パーシアス家
遅くなりました。
本業の方が忙しくあまり執筆時間が取れず、更にミスをして投稿前に原稿を削除してしまうという行為によってやる気が削がれました…
少し更新ペースを落とします。
一月~三月は火曜日の周一更新とさせていただきます。
特訓二日目は滞りなく順調に進んだ。
特訓後の夕暮れ私は執務室に居た。
マリアンヌ・ゲース。
彼女の体質は少し異質だ。
今日も他の五属性は発動しなかった。
色々な方法を試してみたが、上手くいかず彼女専用の魔導具を作った方が早いかも知れないという結論に到った。
それか私が一ヶ月付きっきりで魔法を鍛えるという手段もあるが、出来ればその手段は取りたくない。
考え事をしていたが、やっていたことを思い出して羽ペンを持つ。
現在私がやっているのは委員会メンバー、一人一人の練習メニューのチョイスである。
監督役のジョセフやホセ、パルメラ、レオパルドに進捗具合を確認しつつ調整しているのだ。
私の家臣には魔法が得意な人材が居らず、各属性は私を含めルルとイシスちゃんで見ている。
適性のある武器や属性はやはり成長度合いが早く教える方も楽しい。
いずれ皆にはそれぞれの得意な武器、魔法を教え合ってもらい弱点や短所を減らすつもりだ。
「ふぅ…」
それから一時間、私は十人分の特訓メニューを書き終えて羽ペンを置いた。
同じ姿勢で居たからか、身体が凝り固まっている。
「くぅ~…!」
立ち上がり腕をグッと伸ばすと自然と唸り声が漏れた。
収縮した筋肉が引き伸ばされ歓喜の声を上げてるかの様な錯覚を覚えつつ、私は木刀を手に部屋を出る。
やはり私は頭脳労働よりも身体を動かしていた方がしっくり来る、軽く汗をながして休むことにした。
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二時間後、あまりに集中しすぎてしまった為か、すっかり日が落ちていた。
「お姉さま、そろそろ屋敷に戻られては?あまり根を詰めすぎますと春先とはいえ風邪を引かれますよ!」
後ろから声が掛かって振り向くとモガがタオルを持って居た。
「ありがとう。そろそろ終えるつもりだったから丁度良いや!モガ、ありがとね!」
「ふぇっ?!い、いえ、私はただお姉さまの役に立ちたいだけで…あう~…!」
モガにお礼を言って頭を撫でてあげると嬉しそうに目を瞑り唸り声を上げる。
モガも特訓に参加しており、主に暗器と闇魔法を教えている。彼女の適性…というか原作での設定は密偵…それも忍者の様な役割をしていた。
ゲームが中盤に差し掛かると報酬を代価にヒロインの情報を収集し、主人公に教えるというシステムだ。
モガのルートでは
普段は姉に使える毒舌で物静かなメイド。
しかしその裏の顔は私腹を肥やす貴族や商人の屋敷へ侵入して金目のものを盗む義賊をし、孤児院へと配っている怪盗マルセイユ。
マルセイユの話を聞いた主人公が興味を持ち、次の標的と噂される屋敷の裏で張り込んでいた主人公がメイド姿のモガと偶然鉢合わせし…
という感じで話が進んでいき、そこから関係を築いていくのである。
話が脱線した。
とにかく、私はモガを労いたい気持ちでいっぱいだった。
午前中はメイド見習いの仕事をこなし、午後私が帰宅すれば、委員会の特訓に付き合う七才にもなっていない少女を。
「今日も一日お疲れ様。久しぶりに一緒にお風呂入ろっか?」
「ぴゃっ?!良いんですか!でへへー、お姉さまとお風呂嬉しいですー!それこそ、今日の疲れが吹き飛んじゃいますよぉ!」
奇声を上げ驚くモガはにやにやとだらしない顔をしている。
モガの右手を掴み屋敷へ向かい浴場へと向かった。
途中で会ったメイドに木刀を手渡し脱衣所で服を脱ぎ、籠へ入れると私はお湯を頭から被る。
モガや他のメイドが予め用意してくれていたのか湯加減は丁度良い。
モガはまだ顔に水が掛かるのが少し怖いのか恐る恐るといった様子だ。
それから新商品の香り付き石鹸でお互いの身体を洗い合うとゆっくり湯に浸かりモガと沢山話をした。
失敗談や嬉しかったこと、兄のポロやマシューが些細なことで喧嘩した等々、色々な事をモガはコロコロ表情を変え話してくれた。
私は学園で起きた事などを話すとモガは目を輝かせていた。
「学園に行きたい?」
「出来ることなら行ってみたいです!でも私は平民だから…」
「じゃあ学長に相談してみるかな。従者一人くらいなら入学テストしてくれるかも。」
原作でもモガは学園に通っていたので心配してない。
むしろ貴族のみが学ぶという事が私は間違っていると考えている。
私の領内には平民用の学舎もあるし。
「あの!あの…!お姉さま!本当にありがとうございます…!私、やさしいお姉さまの事大好きですっ!」
胸の前に手を組み上目遣いでモガはそう言った。
くっ…これがメインヒロインの一人のうちの満面の笑みか…!
「そ、そろそろ上がろっか。明日も早いしこのまま話していると逆上せちゃうよ?」
「あ、ごめんなさい!お姉さまと話していると時間が経つのがあっという間です。また今度話してくれますか?」
「もちろん。私もモガと話すのは楽しいから。」
私はモガの頭を拭いてやり温風の魔法で乾かしてあげると自分も乾かしてベッドに潜り込んだ。
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翌日。
一日の授業を終え、委員会メンバーを正面玄関で待っていた私は、全員集まっている中姿を見せないユグドラたんを待っていた。
「うーん来ないねー…?サレナちゃん、何か知ってる?」
「いや、途中まで私と一緒に来ていたのだが…忘れ物を取りに行くと言って別れてからは分からないな。とっくに戻ってきて良い筈なのだが、遅いな。」
「うーん、そっかぁ…」
同じクラスのサレナちゃんに尋ねるもそれしか知らないらしく、芳しい答えは帰ってこない。
このまま待ってても仕方ない、か。先に皆を訓練所へ送って私が待とうかなと思っていた矢先校舎の方から声が聞こえた。
「ーー!ごめん、皆!私も忘れ物したから先に行ってて!少しユグドラちゃんも待ってみる。」
「そうですか?分かりました。では皆さん行きましょう!」
レインが私が何かを感じたのを察したのか、皆を先導するように告げる。
目線で目礼して私は見届けることなく駆け出した。
新たに開発した魔法を発動する。熱源察知である。
蛇のピット器官という感じではなく、最新かは分からないがサーモグラフィーの様な感覚で色を識別し判断する魔法だ。
すでに放課後なので校舎内には疎らにしか人は居らず、私は迷いなく一番近い熱源へと近付く。
二階の廊下に差し掛かると目的の人物がそこに居た。
「リリアナ、助けてくれ!クソッ、離せ!」
「駄目ですよ、お嬢。私はパーシアス公から直々に仕事を受けているのでその命には従えません。」
ユグドラたんが、武官に両腕を掴まれ連行されるところに通り掛かり、助けに入ろうとするも入り難い。
私の感情を優先するならば今直ぐにでもユグドラたんを助けに入りたいのだがパーシアス公直々の命令ならば私の入る隙はない。
ここは見送り後から事情を伺うのがベストだ。
後々面倒な事になるくらいならば、陛下の後光を頼りに助けた方が楽だ。
ユグドラたんとレオンハルトは従兄弟なので話は通りやすいことを瞬時に計算し、私はユグドラたんに「大丈夫、直ぐに迎えに行く」と目線で伝え連行されるユグドラたんを見送った。
爵位の劣る私では縁が深いとはいえ、公爵家のお家事情には首を突っ込む事は出来ない。
ユグドラたんもそれを分かってくれているのだろうか、下唇を噛み何度もごめんと声に出さず口を動かす私を見て、一度頷くと連れ去られるままに着いていった。
私はそれを見送ると野良馬車(タクシー的なやつ)に乗り王城へと移動しレオンハルトに謁見を申し込んだが、ウン悪く今日の予定は埋まっており明日以降になってしまったので、少し落ち込む。
毎日クラスで顔を合わせているとはいえ、二週間以上経った今ではレオンハルト親衛隊なる派閥が出来上がっており近付くに近付けない。
レオンハルトを頼らず私の持つ人脈(ジェネシス(リビーの実家)家やエンディミオン家(ルルの実家))を頼ることにした。
同格ならば少しは情報などを得る可能性は大いにあるだろうと見込んでの決断だ。
私は勝手の効くジェネシス家へとそのまま足を運び、現在帝国へと進軍する将として出張っている当主ではなく、約二年ぶりとなるジェネシス家の執事でリビーの祖父である執事セバスティンにパーシアス家の事を何となく聞いた。
すると約一年共に過ごし有能であると確信しているセバスからはこう返ってきた。
「パーシアス家の当代様は家族思いで心配性な性格をしております。もしかしたら帰宅の遅い娘様を心配し、感情が逸ったのかと愚考します。」
ふーむ。確かに私の持つ情報でも当代、つまりユグドラたんパパは心配性で何かに付けてユグドラたんの動向を気にする人だ。
私が無理矢理入れてしまい心労を増やしてしまったのかも知れないと考えると少し心が痛む…
それこそ、寄子の男爵家や子爵家の子弟にユグドラたんの一日の行動を報告させているという情報まで私に届いていた。
ユグドラたん自身は知らないのかそんな話を本人から聞いた事が無かった。
私は不思議がりつつ、久方ぶりにリビーと夕食を共に取って私は帰路についた。
翌日の放課後から一週間、ユグドラたんは姿を現さなかった。
それと同時に一つの噂が学園内を駆け巡る。
『センティス卿とパーシアス家令嬢ユグドラが陛下との婚約最有力』という噂だった。




