これからの予定とライバル(女主人)
前回手に入れたリザードマン3匹分の報酬を受け取りに、ギルドへ向かう。
・・・前みたいに、いちゃもんをつけられないといいが。
Eランク冒険者がミノタウロスを倒したなんて、信じる方が難しいだろう。
今回はリザードマンだが、リザードマンだって
C級冒険者で倒せるランクと言われている。
そう考えながらも、ギルドの受付へと足を運ぶ。
受付してくれたのは、ノイアだった。
「お疲れ様です、レオハルトさん」
「ああ、お疲れ・・・これが今回の分だ」
リザードマン3匹分の尻尾を受付に置く。
ノイアはそれを見ると驚いた表情をした。
「あ、あの・・・本当に倒したんですか?」
「・・・ああ」
ノイアはこちらの身体を眺める。
傷だらけになった身体、胸の部分にはまだ、包帯が巻いてある。
その格好で判断してくれたのか、何度か頷くと
「なるほど・・・分かりました、では報酬を―――」
隣に置いてある棚から、書類を取り出そうとするノイアの手を、誰かが掴む。
・・・一番最初に応対した女性だ。
「キーファさん、どうしたんですか?」
「あなた、本当に彼がリザードマンを倒したと?・・・それも3匹」
こちらの目を睨んでくる。
その目は、疑いを含んでいることは見て取れた。
「・・・彼は怪我をしています、リザードマンと戦ったという証拠では?」
「Eランクが、リザードマンに勝てると思うの?」
どうやら、疑わずにはいられない人らしいな。
・・・まあ、ギルドの正当性を示すなら、疑う方がいい。
騙して、金をせびる奴もいるだろうし。
俺たちも前は、そう見られたということだろう。
「戦って勝った、正当な報酬要求だと思うんだが?」
「そうじゃぞ、一度死にかけて・・・死にかけ」
あの時の事を思い出したのか、こっちの身体をポカポカと叩き始めた。
「この馬鹿は死にかけたのじゃ!このこの!」
痛くはないが、周りの視線が痛い・・・。
キーファと呼ばれた女性は、こっちを見るとため息をついた。
「あなたも知っていると思うけど、普通Eランク冒険者がリザードマンに
勝つなんてありえないことよ?それも、1匹ならともかく・・・」
それは分かっている。
だが、事実は事実だ。
ドギーかセオドアがいれば証言もしてくれるだろうけど。
「キーファさん、彼はEランク以上の力がある、そうは考えないんですか?」
「この前、田舎から出てきたばかりの冒険者よ?信じられるの?」
「・・・私は信じますよ、嘘をつくような人にも見えませんし」
言い合い一歩手前の空気になってきた。
コトハも殴っている手を止め、その様子を見ている。
「それに、私が受け持ちの仕事です」
そういうと、ノイアは受付にあげられていた尻尾を、手早く回収用の箱に収めた。
流れるように書類を書くと、金庫を開けて銀貨を数枚取り出す。
「はい、レオハルトさん。報酬になります」
「・・・あなた・・・!」
「仕事に戻ったらどうですか、キーファさん」
そういいながら、こちらに帰ることを促すノイア。
後は自分でやるから、というアイコンタクトも送ってきた。
俺は、受付に置かれた銀貨と書類を回収すると、足早にギルドを後にした。
――――――――――――――――――――
「あのノイアとやらも、やるのぉ」
「ああ、てっきり・・・内気な子だと思ったんだが」
「言うことは言う、しっかりした子じゃ。将来出世するぞ」
そう思う。
手に握られた銀貨6枚。
半分は実家に送るとして、残り半分は生活費だ。
「なあ、主様」
「ん?」
「その・・・身体は大丈夫かの?」
身体?
自分の身体を見る。
リザードマンにやられた傷は、想像を超える回復力で塞がった。
あと数日もあれば、完全に回復しそうなくらいに。
「ああ、大丈夫だ。明日からでも働けるさ」
「そうか、それならよい・・・」
手を俺の胸に当てると、案したようにつぶやいた。
・・・心配してくれたようだ。
前回は死にかけたんだ、心配されて当然か。
マリーの宿へ向かう。
お礼を言いに行くためだ。
一泊とはいえ、そこそこの値段の宿だ、食事も奢って貰った。
店の主人、マリーは外で洗濯をしていた。
「胸が邪魔そうじゃの」
洗濯をするために屈んでいるのだが、胸が何回かつっかえているようだ。
本人も忌々しげに何度も腕の位置を調整している。
「・・・言ってやるな」
「わらわといい勝負じゃな」
身体が大人の時は・・・そうだったな。
・・・しかし、何も言うまい。
二人で話していると、あっちが気づいたようだ。
こっちを見ると、近づいてきた。
「なんだい・・・って、レオ!どうしたんだい!?」
怪我自体は大丈夫だが、包帯はそのまま巻いていた。
それを見て、心配したのだろうか。
「魔物と戦って怪我しただけだ。大したことはないよ」
「そ、そうかい・・・よかった」
胸を撫でおろしている。
「・・・それで、何か用があったんじゃないの?」
そうだ、お礼を言いに来たんだった。
一言置いて。
「ああ、礼を言い気に来たんだよ、ありがとうな」
「なに、いいってこと。旧友が困ってたんだから、助けるのが筋ってもんだ」
そう言って貰えるとありがたい。
「しかし、本当によいのか?銀貨一枚は結構な値段じゃろ?」
「友人が困ってたら助ける。当り前じゃないか?」
そう言うとカラカラと笑った。
「良い嫁になるぞお前」
「え?何なら貰ってくれるかい?」
そう言って、マリーはからかうように体にしなを作った。
・・・その豊満な身体で、そう言うことは止めてほしい。
目を逸らす。
「主様はわらわの旦那様じゃ!渡さんぞ!」
「おやおや・・・これは失礼したね」
体勢を戻すと、コトハの頭を撫でた。
そして、耳まで顔を近づけ
「でもね、油断すると取られるよ?」
「なんじゃと!?」
「ふふ、いい男だと思っているのはアンタだけじゃないってことさ」
・・・なんの話をしてるんだ、二人でこそこそ。
まあ、俺には関係ない話なんだろうけど。
そう思いながら、遠くを見る。
「レオ、アンタはこれからどうするんだい?」
「これから?」
ハントシーズンはあと3日と言ったところだ。
ハントシーズンは、後半になるにつれて、強力な魔物が出る。
最終日近くともなると、とんでもない奴が姿を現すこともある。
前はベヒーモスがカルラス城の城門付近に出現した。
その時は、西の国シルハの英雄「ドーグ」がベヒーモスを倒した。
・・・まあ、倒すのまでの被害で相当な出費をしたようだが。
約30年前のハントシーズンでは、確認される中でも最強クラス。
海竜レヴィアタンが現れたらしいが、その時は・・・王都が半壊したらしい。
どちらも、最終日に起きた事だ。
だが今期の情勢だと、最終日に出てくるのはそこまで強い魔物ではなさそうだ。
なので、ハントシーズン終了後の旅路のために、路銀を稼ぐ。
「そうだな、ハントシーズンの終わりまで残り少ないし。
出来るだけ稼いで、後々の路銀にしようかと思ってる」
「そうかい、やっぱり・・・旅するのかい?」
「ああ、全国を回って、稼ごうと思ってるよ」
ハントシーズンに比べれば稼ぎは安定するが、逆に一発稼げるという事はない。
それに、今の俺の実力だと、ハントシーズン中でも稼げないことが分かった。
・・・この旅は、修行と生計、両方の意味が籠っている。
「・・・よし!分かった!残りの日の宿は、私の所に泊まりな」
「は・・・?いや、助かるが・・・いいのか?」
「旧友が困ってるんだから、助けるだろ?」
そう言い放つと、マリーは自分の胸を押し付けるように、右腕に抱き着いてきた。
「お、おい!」
「なんだよ、昔はよく、こうやって歩いたじゃないか」
「だからって、今は大人同士だぞ!?」
「むー・・・!」
今度はコトハが左腕に抱き着いてきた。
両手に花、嬉しいことだよな、普通なら。
・・・だけど、今の俺はいっぱいいっぱいだ。
「主様は渡さぬ!」
「これは手厳しいね、でも、アンタのものなのかい?」
「むうー!」
吠えるように唸るが、声は可愛い。
不覚にも、ドキッとする。
その様子を見たマリーは手を緩める。
「・・・やれやれ、手ごわい相手になりそうだ」
そういうと、マリーは手を放した。
残念そうな顔をするが、腕を組むと顔を戻した。
「ま、タダで泊めるのは本当だよ。その代わり」
「代わり?」
「もし、ボーペリアに帰ってくるのなら、うちを固定の宿にしてほしい。
その時はアンタ達も、名のある冒険者になってるだろうからね」
なるほど。
名のある冒険者が固定して泊まる場所は、それだけで名誉なことだ。
現に、英雄とまで呼ばれる冒険者が止まっていた宿は、今では
誰しもが知る有名な宿になっている。
「先行投資、いいね?」
「・・・そうは言うが、お主も主様狙いじゃろ!」
「さあねえ」
とぼける振りをする。
「ん?俺狙い・・・?」
「主様は分からんでよい!」
何なんだ、一体。
でも、泊めてもらえることは、かなり有難い。
「ふふ・・・さ、夕食の仕込みもしないとね。レオ、コトハ、また」
手をひらひらと降る。
「あ、ああ・・・世話になるよ」
「ああ、この宿が一番だって、思わせるよ」
そう言うと、宿の中に入っていった。
コトハは、その姿をじっと見ていた。
「・・・むう、やはりライバル」
「?」
「主様は知らんでええ!」
それっきり、コトハはそっぽを向いてしまった。
・・・なんなんだ、一体。