主人公の本気、聖女の快楽
前回の続きです。
マシューとサレナちゃんが中庭で木剣を構え対峙している。
能力的には互角、マシューより二歳年上のサレナちゃんが少し優勢と言ったところかな?
「マシュー殿、先手は譲ろう!何処からでも打ってくるが良い!」
「ふぇ~…僕、女の子とは戦いたくないんだけどなぁ…」
「なっ!私を女の子扱いだと…?!クッ…こんな屈辱初めて受けた…!」
あ、マシューの天然ジゴロが発動してる。
サレナちゃんは顔を真っ赤にして照れを隠す様にマシューへ向けて駆け出し上段から振り下ろす。
それをマシューは剣の腹で受け耐えるとそのまま膂力に任せ、弾き返した。
「だってそうじゃないですか!僕は死んだ父から習いました!『女の子に剣や拳を振るう様な男にはなるな、守ってやるのが真の男だ!』って言われて育ったんです!例え試合形式だとしても…!僕はそんなことしたくないんですよ!」
「ふざけるな!マシュー殿は私が剣を交える資格がないと言いたいのか?私が…私が女だから…!」
怒りで動きが単調になり始めたサレナへ向かってマシューは避けるか、剣で受けるかしか選択しない。
でもその理論って私は例外なのかな?
よくマシューに稽古を付けるのだが普通に剣を振ってくる。
あれ…?私ってマシューの中で女にカウントされてない?
「だから…!」
「ッ!!」
「こんな無駄な争いは止めましょう?僕達は手を取り合えるんです。争う理由なんてありません!」
マシューはサレナちゃんの剣を弾きバランスを崩した瞬間を狙いサレナちゃんを抱き止める。
あれ?これ見たことあるぞ?
サレナちゃんルートのラストシーンの台詞じゃないかな?
何度もマシューに負けて、自分の価値が分からなくなり、精神的に弱くなった心の隙間を悪魔に取り付かれたサレナちゃんがマシューに挑んで相手にされず、ヤケクソになって戦いを挑むけど勝てなくて悪魔を追い払うためにマシューが告白するって感じのシナリオでその最後に今の台詞をマシューが言うんじゃなかったかな?
ちょっと本気出しすぎじゃない、マシューさん?
「ウッ…は、離せ!私はまだ戦える!勝負しろ!」
「離しません。その剣を捨てるまでは!」
あー…止めた方が良いのかな?
でも良い感じの雰囲気だし…
悩ましいな…
「わ、分かった…私の敗けだ!あっ…!」
「ゴフッ…」
暴れるサレナちゃんの拳がマシューの顔面にクリティカルヒットしマシューは抱き着いたまま気絶する。
「こ、これはマシュー殿が私を離さないから…リリアナ殿、私を見てくれるな…!恥ずかしくて死にそうだ!貴殿は弟にどんな教育をしている!こんな辱しめを受けたのは初めてだ…」
「うちのアホがすみません…けど、こういうヤツでして…」
私はマシューに武芸や魔法しか教えてないのだ。
そういう貴族男子としての教育や知識などはマシューの実母に文句を言って貰いたい…
「あー、お口直しと言ってはなんだけど、私と試合する?ほら、マシューが迷惑掛けたし。」
「うぅ…なんか思っていたのと違う~…もう良い!…おうちに帰る~!!」
そう言って木剣を投げ捨てサレナちゃんは正門の方へ走り去っていった。
子供っぽい口調のサレナたんかわゆす…!
私は地面に倒れるマシューの頬を叩き気付けする。
「う、う~ん…」
「さっさと起きなさい、このバカ!」
「姉さん?僕は一体…サレナさんと試合してて…思い出せない…」
「とりあえず、風呂に入ってきなさい。もうすぐ夕食だから。私は少しパルメラの所に行って汗を流してくるから留守番頼んだわよ?」
「分かった。」
私はマシューを見送ると敷地内にある鍛練場へと向かい歩き始めた。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
時刻は夕暮れ。
わたくしさまは未だにリリー様の放置プレイを堪能していた。
ああん、リリー様!
今日も勇ましくて素敵ですわ。
あの柔らかく程よい固さの臀部の下敷きにされる幸福の一時、名残惜しくもリリー様はわたくしさまを放置し出て行かれて数時間、誰もこの部屋には戻ってこない。
あら?
リリー様のメイドがわたくしさまを見ているわ?
どうしたのかしら?
「わたくしに何かご用かしら?」
「あ…えっと、茶器などの片付けをしようと思ってたんですけど、マリアンヌ様はお犬さんの真似ですか?」
確かモガとリリー様は呼んで居たわね、この子。
高貴なるわたくしさまに話し掛けるなんて、中々肝の座った平民じゃないですこと。
良いでしょう、少し暇潰しに付き合って貰いましょうか。
「ええ、そうですわ。確かモガさんと言いましたね、リリー様付きのメイドの。」
「はい、リリーお姉様には良くして貰ってまして。この可愛いお洋服もリリーお姉様が私の為に手縫いで作ってくれたんです!私のことはさん付けなんてしなくて良いです!モガでお願いします!」
「何ですって!」
わたくしさまはモガを睨む。
ヒィッ、と短い悲鳴をモガが上げる。
リリー様に服を作って貰った…ですって?
キィー、羨ましい…!
「睨んでごめんなさい。少し…そう、ほんの少しだけ羨ましかったものですから…」
「羨ましい…?マリアンヌ様もリリーお姉様に服を作って貰いたいんですか?」
「まぁ…そういう事ですわ。あぁ、退きますから茶器を片付けたらどうかしら?」
「あ、すみません。」
わたくしさまの優しさにひれ伏しペコリと頭を下げたモガは、テーブルの清掃を始めた。
わたくしさまは座り腕と足の痺れを解す様にゆっくりと歩きソファーに掛けた。
あぁ、この痺れもリリー様の与えてくれたご褒美…!
幸せですわ…!
「えっと…さっきの話なんですけど、マリアンヌ様ももしかしたらリリーお姉様に服を作って貰えるかも知れません。」
わたくしさまが幸せを噛み締めているとモガが口を挟む。
「何ですって?どういう事ですの?」
「この前、お姉様とお昼寝を一緒にしてたんですけど色んなデザインの服を作りたいから誰かモデル居ないかな~って言ってたんです。身近で拘束時間が長くても文句を言わない人を探してるって」
こ、これは!
わたくしさまにとっては最高の条件じゃないかしら?!
というか、モガ!リリー様と添い寝なんて羨ましすぎますわ!
わたくしさまは勢い良く立ち上がる。
それがいけなかったのかも知れない。
まだ痺れが残っていた足がバランスを崩し、話すために側に来ていた茶器を持ったモガの方へバランスを崩し倒れてしまう。
中身の残っていたティーカップから紅色の紅茶が宙を舞い、わたくしさまとモガの頭の上から降り掛かった。
「キャッ!」
「ご、ごめんなさいですわ、お怪我は無い?へくちっ」
わたくしさまはモガを助け起こす。
その手に持っていた茶器の中身はカーペットに真新しい染みを作っていた。
「いえ、大丈夫です。いけません、マリアンヌ様!直ぐにお召し物を脱いでください。私が替えの物を用意しますので、浴場へどうぞ!」
暖炉を焚いているとはいえ今は真冬。
身体を濡らしたままでは風邪を引いてしまいそうだ。
それはモガも例外ではない。
「貴方も濡れているじゃないの!誰か、居るかしら?」
わたくしさまは扉の方へ声を掛ける。数秒遅れて返事と共に別のメイドがやって来る。
「ご用でしょうか?」
「誤って躓きモガの持っていた紅茶を頭から被ってしまったの。至急二人分の着替えを用意してくださる?」
「畏まりました。」
メイドは恭しく頭を下げると退室する。
わたくしさまはモガの手を引き浴場へと歩き始める。
「一緒にお風呂へ入りましょう。元はと言えばわたくしの不注意です、非礼をお詫びしますわ…」
わたくしさまは歩きながらモガへ頭を下げる。
自分の非礼を詫びる事の出来る人格者。
わたくしさまがリリー様にお会いしてから学んだ事の一つですわ。
「そんな…頭を、お上げください、マリアンヌ様!私の不注意もあります。マリアンヌ様がお風邪を引いてはリリーお姉様にもご迷惑をお掛けしてしまいますし…私が鈍臭いからいけないんです…」
「モガ、自分を卑下にすることはありません。あれはわたくしの不注意よ。風邪を引くのも自己責任、モガは悪くありませんわ。この話はもうおしまい、さ、一緒に湯浴みしましょう」
浴場にたどり着き、扉を開けるとそこにはタオルで顔を拭うリリー様の姿が…!
「リ、リリー様…!」
「あれ?マリアンヌまだ居たんだ?モガも一緒?ん?紅茶の匂い?」
「リリーお姉様、実はーー」
リリー様のレア姿を見て硬直するわたくしさまの代わりにモガが理由を説明する。
なんですの、この不意打ちは?
嬉しすぎて昇天しそうなんですけど?
あぁ、これも日頃のお祈りのお陰でしょうか…リリー様。わたくしさまは貴女様を…!
「んー、まぁ風邪引いてもしょうがないし、一緒に入ろうか?マリアンヌも序でにどう?」
「ふぇ?い、良いんですの?」
「濡れたままじゃ風邪引くし、このままじゃマリアンヌのご両親にも悪いしね。一応沸かしたばかりだし、子供三人なら余裕があるし。」
「あぁ、神よ…ありがとうございます…!」
リリー様の優しさに感謝を…!
もしかしたら、リリー様が女神様なのでは?
ハッ!わたくしさまは世紀の大発見をしてしまったのかも知れませんわ!
聖女であるリリー様こそ、正に神の生き写し。女神様と言っても過言じゃありませんわ!
リリー様とお風呂…?
リリー様とお風呂…!
「えっと…マリアンヌ?」
「ご合伴に与りますわ。はぁ…はぁ…」
「うん、じゃあ先に入ってるから服脱いだら来てよ。モガ、行こ?」
リリー様はモガを連れ先に行ってしまった。
わたくしさまもさっさと服を脱いで入らないと…へくちっ
うぅ…寒いですわ。
「お邪魔しますわ。」
扉を開くとリリー様はお湯を頭から被り身体を清めていました。
「ほら、モガ。目を瞑って?」
「はい、お姉様!」
自分を手っ取り早くこなすとリリー様はモガの髪を洗い始める。
その姿は聖書に描かれた我が子を世話する聖母そのものでした。
尊い…!
「へくちっ」
「マリアンヌ、ボーッとしてないで早く身体洗っちゃいなよ!風邪引くよ?」
「え、えぇ…!つい見惚れてしまいましたわ…!」
わたくしさまはリリー様に促されてきぱきと身体を洗う。
ついつい横目でリリー様に見惚れてしまい洗髪液が目に入る。
「ぎゃー!い、痛いですわ…!」
「ボーッとしてるからだよ!もう…私が洗ってあげるから大人しくしてて?」
と、情けないわたくしさまを見兼ねてリリー様がモガにしていたようにわたくしさまの髪を優しい手つきで洗ってくれた。
身体は自分で洗うとリリー様、モガ、わたくしさまの順で浴槽に浸かる。
あぁ…今日、リリー様にお会いできて幸せですわ。
明日も来ましょう…決めましたわ!
リリアナさま、実は裁縫が得意。
マリアンヌは残念系ラッキースケベヒロインってことで認識してください。
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