表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎冒険者と白狐  作者: 倉秋
ハントシーズン編
8/53

パーティー結成と初仕事-幕間 露天風呂での騒動ー 

中編と後編の間の話になります。

セオドアの中身とは?

店の売りである、露天風呂。

東の国では、こういう露天風呂が当たり前のように存在すると聞いていたが。

目にするのは数百年生きてきて、初めてだ。


「おおー・・・」


目の前に広がる、広い風呂。

もうもうと上る湯気。

外との境界線は、薄い仕切りがあるだけ。

自分の住んでいたあの森の奥には湖があり、そこで身体を洗っていたが。

お湯に入るのは初めてだ。


脱衣所で服を脱ぎ、綺麗に畳むとかごに入れる。

そのかごを備え付けの棚にしまう。


「ん?」


先客がいるようだ。

脱いだ服と、どこかで見覚えのある鎧一式。


「・・・うーむ?」


その鎧、考えが正しければ、男性が着ていたはず。

入ってきた場所の入り口近くをちら、と見る。

確かに、女性用と書いてある。


「なるほど、わらわの考えは正しかったか」


そう、一人で納得すると、風呂場へ入っていった。


――――――――――――――――――――


湯気で風呂場の奥まで見えなかったが、誰かがいるような気がする。

いるとすれば、自分の考えたとおりの人物だろう。


「えーと・・・かけ湯してから入ると聞いたの」


途中で会った従業員に、入り方は聞いておいた。

いざとなって、マナー違反をしてはたまらないと思ったからだ。


近くにある桶で、風呂場の湯をすくう。

・・・。

ちょろちょろと、身体に掛ける。


「・・・!熱い」


一気にかけずに正解だった。

少しずつ慣らして入って下さいとは聞いていた。

なるほど、慣らすとはこういうことか。


かけ湯も済ませ、いざ露天風呂に入る。


「お、おお・・・!」


両足を入れると、湯の熱さが伝わってくる。

そのまま、ゆっくりと肩際まで湯に浸かる。


「あー・・・これは、いい。実にいいのぉ・・・」


湯の熱さが疲れを溶かすような感覚。

これは・・・癖になりそうだ。

店の売りにするだけのことはある。


湯気の切れ目に、誰かの姿が見える。

こっちには気づいていないようだ。


「何をしておるセオドア、ここは女湯じゃぞ」


「!」


その人影がこちらを見る。

湯気が切れ、その顔がはっきりとわかる。


「・・・お主、やっぱり女じゃな」


カマをかけたが、正解だったようだ。


「・・・」


顔を顔を伏せると、手で顔を隠した。


ゆっくりと、コトハはセオドアの方へ近づく。

隣までくると、その横に座った。


「セオドア・・・じゃな?」


「・・・正解、よく、私だと」


顔を隠すのを止め、コトハを見る。

その顔は、エルフの女性そのもの。

耳は長く、美形・・・そして胸が小さい。

エルフの特徴だ、貧乳を含めて。


「鎧くらい隠せ、バレバレじゃ」


「あ・・・そうだったわね」


しまったという顔をする。


「・・・しかし、どうして男装を?」


一瞬、セオドアは考える素振りを見せると


「ドギーと一緒にいるため、かな?」


と、簡潔に答えた。


「あの男と?」


軽薄そうな男だとは感じたが。


「ドギーは私を助けてくれたの、だから・・・」


助け、と聞き、コトハは耳を傾けた。


――――――――――――――――――――


数年前に、エルフの村が、魔物に襲われたことがあった。

救援に行くはずの国の兵士は、途中の道で魔物に襲われ足止めを食らった。

保険として雇っていた冒険者の一行が、先に村に到着する頃には。

村は壊滅状態、村を襲ったオーガ達は冒険者に襲い掛かった。


冒険者とオーガの戦いは熾烈を極める。

10人以上いた冒険者も、1人、また1人と倒れていく。

オーガ側にも被害が出るが、多勢に無勢、冒険者たちは残った仲間と力を合わせて、

生き残ったエルフを集め、村から脱出した。


その後、国の兵士がオーガを駆逐、村は再建されることになったが。

戻ってきたのは一部のエルフだけだった。

結局、村は廃村寸前で今もそこにある。


――――――――――――――――――――


「なるほどのう」


「生き残りが私、そして、ドギーは私の命の恩人なの」


理解はできた。

だが、男装する理由が分からない。


「なぜ、男の真似を?」


「・・・エルフの冒険者、どれだけ珍しいか分かる?」


「いや・・・」


そういえば、ギルドではエルフを見たことが無い。

そもそもエルフの数は少ないので気にはしなかったが。


「エルフは冒険者になる条件が厳しいの」


「どういうことじゃ?人間と・・・何か違うとでも?」


「過去に色々あったらしくて、ね。それで、私は・・・人間として冒険者になった」


風呂に映る自分の顔を見る、セオドア。


「なるほど・・・あんな鎧着ていたら、男にしか見えぬな」


「・・・そっちの方が都合が良かったしね」


そう言うと微笑んだ。



しばらく、二人は無言で湯につかっていた。

横にいるエルフを見て、コトハはもう一つの疑問を投げる。


「・・・お主、ドギーが好きなんじゃな?」


「・・・うん」


口の付近まで、湯につかるセオドア。

顔は湯のせいじゃなく、真っ赤になっている。


「食堂でのドギーへの行為はそれで納得がいった」


「・・・」


女に歳を聞いて、制止する男もいるが。

女なら尚更静止するし、好きな男がそんなことをしようとしているのだ。

ああいう行為にも出るだろう、痛そうだったが。


「だから、羨ましい、あなたと・・・彼がね」


「主様は、ぜんっぜん、その気になってくれんが。やはり身体か」


自身の身体を見る。

ちんちくりんになった体を。


「その気はなさそうって、十分あると思うけど?」


「そうかのぉ?」


「・・・ええ、まだ、なんて言ってたしね」


そう、まだ、だ。

まだなのだ。

ゼロではない。


「・・・そろそろのぼせてきた、先に上がるわ」


「おお」


立ち上がると、その体はあの鎧を着ていたとは思えないほどの細い身体だった。

魔法を使って、鎧を軽くしているのだろう。


「・・・待て、名前を聞いておらんぞ」


「セオドア、じゃ、駄目かな?」


「ここまで聞いたのだ、気になる」


本当の名前。

彼女の、本来の名前。


「・・・セーシュ、セーシュ・ニルフォーン」


「セーシュじゃな、覚えたぞ」


自分の名前を言ったセーシュは、脱衣所へ消えた。


「やはり、女じゃったか」


自分の考えが合っていたと分かり、一人でニヤリと笑う。

しかし、お互いに苦労するなとも考えるコトハだった。


――――――――――――――――――――


一方、男湯。

レオは一人で浸かっていた。


「・・・うーむ」


いい湯だが、今後の生活を考えると少し、頭が痛い。

マリーのお陰ですっからかんは免れたが、それでも厳しい懐事情だ。

・・・明日次第で、田舎に帰る可能性も出てくる。

・・・その時は・・・コトハを紹介することになるんだろうか。

両親は喜ぶだろう。


村以外の人間が、嫁に来た、と。

両親の満面の笑みが、ありありと見えるレオであった。


「お、レオじゃないか、先に入ってたのか」


「ドギー?」


考え事をしていたら、風呂にはドギーが入って来ていた。


「いやー・・・足の痛みがようやく引いたからな」


俺の隣に座ると、ふぅーと息を吐く。


「風呂は生き返るね、だろ?」


「・・・ああ、まあな」


「なんだよ、つれないな」


不機嫌そうにそう言うが、顔は笑っていた。


「・・・この露天風呂、女湯を覗けるって知ってるか?」


「は?」


覗く?

・・・何を考えてるんだ。


「覗くなら一人でやってくれ」


立ち上がり、ドギーを見下ろす。


「付き合い悪い奴だなー」


「悪くて結構。ドギー・・・止めとけよ」


そう言って、風呂場を後にした。


・・・・・・。

「止めろと言われて止める奴はいないぜ?」


男湯と女湯を仕切る壁は、藁を束ねて、木で補強しただけのもの。

つまり、藁をどかすと、向こう側が見える。


藁の弱っている部分を見つけ、少しだけ横にずらす。

すると、細い線のようなのぞき穴ができた。


「どれどれ」


壁に身を寄せると、向こう側を覗く。

その視線の先には。


「あれ、コトハさん・・・か?」


湯気で隠れて見えないが、赤と白のコントラストの髪。

ここらじゃ見ないような髪色だから、直ぐに分かった。


「くそ・・・顔しか見えねえ・・・」


もう一人、髪が金色の人物が奥に見えるが、顔が判別できない。

二人が近づくと、何やら話し始めた。


すると、金髪の子が立ち上がり、風呂を出るようだ。


「・・・もう少し、もう少し」


「何がもう少しなんだい?」


「いや、身体が見えそう・・・って」


後ろから声を掛けられたと思ったら。

その声は女性のものだ。

恐る恐る、後ろに振り替えると。


女主人が、仁王立ちで立っていた。


男湯に、悲鳴が上がった。


――――――――――――――――――――


「♪~」


コトハは鼻歌を歌いながら体を洗っていた。

そして、響くドギーの声。


「・・・ん?」


野犬の遠吠えか?


「・・・」


耳を澄ませるが、何も聞こえなくなった。

・・・気にすることでもないか。


「♪~」


再び鼻歌を歌いながら身体を洗い出す。


宿の主人と交渉してまで、泊まることにした自分の好きな人に感謝しながら。

ゆっくりと、湯船に浸かるのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ