マシューの大冒険
前回に引き続きマシューメインの話になります。
物凄い早さで飛ぶワイバーン。
捕まってから約一時間ほど、漸くワイバーンは降り立った。上空二三メートルの所で足を離し、僕は地面に投げ出される。
お尻と背中を強く打ち、痛みに耐え兼ねて擦る。
「痛たた…ハッ!こいつで…!」
僕は立ち上がり、首元の短剣を取り出す。
ワイバーンはゆっくりと旋回し、その場に降り立った。
グルァァァァァ!
威嚇の声を上げ、飛び立つとその鋭く長い爪を立て僕に急降下してくる。
「うわぁ!」
情けない悲鳴と共に奇跡的に回避した。このままじゃ勝てない…何か手はないかな?
周囲を見渡すと大きな洞窟を見付ける。多分ここがワイバーンの巣なのだろう。
もしかすると他に捕まった人が居るかもしれない。僕は洞窟に向けて駆け出した。
洞窟を進むと幾つもの道に枝分かれしており、複雑に入り組んでいた。
後ろから迫るワイバーンから逃げるように細い道を選択し逃げる。
やがて巨体のワイバーンも入れない様な狭い通路に差し掛かると僕はまた躓く。
その拍子に何かを押してしまいカチッという音が響く。
「え?」
気付くと浮遊感を感じ、僕は穴へと落ちてしまった。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
ドンドンという扉を殴る音で目が覚める。
慌てて私は扉を開くとジョセフが焦った様な顔をしており、矢継ぎ早に口を開いた。
「お嬢、ガルガントから伝令が来た!坊がワイバーンに拐われたらしい!見かけたロイが言うには南へ飛んでったらしい!」
「え?マシューが?」
私は突然告げられた言葉に驚きを隠せなかった。南…ガルガントからだとガルム帝国の方向である。
今は休戦中とは言え、無断で入る訳にはいかない。何かないかな?
「お嬢!」
「分かった!ジョセフ、ホセとパルメラ、ジェニーに伝えて10分後にガルガントへ向かうよ!その間ボルトンとバートンには隊の指揮と援軍の準備をさせて!」
「あいよ!」
急がなければマシューが危ない。私はマシューに貰った羽型の首飾りを強く握りしめた。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
「ここは…?そうか、僕は…」
目覚めると真っ暗な場所だった。
転んだ拍子に何かを押してしまい僕は落下したんだ。
段々と目が暗闇に慣れていき周囲の状況を把握していく。
ゴツゴツした足場に大小の岩が転がっている。
とりあえず出口を探さないと…!
壁伝いに真っ直ぐ歩いていく。二又に別れた道を右に進んでいくと今度は曲がり道。それを右に曲がろうとすると何かにぶつかる。
それは僕より小さい人型の魔物だった。手には木で作られた棍棒を持ち、緑色の肌に不揃いの歯、禿げ上がった頭の天辺には短い角があり、口元からは涎を垂らし僕を凝視していた。
ギャギャッ!
高い声を上げ、その棍棒を真上に構えるとゆっくりとした動きで僕に近付く。
それを飛んで避け短剣を構える。
大丈夫、僕より遅い。
短剣を横凪ぎに振り、小鬼の腕から真っ赤な血が飛び散る。
グゲェー!
痛みに堪えかねたのか情けない悲鳴を上げ小鬼は掴んでいた棍棒を投げ出す。
僕はそれを拾うと小鬼の逃げた方向へ歩きだす。
右手には短剣、左手には棍棒を持ち、進んでいくと別の錆びた長剣を持つ小鬼が現れた。
そいつに棍棒を振り下ろし、胸に短剣を刺す。
コヒュッと短い声を上げ小鬼はその場に倒れた。
勝てた!
僕はその長剣を拾い、棍棒を投げ捨て歩きだす。
段々と道幅は狭くなっていき行き止まりになった。
小鬼の流した血はそこで止まっている。
いや、正確には子供が通れる程のサイズの横穴が空いていてその先へ続いていた。
多分ここから小鬼は現れたのだろう。
僕はしゃがみ横穴へと体を押し込む。せ…狭い!
何とか通り抜けるとそこは開けた場所だった。
発光する鉱石、大きな滝、木々が映えており虹がかかり僕は目を大きく開いた。
はっ!こんなところで立ち止まっている訳にはいかない!
先に進まなきゃ!
少し進むと先ほど僕が戦っていた小鬼が倒れていた。
多分血を流しすぎたんだろう。ピクリとも動かない。
真っ直ぐ滝の方へ進むと、見たことのない魔物ばかりだ。
角の生えた兎に、角と羽を生やした馬、緑の粘体生物、赤い毛の熊などが湖の水を飲んでいた。
僕は木に身を隠し、そいつらが去るのを待つ。
喉が渇いたけど、今はあいつらが去るまで我慢だ。
うぅ…お腹が空いたなぁ…
あの兎を捕まえようかな?でも、火がないから焼けない。
仕方ない、果物や木の実を探そうか。
僕は滝から離れ森の中へ足を進めた。
森の中には色んな木の実が落ちていて幾つか果物も取れた。
腹も満たされ滝の方へ戻ると魔物は居なくなっていた。
汗も掻いたし、少し水浴びでもしようかな。僕は服を着たまま湖の中へと侵入していく。
「痛ッ…魚?」
何かに足を噛まれ見てみると鋭い歯をした魚が居た。剣を突き立てると魚は血を流しプカァと浮かんできた。
「うわっ!何だ?」
突然錆びている長剣が光り始める。何で?
『人の子よ』
「え?」
『迷宮に迷いこみし人の子よ、よくぞ私の剣を見付けてくれました』
突然姿を現した裸の女性に声を掛けられる。
この光ってる剣のことかな?
「あなたは誰ですか?この剣の持ち主の方?」
『ええ。私はこの迷宮の主。私の剣を見付けてくれたあなたにお礼をさせて下さい』
「えっと、小鬼から奪い取ったものなんだけど…」
『結果はどうあれあなたはその剣を持ってきてくれました。お礼にあなたに掛かった呪いの解呪とその剣を差し上げましょう』
「え、呪い?」
『ええ、成長速度を人の百分の一にする呪いです。苦労したのでしょう、これからの人生はきっと良いものになるはずです。』
そう告げると僕の額に女性が手を当て、にこりと笑う。
途端に今までが嘘だったかのように体が軽くなり、長剣の錆びは無くなりうっすらと青く光り輝いてた。
『それでは私は去ります。あなたに幸多からんことを』
スゥッと女性が消えていく。
「待って!」
手を伸ばすも何も掴むことなく僕の手は空を切る。
何だったんだろう?
僕に掛けられていた呪い、謎の女性と今も尚輝く長剣。
この一分にも満たない時間で色々あったせいで少し混乱している。とりあえず出口を探さなきゃ!
身体が凄く軽い。それにさっきまでより長剣が軽く感じる。いつの間にか鞘と紐が長剣に付けられていた。
その紐を腰にくくりつける。
何だろうこの沸き上がる力は…!
手をぐっと握り締める。
「あいつは…?」
さっき見掛けた角と翼を持った馬がこちらに近付いてくる。僕は咄嗟に長剣を構えるもその馬は一向に襲い掛かって来ない。
その時不思議な感覚がした。
目の前の馬と何かが繋がる感覚…敵意ではなく僕へと向けられる優しい感情。
馬はその場に足を折り畳み低く鳴く。
「乗れってこと?」
肯定するように首を軽く振る馬に近付き、恐る恐るその背に乗る。
毛並みは白く柔らかくて手触りが良い。
スッと立ち上がると馬は少し助走を付けて飛び立つ。
「うわっ!」
僕は驚きの声を上げながら馬の首にしがみつく。
「どこに行くの?」
どうやら滝に向かってるみたいだ。
えっ?突っ込むの?
馬は速度を下げるどころか、寧ろ加速していき滝へと突っ込む。
「うわぁー!」
全身をびしょびしょにしながらも滝を抜けた先にはそらが広がっていた。
「もしかして洞窟の外?お前すごいな!」
遠くに聳え立つ真っ黒なお城が見える。あれが魔王城ってやつか。
それで日は東から西に沈むから…あっちだ!
「向こうに飛んでくれる?」
ブルル…と小さく嘶くと方向転換し、北へ飛ぶ。
本当に賢い奴だ、僕は馬の頭を撫でてやる。
馬って呼ぶのも可哀想だな…何か名前を付けてやらないと。
僕は何が良いのか悩み始めた。
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