サブヒロイン祭
ガララッと音を立て引き戸が開く。
桃色の髪を揺らしあどけなさを残した妙齢の女性が教卓の前に立つ。
私は知っている。
というか、原作のサブヒロインだ。
ミュウ・マレックス。
主人公の担任で生徒達を癒す優しい先生だ。
彼女の背景設定は凄く悲しみに溢れているのだが、今は割愛させて頂こう。
「はーい、静かに!皆さーん!初めまして!今日から皆さんの担任になるミュウ・マレックスと言います!一年間宜しくお願いしますね!」
黒板の方へ振り向き、自分の名前を書き始めるミュウ先生。
そして誰もがその時悟ってしまった。
誰も言い出す気配はない。
仕方ない…私が!
「先生!非常に言いにくいのですが、スカートの裾が下着の中に入ってますよ?」
「え、嘘?!きゃあ!見、見ないで~!」
そう、ミュウ先生は天然なのだ。それも超の付くド天然だ。
私が指摘しなければ彼女は今日一日痴態を晒し続けていた事だろう。
これから一年間、先生の天然に付き合わされるのかと思うと少し不安だ。
確かリアスティーナと同級生だったから卒業して一年目か。
まだ学内の仕事に慣れず気が緩んでいるのかも知れない。
天然な所を除けば凄く優秀な先生なのだが…
「先生、私は陛下や他の男子生徒の居るこのAクラスには先生は不釣り合いかと思います。クラス担任の割り振りはどなたがされたのでしょうか?」
おや?キャサリーヌ嬢がミュウちゃん(ゲーム内では親しみを込めちゃん付けする)に噛み付いたぞ?
確かに天然なミュウちゃんを見て不安を覚えるのは仕方ないが、こう見えても主席卒業者だぞ?
ミュウちゃんも片手を頬に宛て困り顔をし始めた。
「あらあら…困りましたねぇ。私をAクラスに配属したのはリアスティーナちゃんなんだけど…どうしましょう?」
リアスティーナが犯人かい!
まぁ、親友だって設定だし、リアスティーナを抜いて主席で卒業したのだから私としては異論はないのだが。
そこでミュウちゃんに助け舟が出される。レオンハルトだ。
「キャサリーヌさん…だったかな?マレックス教諭の事は私も存じている。姉上の親友であり王国一の才媛と聞き及んでいる。意見を述べることは立派な事だが、もう少し下調べをしてはどうだろうか?」
「グッ…申し訳…ありません…」
悔しそうに下唇を噛み頭を下げたキャサリーヌ嬢。
そして何故か私を振り返り睨み付けた。
何故?ワッチュ?
「レオ君、先生を庇ってくれてありがとう。ナランシアさん、先生怒ってないからこれから宜しくね?皆も宜しくぅ!」
にぱぁ!と笑いホワホワオーラを撒き散らすミュウちゃん。一先ずこの件は無事に終わったか。
「それでは皆さん自己紹介をお願いします。そうですね、レオ君からどうぞ!」
仕切り直しと言わんばかりに自己紹介が始まる。
指名されたレオンハルトが立ち流れを作る。
「レオンハルト・アムスティアです。学園内ではただのレオンハルトとして扱って頂きたい。一年間宜しくお願いする。」
まぁ無難な挨拶だね。
私も無難に済まそう。
というかこの順番で行くと一番最後なんだよね…
何か今日一日注目を集めてばかりだな。
あまり目立ちたくはないのだけど。
そんなこんなで私の前に座るアンちゃんがおわって私の番だ。うーん…普通で良いかな。
「私はリリアナ・アルデン・センティスです。一年間どうぞ宜しく。それと学園の正門を出て正面に私の経営するリモーネ商会が手掛けたスイーツショップが近々開店するのでご贔屓に。以上!」
ちゃっかり宣伝も兼ねて告げたが、クッキーやケーキ、ドーナツ、プリンを扱うスイーツショップを来週末辺りからオープンするのだ、級友達の食い付きも様々で評判は良さそうだ。
プリン狂いのアンちゃんや、来年入ってくるリビーにドーナツを素早く提供するためだが、私自身がそこでお忍びデートをしたいためである。
内装はテイクアウト専門なのだが、一部の常連のみ二階席を利用出来る様にした。
もちろんオーナーの私はいつでも使える。
色んな人に美味しいお菓子を味わってもらいたいし、実は今回オープンするのは二号店なのだ。
半年ほど前に領都マルセムに出して中々好評価を頂いていて流行りに機敏な王都の人達にも受けるのは想定済みだ。
もういつでも開店可能な状態で今日も放課後に行く予定だったので菓子の準備もできてるはずだ。
折角だしキャサリーヌ嬢も連れて行こう。
「では本日はここまでです。明日から通常授業なので遅刻しないように!それじゃまた明日ね~!」
ミュウちゃんのふわふわした挨拶を受け教室を出る。
当然、キャサリーヌ嬢が立ちはだかる訳で…
「リリアナさん!お話、良いですね?」
「うん。あ、でもここじゃ何だし私のお店に行かない?完全個室で防諜対策も万全なんだけど。」
「ムッ…それでは折角なので同伴します…。」
キャサリーヌちゃんってなんか生真面目な対応なんだよねー。
何て言うか原作との差異?違和感?を感じるというか。
まぁ、考えても仕方ないのでレイン達に声を掛け、キャサリーヌの取り巻き達も引き連れまだ開店していない私のお店に入る。
「こんにちは。内装、とても綺麗に仕上がってるね!」
「これはこれは、センティス伯爵様!お待ちして居りました!どうぞ、二階は此方から上がれます。」
店長を任せているマルセムから引っ張ってきた菓子職人に挨拶をして二階に案内してもらう。
部屋は大部屋が二部屋に小部屋が三つ。
王都でも学園の目と鼻の先にあるのでとても地価が高かった。
よく空いていた物だと自分でも感心する。
レイン達を大部屋に通し、私はキャサリーヌと個室へと入った。
一人掛けのソファーに低いテーブル。
人をダメにするタイプの低反発かつふわふわなソファーである
魔石研究によって属性付与に成功し、防音と空調に成功した快適な室内。
驚き呆然とするキャサリーヌに私は声を掛ける。
「気に入って貰えたかな?」
「えぇ、えぇ、勿論よ。こんな快適な空間、生まれて初めてだわ!只々驚いてばかりよ…!」
「それは良かった。さぁ、飲み物とお菓子をどうぞ?大丈夫、毒なんて入ってないからそんな顔しないでよ?」
テーブルに置かれた様々な菓子と紅茶を訝しげに見つめるキャサリーヌ。
毒味とばかりに私から手を付けると不承不承ながらも手を付け始めるキャサリーヌに安堵のため息を吐く。
「美味しい…!」
「でしょ?一応茶葉や素材にはこだわっていて最高級のものを使ってるの。気に入って貰えたならよかった。」
緊張感が弛緩していくのが肌で感じられる。
うん、そろそろ本題を聞こうかな。一息吐いて頃合いだろう。
「キャサリーヌさん。それで話って何かな?」
「えぇ、そうでした。実は…レオンハルト様の事なのですけど。」
ん?レオンハルトの事を私に話す?どういうことだろう…?
「ちょっと待って?どうして陛下の話を私に?直接陛下に伝えれば済むのでは?」
私がそう伝えるとキャサリーヌは首を振った。
「リリアナさんも関係することなのです。今、王都内でこんな噂が流れています。近々レオンハルト様が婚約者を発表する。その相手がリリアナさんだ、と。その噂を流しているのがどうやら王国上層部ではないかというのも私の調べで分かりました。」
私はその話を聞いて空いた口が塞がらなかった。
数秒間の思考停止と共に口を出たのは言葉ではなく呆れと困惑だった。
「ハ?……ハァ??!」
今年も残り一ヶ月ですね。
二月に連載を始めたこの作品ももう十ヶ月近くとなります。
これからも応援宜しくお願いします!




