レオンハルトとアン
キャサリーヌを連れ皆の待つ大部屋へと移動する。
キャサリーヌは下を向きながら無言で着いてくる。
「どうしたの?キャサリーヌさん。皆の所に着いてもそんな態度じゃ変に思われるよ?」
「うるさい…戻ったら何とかする。いや、フィーネたちを連れて今日は帰るわ。とても紅茶を楽しめる気分じゃないから」
「そう…凄く残念。馬車を用意しておくから乗って行って?」
私は部屋の前まで案内すると一階へ馬車の手配を頼んだ。
もっとお話したかったのになぁ。
大部屋に戻るとレイン達は楽しそうにお菓子を頬張っていた。
私に気付いたのか、金のドリルヘアを揺らしながらレインが扉の方へ駆けてくる。
うん、可愛い!
「リリー、遅かったですね?何をしていたんですか?」
「キャサリーヌさんの体調が優れないみたいだから馬車の手配をしてたの。改めて入学祝いをしよっか?今日は私の奢りだから好きなだけお菓子食べて良いよ!」
「プリン…食べ放題…まさに、天国!」
「アン、あまり食べ過ぎちゃダメだよ~?」
「あら、タニアさん。貴方もそう言いながら両手に持っているマカロンは何かしら?ご丁寧に指の間に挟んで八個も独占しているけど?」
「うっ…こ、これは…」
「まぁまぁ、めでたい日なんだし細かい事は良いじゃん。ルルはもう少し食べた方が良いよ?」
紫紺の長髪を揺らしながらタニアちゃんに毒づくルルを一蹴し、私は席に着く。
「キャサリーヌさん、馬車は間もなく来るから店員が呼びに来るまではゆっくりして行ってよ?」
「あら、お心遣いありがとうございます!それではお言葉に甘えさせて頂きますね?」
おぉッ… 見事な猫被りっぷりだ…私も人の事は言えないのだが。
やっぱり私とキャサリーヌは似ている表面的な部分じゃなくて根本から一緒だ。
「フィーネさん達も楽しんでる?好きなだけ食べて良いからね!」
「あ、ありがとうございます!私達までお声掛け頂いて…何とお礼を申し上げたら良いか…!」
「あはは、そんな畏まらないでよ!これから一年間同じクラスなんだし敬語は止めよ?」
彼女達が畏まるのも分かる。
本来貴族家当主とその子息令嬢とでは身分が雲泥の差だ。
だが私は態々そんな垣根を作りたくない。
純粋な級友として接したいのだ。
「ああ、リリアナ様…!なんてお優しいお方!ありがとうございます!」
「あはは、だから様も敬語も要らないってば!」
私は肩に触れ優しく撫でた。
少しうっとりした表情をしているのが気になるがまぁ、大丈夫でしょう。
会話が終わるとタイミングよくノックが響き馬車の到着を報せた。
キャサリーヌとフィーネ以下六名が退室し、広い大部屋には私達五人だけとなった。
「ねぇねぇリリーちゃん!そういえば委員会ってもう決めたの?」
紅茶を一口含み喉を潤している私に斜め右に座っていたタニアちゃんから声が掛かる。
「うーん、まだ決めてないんだよねー。タニアちゃんや皆は?」
「「「リリー(ちゃん)と一緒にする(します)(するー)」」」
oh...やっぱりそう来たか…。
唯一無言を貫いたルルを見ると彼女は承知とばかりに口を開く。
「私はパスよ。委員会活動なんかより研究の方が百倍マシ。今も直ぐに店を飛び出して魔法研究をしたいくらいなんだから。同志に怒られたくないから我慢はするけど。」
「じゃあ尚更一緒に委員会やろうよ!研究室も借りれるし、好きな時間を自由に使えるよ?」
「分かったわよ。同志ってば口説き上手ね…何度説き伏せられた事か…はぁ…」
何故ため息を吐くんだい?ルルさんや。
そんな自覚はないんだけどなぁ。
「リリー、まだ決めてないのは何か理由があるんですか?もし良ければ教えて下さいませんか?」
「一応二つに絞れてるんだけど、実は自分で委員会を作ろうかなぁーって」
「委員会を作る?それはどういう事ですか?」
「ほら、私達の年齢の学生って戦う術を持ってないでしょ?魔物が跋扈する世の中で自身の身を守れないのはどうかなって。委員会というより部活動に近い感じかな?ほら、私の身近には王国最強の騎士も居るし。」
うん、ジョセフを王都に呼び出して生徒達に指導を頼むのも悪くはない。
彼なら嫌な顔せず請け負ってくれるだろう。笑顔で悪態の一つは吐くだろうが、子供好きだし結構向いてるかもしれない。
私がやろうとしているのは、要は戦力増強だ。
未来の冒険者育成と精々身の回りの大切な人を守れるくらいの力を付けて欲しい。
それが回り回って私に利益を返してくれる。
そう信じての提案だった。
「あら、面白そうね。同志って突発的な提案が多いけど、結構回りも見えているのね?そういうところ尊敬に値するわ。」
「面白そう~!はいはいー!私もやるー!」
「リリー、貴方は…」
「あはは、私に出来る事は少ないけどやるからには徹底的にするよ?その為には色々と動かなきゃ。リアスティーナ学長、許可くれるかな?」
笑顔で快諾してくれるリアスティーナの顔を浮かべた。
その時今日は普段より良く喋るアンちゃんが口を開く。
「そういえば、リリーは王家の方々と仲が良い。この前お爺様からリリーとレオ…レオンハルト様が仲が良いと聞いた。本当?」
宰相を祖父に持つアンちゃんから突如そんな事を聞かれる。
あー、確か噂を流していたのって王国上層部だっけ?
キャサリーヌから聞いた話が頭の中で反芻していく。
「うーん、王家の人たちと仲が良いって言っても、会った事があるのはリアスティーナ学長、レオンハルト陛下、ナナリアくらいだしなぁ…まぁ、リアスティーナ学長とナーナとは仲が良いのは否定しないけど。」
「むぅ…そっか。レオとは何もない…か。」
あ、そういえばアンちゃんは宰相のお爺さんの関係でレオンハルトとは幼馴染みなんだっけ?
原作でアンちゃんルートに進むとレオンハルトが婚約者にーーって話が出て来たような。
宰相のお爺さんが暴走して王家との繋がりを深くしたいと画策して…という感じだったはず。
「そっか、アンちゃんはレオンハルト殿と仲が良いんだっけ?」
「ん。あいつは良い奴だけどたまに何を考えてるのか分からない。好きでもないけど嫌いでもない。」
なるほど、普通の幼馴染みといった感覚か。
「実はねーー」
私はキャサリーヌから聞かされた事を親友達に語る。
もちろん、ナランシア家の家業は内緒で私とキャサリーヌが協力関係にあるのも内緒だ。
「上層部って…まさかお爺様が?」
「いや、多分それはないと思うよ?心配なら宰相殿に直接聞いてみるといい。アンちゃんをレオンハルト殿の婚約者にって考えてるんじゃないかな?」
「ヴェッ…?!ゴホッゴホッ…リリー…冗談も程々にして…!」
アンちゃんがプリンを喉に詰まらせ頬を膨らませる。
控えめに言って可愛い!
じゃなくて…そっか、別の世界線の話になってる可能性もある。
アンちゃんには別の婚約者が将来出来てレオンハルトも別の女性と結婚する。
むぅ、よく分からないなぁ…
誰が噂を流したのか、それを調べないといけないな。
その日は日が暮れ始める時間帯まで語らい実家に帰ろうとしないルルを不承不承連れて帰った。




