火種は燃え上がる
更新遅くなりました…申し訳ありません…
しばらく予告なく更新が遅れますが、ご理解のほど宜しくお願いします。
指示を出しジョセフが寝ぼけ眼で馬に跨がり王城へと向かっていくのを自室の窓から見送ると私のベッドでモゾモゾ動き出す気配がした。
「んー…リリー?おはよう…ハッ!寝坊しちゃいましたよね、ごめんなさい!あれ?どうして礼服に着替えているのですか?」
レインだった。朝の遅いお寝坊さんがぐぅ~っと腕を上に伸ばし寝起きで凝り固まった体をほぐし尋ねてくる。
「ごめん、これから少し陛下に会いに行ってくるね。今日の迷宮挑戦は先送り、それとこの屋敷から出ちゃダメだよ?もしかしたら戦闘になる可能性があるから。詳しいことは後でモガに聞いて。私、行くね。」
「あっ!ちょっ、リリー!行っちゃった…んもぉー…!」
ごめんね、レイン。
ユグドラたんの件もあるし、国内のゴタゴタをさっさと終わらせて私は公国に行かなきゃ行けないんだ…
私は二階から階段を駆け降りて玄関前に停められている馬車に乗り込んだ。
既に馬車内にはキャサリーヌが乗り込んでおり退屈そうに窓下の小机に左肘を吐きながら、あくびをしていた。
乗り込んだ私に気付くなり「あら、遅かったわね」と一言皮肉ると窓の外へと視線を移した。
私は御者台の方へノックをして出発の合図を出すと馬車はゆっくりと動き出した。
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王城にてーー
レオンハルトはいつもより少し目が覚めた。
昨夜から続く妙な違和感が彼を蝕み、満足な睡眠を行う事が出来なかった。
前世から度々あった妙な違和感。
レオンハルトの前世、美樹だった頃に当時から最愛だった親友の梨乃が亡くなるその日も彼女はその違和感で気が気でなかった。
ベッドから出ると顔を洗い仕立ての良い服へ着替えると自分の執務室へと向かった。
まだ日の昇らない早い時間帯だ、廊下を行くメイドの数は少なく、すれ違うのも数人のみだった。
彼女らは声も発さず廊下の脇に寄って頭を下げたのち、レオンハルトが過ぎ去ると駆け出して同僚に自分が起きている事を伝えに言ったのだろう、とレオンハルトは予測した。
その想像が当たったのか、執務室に辿り着き書類の整理を始めて十五分ほどでメイドが扉をノックして朝食が乗った配膳台を持ってくる。
「ありがとう、そこに置いといてくれ」
と、メイドを労うとレオンハルトの視線は書類に戻った。
メイドは二~三秒レオンハルトを見つめてからはっと自らの役目を思い出したのか、失礼しますと部屋を出ていった。
学生生活と国を担う王としての二面の生活ではあるが、レオンハルトはそれほど苦と思わなかった。
筆を持ちながら前世の記憶を辿る。
レオンハルトの脳裏にはとある言葉が浮かんだ。
『強い国を作る』
前世の、政治家だった父の言葉が転生した今も尚レオンハルトーー美樹の心には強く根付いていた。
大学受験に失敗し、一流を落としたものの滑り込みで入ったのは一流とは言えないものの名の通った大学だった。
父と母は一流大学の受験に失敗した美樹を叱らず、
『それがお前の人生ならば私達から言うことはない。後悔ない様に好きに生きなさい』
と、美樹の肩を押してくれた。
優しかった父と母。
愛しき梨乃が亡くなり塞ぎ込んでしまった美樹を見ても両親は『自分のしたいことをすればいい』と優しく告げてくれた。
すぅっと短く息を吐くとレオンハルトの口は言葉を紡いでいた。
「親不孝な娘でごめんなさい。私はこっちの世界で生きていきます…お父さんお母さん、長生きしてね。」
それは前世の両親への謝罪と感謝の言葉だった。
誰もいない方向へ言葉を投げると、美樹ーーレオンハルトはまた筆を動かし始める。
が、徐々に近づく慌ただしい足音と共に部屋の扉がノックされ、返事も待たず開かれた。
筆を止め、そちらに向くと近衛騎士団の者が慌てた様子で口を開く。
「陛下、執務中失礼します!今しがたセンティス伯家の騎士ジョセフ・ナイトランド卿が訪ねて参りました。ナイトランド卿は『我が主がこれより謁見に参る。国の一大事だ、来たらすぐ謁見出来る様に伝えてくれないか?』と仰っております。如何しますか?」
国の一大事という一文がレオンハルトの脳裏を掠める。
何より同じ元日本人のリリアナの遣いである。
いつでも城に訪ねて良いと彼女には伝えてあるのだが、此方が呼び出すまで足を向けようとしない彼女が国の一大事と態々最大戦力であるジョセフを送り込んできたのだ。
きっと何かあるに違いない!
レオンハルトはそう確信し、中年の近衛騎士に声を掛ける。
「ナイトランド卿はどこに?」
「はっ!只今応接室にて休まれております。」
「案内してくれ、私が直接話を聞こう。」
「畏まりました、此方です!」
レオンハルトはスッと立ち上がり案内する近衛騎士の後を歩いた。
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私とキャサリーヌを乗せた馬車は貴族街の奥、王都の中心に聳え立つ王の居城、スフィア城へと辿り着く。
センティス家の家紋を見た門兵が馬車内を確認する。
私は貴族章を見せ応対すると兵士が門上の兵士に声と手を上げ合図するとガラガラ音を立て門が開く。
開き切るのを見終え、御者に指示を出すと馬車はゆっくりと進み始めた。
馬車が停まり降りるとジョセフと一人の騎士が立っていた。
真っ白な鎧を着込み剣を携え仁王立ちする姿は強者としての矜持と自信に満ち溢れているようだ。
年の頃はジョセフと同年代で私が近付くとジョセフは片足を着き頭を下げた。
「出迎えありがと、ジョセフ。この方は?」
「はっ、王城の近衛騎士団長のアレクシオンでさ。俺の同輩で苦楽を共にした仲なんでさ」
普段の口調と丁寧口調が混ざって変な言葉遣いになっている。
「アレクシオンと申します。センティス伯爵様のことはジョセフから伺っております。キャサリーヌ嬢もどうぞ中へ、謁見の間までお送りします。」
近衛騎士団長アレクシオン。
私が調べた限り、ジョセフ、【剣聖】メルトリア伯爵家当主バルムンクと同等の強さを持つ王国最後の防壁だ。
この三人は王都にある軍学校の同期で三人揃って一位という偉業を残している。
初めて会ったが、その身のこなし、所作、どれを取っても隙がない。
頭の中で模擬戦をするイメージを浮かべるが勝率は三割だろうか。
ジョセフで四割なので勝てないことはないだろう。
そんな事を考えながら歩いていると謁見の間の手前の部屋に通される。
「既に準備は出来ております。センティス伯爵様が宜しいならば扉を開けますが?」
「キャサリーヌ、良い?」
「此方も大丈夫ですよ、お願いしますわ。」
と、キャサリーヌが答えたのを聞きアルトリオが扉を開いた。
さっさとレオンハルトに会わせろと目で訴えるキャサリーヌを横目に私は開かれた扉を進み中に入る。
中には玉座にレオンハルト、その横にはアンちゃんのお爺さんで宰相のソラージュ侯爵が立っており近衛騎士が数人、他には人もいない。
ジョセフが説明を先に済ませていたからか、大臣級の貴族や関与していると思われる人物を予め人払いしているのだろう。
レオンハルトの前に膝を着き声が掛かるのを待つ。
「面を上げよ。」
レオンハルトの高い声が謁見の間に響く。
二度目の言葉で顔を上げるとレオンハルトはにこりと微笑んだ。
「楽にしてくれ。ナイトランド卿から様子は伺っているが、詳しい話を聞かせてくれないか?」
「詳しくはナランシア家令嬢キャサリーヌよりお話します。」
私は視線だけでキャサリーヌを見る。彼女も心得ているとばかりに一つ頷いた。
「はっ、以前より町に流れていた噂を調べていると、多くの大臣や下級貴族が関与していたを確認しました。更に様子のおかしかったパーシアス公爵家を調べているとバルッセ公国人を発見し尋問、我がアムスティア王国を乗っ取る為の下準備だと吐きました。内部からの侵食を失敗した公国は我が国へ攻勢を仕掛けてくるでしょう。」
レオンハルトは一度頷くと私の方へ視線を向ける。
下唇を尖らせているのは前世で困った時や考えている時の癖だろう。
今世でも直ってないのか。
「なるほどな、キャサリーヌ嬢、誉めて遣わす。流石は王家の耳だ。さてセンティス伯よ、そなたが来たのは他にも理由があるのであろう?」
「ええ、我が祖父アンディ・アルデン魔法大臣が首謀者との事ですのでこの手で捕らえ審議を確認したくございます。更に関与した貴族のリストをキャサリーヌ嬢が纏めましたのでそれらを捕らえる用意も。その際幾人かの近衛騎士をお借りしたいのです。」
「そうか…すまない、余が不甲斐ないばかりに…そなたには苦労を掛ける…」
レオンハルトは悲しそうな顔をして私を見ている。
そんな目で私を見ないで。そう念じながら私は口を開く。
「良いのです、陛下。頭をお上げ下さい。身内の恥はこの手で灌ぎたいのです…!私が戻ったのち領地のセンティス騎士団を総動員し北へ進軍致します。陛下は前準備などをお願いします。」
私も演技が上手くなったもんだ。他人から見たら私は悔しそうな顔に片目から一筋の涙を流しているように見えるだろう。
「……分かった。センティス伯に全て委ねよう。気を付けてくれ。アルトリオ、直ぐに近衛騎士の手配を。宰相、直ぐにエンディミオン公とジェネシス公を呼び寄せよ。これより北方防衛戦の準備を開始する。」
レオンハルトに一礼し、近くに立っていた宰相にアンちゃんは無事だと伝えると私は謁見の間を出る。
ジョセフと並走するアルトリオを引き連れそのまま実家へと向かう。
キャサリーヌはジョセフの背中にしがみついてる。
鍛えられた脚力と揺れに少し悲鳴を上げたがそれも長くは続かず平然としていた。
強いな、この子。順応力が高すぎる。
「見えた、行くよ!ジョセフは伝えた通り屋敷に戻ってホセに報告。そのまま北へ向かって貰って!」
「了解でさぁ!」
こうしてアムスティア王国とバルッセ公国の戦争の燻っていた火種が弾ける。
その初戦として私は実家の敷地内へ足を踏み入れた。




