セリーヌ・ジュスカ
大幅に遅れてしまいました…申し訳ありません…
翌日の昼前、領主の館にて今回の遠征の主だった面子が揃った。
センティス騎士団からは私を含め、
騎士団長ジョセフ・ナイトランド
副団長ホセ・サンライズ
近衛隊長パルメラ・アーリー
の四名だ。
王国からの援軍、
近衛騎士団長アルトリオ・アレクシオン
【剣聖】バルムンク・メルトリア
他各領地持ちの貴族十五名(男爵~伯爵)
聖教教会
騎士団長セリーヌ・ジュスカ
副団長ボローニャ・ジュスカ
以上二十三名である。
私より家格が上(古くから続き名家として存続している)といえばアルトリオやバルムンク卿くらいで他は近代に出来た家系かうだつの上がらない零細貴族。
彼ら彼女らを私が総司令となり軍を導く事になる。
ここで決まる作戦によって兵を生かすか殺すかが決まるのだ、責任重大である。
「皆の衆、本日は良く集まってくれた。此度の戦いをより良いものとするためにこの場で策を練り上げたいと思っている。紹介が遅れた、リリアナ・アルデン・センティスという。お初にお目にかかる者もそうでない者も宜しく申し上げる。さて時間は金より貴重だ、まずは昨日まで強行偵察をしていた我が騎士ジョセフとアルトリオ殿に話を伺いたいと思っている。ジョセフ、お願い。」
堅苦しい挨拶は苦手だぁ…でもこれをしなければこの場を引き締めることは出来ないので仕方なくやった。
私の後ろにはどうしても軍議に出たいと願い出たレインが紙と羽ペンを持って待機している。
速筆で耳の良いレインならばうってつけだ。
まぁ、後の進行はジョセフに丸投げなんだけどね。
「ジョセフ・ナイトランドである。軍議の場にて敬語は失敬させて頂く。まず初めに私と共に強行偵察をしたアレクシオン殿に補足を要求する。アルトリオ良いな?」
「もちろん、構わないですよ。」
「では話を続ける。我々強行偵察隊は北部を目指し進んだ。途中パーシアス家の寄子の手勢と思われる軍と数度接触したが此方の被害は軽微、寧ろ相手は満足に食事を取れておらず容易に攻略を果たした。三日前の午前にパーシアス領、領都イギアスにて四千規模の軍を策敵したため森に誘きだし千は討ち取ったが帰還時刻となりそのまま帰還したという具合である。ざっくばらんに説明するとこんな感じだ。」
「公国軍の旗も確認したので既に上陸していると考えて良いでしょう。馬の扱いに長けた部下を港の方へ走らせたのですが、最低でも二十挺の大型船はあったらしいです。この軍議の前に戻った部下の報告を付け足すと南下しここゴディラムに南下しておりその数は一万に膨れ上がっているそうですよ。到着は明後日の昼頃とみて良いでしょうね。」
貴族諸侯が唸りを上げる。
だがここで【剣聖】バルムンク卿が口を開く。
「上等じゃねえか。我らには聖女様であり、総司令のリリアナ殿が居るんだ!負ける気がしねえな!」
と、私をダシに使い、そう言い抜いた。
昨日と打って変わって粗暴な口調のバルムンク卿だがこれが彼の素なのだろう。
以前ジョセフから聞かされた話では騎士学校時代バルムンク卿は悪童、パーシアス家の狂犬などと言う二つ名があったらしい。
ジョセフやアルトリオに会えて気分が高揚しているのかも知れない。
ジョセフとアルトリオが笑みを見せる。
何か悪い予感がする…
「うちのお嬢…おっと、閣下は知才だけでなく戦才もある。まだ齢十一才にしてこれまで三度の戦争に出たが一騎当千の活躍をしたお方だ。我が領内の騎士団では【戦女神】と呼ぶ者まで出ている。策を練れば一流、剣を持てば死屍累々の功績よ!」
「えぇ、私もこれまでの行軍で閣下のご采配、武勇をこの目でしかと拝見しました。【戦女神】という名に遜色ない素晴らしい働きです。閣下の目に狂いは無いのだと確信しているくらいです。」
「うちの娘から聞いた話だと、故ガーズ男爵の息子を義弟として日々想像を絶する訓練をしていると聞いたぜ?一度手合わせしてみてぇもんだ。」
あー…悪い予感が当たった。私を誉め殺すつもりなのだろうか、このオッサンズは…ジト目で睨み付けておく。
【戦女神】て…それはないでしょ…誰よ、言い出したの。見付けたらお仕置きしなくちゃ…!
レインの方を見ると「ヴァルキュリア…ヴァルキュリア…!素敵な響き…!」と嬉しそうに呟きながら羽ペンを踊らせていた。
「オホン、それじゃ作戦を説明する。一度全容を語るので質問がある者は後で質疑の時間を設けるのでその時に話してほしい。まずーー」
私は自分で考えた作戦を披露した。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
一時間ほど話を続け机に置かれた紅茶で喉を湿らせる。
ジョセフが良くやったとばかりに頷いている。
「では、閣下の作戦に賛同するものは起立を。」
集まった者が全員立ち上がる。
「では閣下の作戦を採用するということで概ね了承した。次にここは直した方が良いなどの案がある者は居るか?」
静寂の中、アルトリオとバルムンク卿が手を上げる。
アルトリオがお先にどうぞ、とばかりに手を差し出しバルムンク卿が話し出す。
「ひとつ質問をさせて欲しい。この作戦だとセンティス卿の負担が多すぎるんじゃねえか?他の領軍の奴で代替え出来るならそっちの方が良いだろう。その辺はどう考えてる?」
「それも踏まえて私は作戦を練っている。しかし重要ではない部分を補える人材が居るのであればそれに越した事はない。メルトリア卿の言う通りだろう。」
「ですな。」
「うむ、当家にも魔術師は数名居る。是非役立てて欲しい。」
数名の諸侯が頷き何人かは魔術師を貸し出してくれるらしい。
魔力量にも依るが数人で唱える合成魔法や儀式魔法は強力だ、使わない手は無いだろう。
「ではメルトリア卿の案は可決ということで。次にアルトリオ殿。」
「では工兵の件だが、私が率いる近衛騎士に任せて頂けないだろうか?私事ですが、部下に沢山の経験をさせたいんだ。」
なるほど、そういう事ならば任せても良いかも知れない。ルルかイシスちゃんをサポートに付ければ捗る筈だ。
「了解した。では工作の件はアルトリオ殿に一任する。アルトリオ殿にはパルコシア家イシス嬢を預ける。彼女は魔術の天才なので作業も捗るだろう。モガ、イシスちゃんを呼んできて。」
「畏まりました。」
レインの側に控えていたモガは音も立てず部屋を後にした。
多分そろそろ昼食を終えて一人で魔術研究をしているはずだ。
「閣下、一つ宜しいか?」
そこで聖教騎士団長セリーヌが口を開く。
ずっと黙って居たのだが何を言うつもりだろうか。
私は手で指し示し頷く。
「我が聖教騎士団が後方待機とは如何なものかッ!右翼前線を所望する!」
うぇッ?!
聖教騎士団には後方で治癒に専念してもらうつもりだったのだが、セリーヌの心積もりは違う様だ。
うーむ…悩ましい…。
流石ゲース卿が騎士団長にするだけ有って一癖も二癖もある人物だ。黙ってれば美人なんだけどなぁ…
右翼側と言えば一番激戦地になるだろうと予想される平原のエリアなのだ。
ホセとアルトリオの部隊三千で迎え撃つつもりなのだがセリーヌは不満らしい。
中央は小高い丘に面しており西は森と川がある。
「却下する。聖教騎士団には後方陣営にて救護活動をお願いした筈だ。ゲース卿ともそういう話し合いをしており、許可は取っている筈だ。まさか聞いていない訳ではないだろう?」
「グゥッ…た、確かにその通りだが…栄えある聖教騎士団が戦わずして後方に引きこもるなど先達に申し訳ない!どうか、ご再考を!」
ぬぅ…自分の意見を絶対に曲げない頑固な性格なんだろうな…
苦手なタイプだ‥。ゲース卿、こんな頑固な人を騎士団長にする人選間違ってるよ…
「お嬢さん、我が儘を言っちゃアいけねぇよ。それとも功を焦ってるのかい?教会の生臭坊主共はやれ信仰だ、お布施を寄越せだ五月蝿いからねぇ…上からせっつかれてイライラするのも分かるがもう少し状況を見て物を言うこった。閣下の建てた作戦案がそんな不満かい?俺は実に合理的で利に富んでると思うがねぇ。」
ここでバルムンク卿が口を挟む。
余程教会が嫌いなのだろう、教会への悪口が出るわ出るわ。
不精髭を擦りながらセリーヌを挑発する様に話した。
セリーヌは今にも立ち上がりそうな程怒り心頭である。
「貴様…!教会を侮辱するかッ!」
とか言ってる間にキレた。
あーあ、下手すりゃ決闘問題だよ…どうしよ…
「姉さん…今回は諦めましょう…?閣下や他の方の心証を下げてまで公使する事ではありませんよ。」
と、そこで今まで空気と化していたセリーヌの妹ボローニャが助け船を出す。
「お?そっちのお嬢さんは話が分かるねぇ。俺は闘り合っても構わねえんだがな。」
流石に聖教騎士団長と言えど剣聖と闘り合う根性はないだろう。セリーヌは不承不承そうに頷いた。
「では、そろそろ良いだろう。少し遅いが昼食にしようか。戦時中ではあるが、心ばかりのもてなしをさせて頂こう。ジュスカ卿も良ければ出席してほしい。これにて軍議を閉幕する!」
私はこれ以上ややこしくなる前に軍議を無理矢理終わらせた。
この緒戦どうなることやら…




