を超えるなんて百年早いわ。」
「分かってる。それでも強くなるよ。」
「そう。期待しないで待ってるわ。…あんたはーーいえ、これ以上与太話をしてる暇はないわね。少し寝てなさい!」
「姉さん、何を言い掛けたの?気になるんだけど…ーー」
「良いから寝なさい、二度目はないわよ?」
「う、うん。分かったよ…おやすみ。」
マシューは直ぐに寝息を立て始めた。寝付きだけがいいのがマシューの取り柄だ。
私は飲み込んだ言葉を反芻する。
あんたは何れ世界で一番になれるから頑張りなさい。
これを口にしたらこのバカは調子づいて似た様な事を繰り返すだろう。
それだけは嫌だった。
これ以上私を悩ませないで欲しいから。




