パーティー結成と初仕事 後編
朝日が目に入り、目が覚めた。
カーテンでも開けるかと、目を動かす。
「・・・?」
視野が狭く感じる。
頭も重い。
・・・これは、前と一緒の気がする。
全快は腕、今回は頭か・・。
コトハが頭に抱き着いていた。
寝相が悪いじゃ済まないぞ、これは。
というより、俺はよくこの状況で眠れていたな。
「二度目だから少しは慣れるがな・・・」
だからって勘弁してもらいたいところだ。
男には我慢の限界というのがある。
コトハの抱き付いている腕をそっと解くと、隣のベッドにゆっくり移動し下ろした。
カーテンは・・・まだいいか、寝ているし。
朝の一件をリセットする意味で、顔を洗うために外に出る。
すると、先客がいた。
「ドギー、何してるんだ?」
「見て分かるだろ」
朝方に洗濯をしていた。
洗濯ものの量と種類を見ると、自分やセオドアの分じゃなさそうだが。
「洗濯してるようにしか見えないが・・・シーツを洗ってるのはなんでだ?」
「漏らしたわけじゃないぞ!?」
そうは思っていない。
というより何枚シーツを洗う気だ。
ドギーの横には大量のシーツが積まれていた。
「身から出た錆、とほほ・・・」
そう呟きながら、洗濯板でシーツをこすっていた。
・・・まあ、いいか。
顔を洗って、ランニングしたら、部屋に戻ろう。
――――――――――――――――――――
朝食を済ませる。
コトハは何事も無いように食後のコーヒーをすすっていた。
「コトハ、ベッドに潜り込むのはやめてくれ・・・」
切実な願いを言うが。
当のコトハはショックを受けた表情をしていた。
「嫌じゃったのか・・・?」
「いや・・・そう言うわけじゃない、むしろ、男としては嬉しい、が」
それとこれとは別だ。
「俺たちは、まだ付き合ってもいない。・・・世間的に見ればな?」
「・・・むう、主様が認めるだけで夫婦にもなるというに」
「・・・俺も、その言葉は嬉しく思う・・・が・・・すまん」
そう言って頭を下げる。
「俺には、まだ養う甲斐性も無ければ、家族を持てるほどの地位にいない。
最悪、二人で食っていけない可能性だってある」
ここのところ思っていたことだ。
仮に、彼女を受け入れ晴れて夫婦になったとしても。
・・・俺の稼ぎじゃ、家族を養うはおろか、実家の借金の返済も出来なくなる。
そうなったら、どん底の中で彼女と暮らすことになる。
俺にしたら、それは不本意だ。
「では、稼げるようになったらいいのか?」
「え?あー・・・そうだな」
安定して稼げるようになれば、何も、心配は・・・。
あれ、じゃあ心配が無ければ、俺はコトハと結婚してもいいと思っているのか?
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「煮え切らん主様じゃな」
「悪いとは思ってるよ・・・俺も」
自分でも踏ん切りが悪い方だとは思っている。
「・・・まあ、それだけお互いの事を考えてくれているということじゃろ?」
それは、そうだ。
コトハには幸せでいてほしいとは思う。
・・・その幸せは、俺じゃない可能性だってあるんだから。
「なら、わらわは待つ・・・踏ん切りがつくまでな?」
そういって、ウインクしてくる。
・・・いい女だよ、本当に。
頑張って稼げるようにならないとな。
少なくとも、コトハを養えるくらいの男に。
「・・・それはともかくとして、朝の不意打ちは慎んでくれ・・・」
「あの森ではずっと一人で寝ておったんじゃ、誰かの温かさを感じてしまうと・・・な」
・・・なるほど、ずっと一人で暮らしてたから。
人肌恋しさもあるのだろう。
そう考えると、無碍に突き放すのもかわいそうに思える。
「ぐ・・・分かった・・・ある程度は俺も我慢しよう」
「・・・嬉しいくせに、我慢とはの」
ニヤニヤ笑いながらそう、からかってくる。
「・・・からかうなら、この話は無しだ」
そう言って、部屋を出ようとする。
「ああ、待ってくれ主様」
俺を追いかけてくるコトハ。
コトハに振り返る。
「コトハのしたいようにしていい、ただ・・・公衆の面前では慎んでくれ」
「・・・ああ、主様に迷惑はかけとうないからの」
話もまとまった感じだし。
・・・ゴブリン退治に出るとするか。
(待つとは言ったが、わらわは・・・攻めるぞ、主様)
そう1人考えるコトハだった。
――――――――――――――――――――
昼前には農場内に集まった冒険者たち。
結局、10人集まらず、俺らとドギー、セオドア。
後二人は、魔法使いらしきローブを着た女性二人組だ。
両方とも同じような赤い髪を三つ編みに束ね、その髪をローブの中に入れていた。
顔も似ている・・・姉妹か?
・・・しかし、後二人は来ると思っていたのだが。
まあ、ドタキャンも珍しい事じゃない。
「厄介な奴らが味方か」
「ドギー?」
こちらに耳打ちをしてきたので聞き返す。
「・・・あの魔法使い二人、味方ごと魔法に巻き込むので有名なんだよ。
レオ、コトハさんはしっかり守ってやれよ?」
「言われなくとも・・・お前こそ、怪我するなよ」
ドギーは頷くとセオドアの隣に移動した。
俺は、コトハの肩に手を置いた。
「主様?」
「何かあるとは思えないけどな、お前は守る」
「・・・ああ、頼りにしとるよ」
――――――――――――――――――――
昨日の農場主が出てきて、簡単な説明を受けた。
相手が来る場所と、時間帯。
昨日も複数見かけたが、追い払えたので問題はなかったとのことだ・
「昼過ぎに巣に向けて突撃なんてどうだ?」
「・・・急ぐなドギー」
セオドアがドギーの提案を拒否している。
こっちは6人、チームとしては少ない。
「だが、セオドア。相手の巣の位置も、規模も大体分かってるんだぜ?」
「・・・怪我をするぞ」
セオドアを見たコトハは。
「健気じゃの」
「?」
健気?
ただ、戒めているようにも見えるが。
「まあ、セオドアはドギーを心配しているということじゃ」
ああ、そういうことか。
だが、健気ってどういう意味で言ったんだ?
しかし、作戦はどうするか。
・・・二人の魔法使いは何か意見はないのだろうか。
「二人は、何かあるか?」
「え?私達?」
「無いわ、出てきた魔物を焼き払うだけだから」
・・・これじゃ、作戦会議にもならない。
「分かった・・・じゃあ、それぞれのパーティーで事に当たろう。
時間は・・・さっきドギーが言った昼過ぎ。
最終目標は、敵の巣、ということでどうだ?」
ドギーとセオドアは頷いた。
二人の魔法使いは特に反応なし。
・・・まあ、やってくれると信じよう。
農場の横には森が広がっている。
この森にゴブリンの巣がある。
位置は特定できている、そこまで進むだけだ。
日の上り方から、そろそろだ。
俺たちは森の裏側から、ドギーは農場の前から。
魔法使いの二人は、側面から。
さあ、仕事にかかろうか。
コトハを後ろに引き連れ森に入る。
「主様、一応言っておくが」
「なんだ?」
「わらわも、戦えないことはない。体はちっこくなっても、初級魔法程度なら使えるぞ」
そうなのか。
それは、助かる。
コトハから貰った力も、どれだけのものか分からない。
確かに強くなった気もするのだが、日が経つにつれて薄れていってる気もする。
・・・とにかく、戦ってみない事には分からない。
森の中は、生い茂る木と、草が視線を遮る。
ゴブリンの巣までは距離的には遠くはない。
巣まで、あと少しというところまでは来ている。
だが・・・ゴブリンの姿が無い。
「・・・見張りに出ているゴブリンもいない・・・妙だ」
近くの草場に隠れるように匍匐する。
コトハもその横で真似をしている。
「クンクン・・・移動はしていないようじゃぞ?巣の中で何かしておるのじゃろ」
「便利だな・・・」
「獣ゆえ」
・・・そうだったな。
しかし、そうなると・・・厄介だ。
相手の方が数が多いなら、分断して各個撃破した方がいい。
ゴブリンの方が劣っているとしても、数で押し切られたら最後だからだ。
「よし・・・みんなと合流しよう」
――――――――――――――――――――
巣の前には、ちょっとした平地が広がっていた。
そこの木の陰で皆を待っていた。
ドギーのパーティーが先に到着した。
あっちも、交戦した様子はない。
「・・・そっちも、いなかったようだな?」
「ああ、全然。俺らに怖がってるんじゃないか?」
「・・・ドギー、油断はするな」
ドギーの肩をセオドアが叩く。
「分かってるって・・・で、魔法使いたちは?」
そろそろ来てもいい頃だが・・・。
しかし、待っているわけにもいかなくなった。
巣の方で動きがある。
巣・・・目の前に大口を開けている洞窟から動く影が外に出てくる。
数匹のゴブリンが動き出した。
「・・・なあ、レオよ」
「なんだ」
「今なら・・・あいつらを一網打尽に出来るんじゃないか?」
「・・・どういう意味だ?」
ドギーが説明する。
「今奴らを攻撃すれば、巣という一本道でしか、奴らは相手ができない。
つまり・・・入り口で戦えば俺たちを一方からしか攻撃できないってこと」
確かに、その通りだ。
既に剣を抜きかけているドギー。
「俺は行くぜ!」
「って、おい!」
ドギーは飛び出してしまった。
「・・・あの馬鹿」
追うようにセオドアも飛び出した。
「やれやれ、作戦も何もないの・・・まったく」
「言ってられないだろ・・・俺らもいくぞ!」
剣を引き抜き、俺たちも巣の前へ飛び出した。
急に飛び出したドギーに驚き、ゴブリン達が近くの武器を拾いに走る。
「させるか!」
武器を拾うより早く、ドギーが出ていた3匹を切り伏せる。
低いうめき声を上げて倒れるゴブリン。
「よし、先手は取れたぞ」
「・・・馬鹿か、先手を取ったと思っているのは・・・お前だけだ」
「なんだよ、セオドア」
セオドアに文句を言おうとしているようだが、俺らも考えは一緒だ。
「先手じゃない、罠かもしれないんだぞ」
「なんでだよ?」
「無警戒過ぎる。ゴブリン達の様子・・・変だと思わないのか?」
ゴブリンが無警戒で出てきたのが引っかかる。
こんなに人間に近い場所に住んでいるのだ、武装して警戒してるはず。
・・・そして、その答えは直ぐに出た。
「マジか・・・」
巣から何かが出てくる。
ゴブリンよりも大型・・・その姿には見覚えがある。
「リザードマンかよ・・・よりによって!」
皮膚を覆う鱗、赤く光る瞳。
チロチロと舌を出すその姿。
間違いない、リザードマンだ。
しかも3匹、全員剣と盾を装備、全身を覆う鎧を着ている。
重武装だ・・・リザードマンの戦士階級だろう。
「合点がいった、だから警戒してなかったんだ」
「どういうことじゃ?」
「・・・ゴブリン共は、リザードマンを用心棒に雇ってたんだ。
だから、警戒もせず、周りに警備も出さずにいた。
・・・巣に来ても、リザードマンが何とかするからな」
おお、なるほどと納得するコトハ。
だが、この状況はまずい。
リザードマンはCランク冒険者でようやく互角と言われる相手。
・・・今この中に、倒せる奴がいない。
ゴブリン達は入り口近くまで出てきて、こっちの様子を見ている。
まるで、嘲笑うかのようにこっちを見て笑っている。
・・・罠にかかった馬鹿な冒険者とでも思っているのだろう。
出てきた3匹は、こちらを警戒するように吠える。
こっちは、ドギー、セオドア、俺にコトハ。
・・・後ろにゴブリンがいることを考えると、慎重に事を運ぶべきだ。
しかし、その考えは・・・上から降り注ぐ炎でかき消された。
「主様、上!」
木の上に魔法使い二人がいた。
杖が光っており、詠唱していることは直ぐに分かった。
「あいつら・・・!俺らごとやる気かよ!」
自分にも降り注ぐ炎を回避しながら、ドギーが叫ぶ。
セオドアは槍を振るって、炎をかき消している。
コトハを庇いながら炎をかわす。
しかし、全員が炎に気を取られているうちに、リザードマンの接近を許していた。
気づいた時にはお互いに、交戦する位置まで彼らは近付いていた。
「くそ・・・!」
ドギーとリザードマンの一匹が交戦していた。
素早く動き、リザードマンを翻弄しているように見えるが・・・。
その防御力と鱗で、攻撃を弾かれている。
「・・・ドギー!」
セオドアが走り、助太刀に向かおうとするが。
その前に立ちふさがる別のリザードマン。
「どけ・・・!」
槍を振り回し、突きの一撃を見舞うが。
盾で防がれ、横にいなされる。
「っち」
セオドアも突破ができず、リザードマンと一騎打ちの形になった。
そして俺の方にも一匹、剣の先を向けている。
要するに・・・一騎打ちで勝負ということだろう。
こちらも剣を構えると、リザードマンと向かい合う。
コトハに貰った力・・・どれだけのものか。
今・・・分かる・・・!
リザードマンに向かって走る。
それに応対するように、リザードマンは盾を構えた。
振り下ろす剣と盾がぶつかると、キィンという音があたりに響く。
盾で弾かれた剣を構えなおし、今度は突き刺す。
剣の先端が盾に触れると、少しめり込み、勢いが止まった。
刺さっただけで、貫通はしていない。
「ぐ・・・!」
そのまま押して貫通させようとするが、力が思うように入らない。
コトハに力を貰った直後のような剛力が出ない。
「この・・・!野郎が!」
剣を刺したまま、右足でリザードマンの横腹を蹴る。
しかし、効いている様子が無い。
「!」
リザードマンが剣を動かす動作を見せたので後ろに飛び退いた。
俺のいた場所に、リザードマンの剣が通る。
危なかった・・・が、俺の剣は盾に刺さったまま。
剣を手放してしまった。
「主様!」
すかさず援護を入れようと、コトハが詠唱を始める。
だが、何者かがコトハを後ろから羽交い絞めにする。
「な・・・お前らは・・・ゴブリン!」
リザードマンと魔法への対処でゴブリンの事をすっかり忘れていた。
いつの間にか背後まで回り込み、コトハの後ろまで彼らは移動していた。
「コトハ・・・?コトハ!」
異変に気付き、コトハを見る。
ゴブリンに羽交い絞めにされ、今にも剣で刺されようとしている。
「くそ!」
リザードマンと戦っている場合じゃない!
コトハの元へ向かおうと、全力で踵を返す。
しかし、戦いは甘くない。
背後にいることになるリザードマンの一撃が背中に入る。
「が・・・!」
剣で切られた、と一瞬で理解したが。
その激痛と衝撃で、倒れる身体はどうしようもなかった。
「主様ぁー!」
俺は・・・斬られて・・・。
背中からは血が噴き出している。
後ろのリザードマンも、こっちへ近づいて来る。
・・・止めを刺すためだろう。
目の前で羽交い絞めにされている女性。
俺を好きだと言ってくれた女性だ。
そんな、女性を俺は守ると言い切った。
なのに・・・今、俺は斬られて地べたに這いつくばっている。
「くそ・・・動きやがれ・・・!」
自分に喝を入れ、体を起こす。
強引に起こした身体は今にも倒れそうだが、そんなことはいい。
彼女を・・・救うんだ。
ゴブリン達に向かおうと、一歩踏み出す。
背中に再度衝撃が走った。
自分の身体を見下ろすと・・・胸からは剣が生えていた。
「・・・あ」
「ぬ・・・主様ぁ!」
背中から突き刺された剣は、胸部を貫いた。
俺は・・・また死ぬのか。
そう思いながら、身体が崩れる。
「ええい・・・放せ畜生共!」
自分を羽交い絞めにしているゴブリンに肘鉄を食らわせ、怯んだ隙に走り出す。
俺の傍までくると、顔を触っている感覚が感じられた。
「主様!死んではならぬ!死んでは・・・!」
「・・・ああ、悪い・・・また、死んじまう」
「この馬鹿・・・!わらわを独りぼっちにして、死ぬ気か!」
「・・・一人・・・」
意識は遠くなる・・・。
だが、ここで死ねないという気持ちが、意識をつないでいる。
「リザードマン、貴様・・・!」
コトハの叫び。
リザードマンの咆哮。
ドギーとセオドアの声も聞こえた気がした。
・・・胸に感触があった。
どうやら、剣を引き抜いたようだ。
・・・その剣で、何をする気だ・・・。
その剣で・・・。
「何する気・・・だ」
「主様・・・?」
片膝を立てて、立とうと力を籠める。
胸部からは血が噴き出る。
「何する気だ・・・!」
両足を地面に付け、完全に立ち上がる。
そして、リザードマンを睨みつける。
「言ってみろ・・・竜野郎が!」
――――――――――――――――――――
血は噴き出ている、胸と背中から。
だが、拳を握る力は、沸いている。
あの時と同じ、力を感じる。
リザードマンはコトハに向けていた剣をこちらに向けた。
しかし、俺の身体は・・・リザードマンが剣を構える前に間合いにとらえていた。
すかさず盾を構えこちらを警戒するが。
構わずに、盾ごと殴った。
拳が盾に当たると、盾に衝撃が走る。
その衝撃がリザードマンへと貫通し、盾を装備していた方の腕を折った。
その痛みでバランスを崩しながら悲鳴を上げるリザードマン。
すかさずもう片方の腕で、リザードマンの腹を打ち抜いた。
生温い感覚と、生き物を引き裂くような音が響き、
リザードマンの腹部には大穴が開いた。
眼を見開き、自分の身体に穴が開いたことを確認したリザードマンは
その場に倒れ伏した。
手に付いた血を拭い、次の標的を狙う。
「・・・次はお前らだ・・・」
ゆっくりとゴブリン達に振り替える。
頼りの用心棒がやられたせいだろう、恐怖に駆られ森の奥へ逃げ出した。
「逃がすと思うか・・・」
ゴブリン達を追おうとすると、残り2匹のリザードマンが俺の前に立つ。
ゴブリンを守ろうとしているのだろう。
「かかって来いよ」
同胞を殺され、激高しているようにも見えるリザードマン。
こちらがゆっくりと歩きはじめると、
リザードマン達は同時に剣を振り上げ、こっちに走り出す。
「邪魔だ・・・!」
振り下ろされる剣を屈む様に回避し、そのまま勢いを使って前方へ出る。
振り下ろした格好のままのリザードマン2匹の首を片手ずつで掴み地面に押し倒す。
そのまま手に力を入れると、骨が砕ける音が聞こえ、リザードマンの力が抜ける。
遺体をその辺に投げ捨てる。
「覚悟しろ・・・ゴブリン共」
ゴブリン達を追う。
・・・だが、血を流しすぎた影響か、意識が混濁しだす。
ああ、限界か・・・と他人事のように、考えていた。
――――――――――――――――――――
リザードマンという、用心棒がやられたゴブリン達にはなす術はなく。
ドギーとセオドア、魔法使い二人により全滅した。
俺は・・・ゴブリンを追おうとして、そのまま気絶したらしい。
気づいた時には、農場近くまで運ばれており、傷口の手当てもしてあった。
今は、農場の納屋を借りて寝かせてもらっているらしい・・・。
「・・・ああ、ああ!」
目を覚ました俺に、コトハは抱き付いていた。
「生き返りやがった・・・とんでもない奴だな」
ドギーは驚きの表情で俺を見ていた。
セオドアも納屋の外から見ているが、ほっとしているようだ。
「主様ぁ・・・」
「ああ、悪い・・・隙を・・・突かれた・・・」
上半身を起こし、周りを確認する。
「寝てろって、重症だぞお前。心臓が無事だったからよかったものを」
「ああ・・・分かってる」
抱き付いているコトハの頭を撫でる。
「一人残して、死にはしないから・・・大丈夫だ」
なだめるように、頭を撫で続ける。
嗚咽が身体越しに響く。
「しかし、すごいもんだなお前」
「すごくは・・・無いだろ?」
この中じゃ一番の大怪我だ。
魔法使い二人は・・・いないようだが。
「奴らなら、自分の倒した分持ってったよ、勝手にな」
「ドライな・・・奴らだな」
危うく燃やされかけたし、奴らのせいでめちゃくちゃになった。
彼女らの勝手な行動が無ければ、もう少し結果も変わっていただろう。
「ほら、お前の分だよ」
手渡されたのは・・・リザードマンの尻尾の先。
3つ分。
「俺らも助けられた・・・な?」
ドギーがセオドアにそう聞く。
「ああ・・・あのままだったら、こちらも・・・ただでは済まなかった」
二人も大怪我という程ではないが、擦り傷や切り傷だらけだ。
鎧にもひびが入っており、セオドアの場合は肩の装甲板がはがれていた。
そして、全身に残る焦げたような跡。
・・・彼女らは、何のために魔法を使ったんだ。
「・・・主様はいけない人じゃ!わらわに気を取られて、死にかけて・・・!」
「当たり前だろ!お前を守ると約束したのは俺だぞ!」
約束した、それは守らないといけない。
コトハを守るということ。
パン、と平手打ちをされた。
「わらわのせいで・・・死なないでくれ・・・」
そう言うと、胸に顔をうずめてきた。
「血で・・・汚れるぞ」
「構わん」
「・・・風呂、また入り直さないとな」
「一緒に入って、身体を洗ってやる」
「はは・・・ああ・・・頼むよ」
身体は暫く、思い通りに動かせそうにない。
冗談交じりで、そう頼んだ。
「なあ、セオドア」
「?」
「俺らは退散するか、もう、大丈夫そうだし」
「・・・うむ」
二人が去っていく気配がする。
俺たちは暫く、このままだった。
――――――――――――――――――――
これで初任務は完了だ。
身体は・・・ダメージが残っているが。
カルラスの中心まで戻ってきた。
傷口はそこそこ塞がり、歩けるまでには回復した。
「しかし、どうしたのじゃ?」
疑問に思っているのは、力の事だろう。
確かに・・・蘇った直後は物凄い力を感じた。
だが、日が経つにつれてその感覚が無くなっていった。
で・・・実際に戦ってみたら、この様だ。
「分からない。最後の最後で力を出せた感じだ」
「うーむ・・・確かにあの時は、力を感じたのじゃが・・・?」
それには同意する。
あの時・・・生き返してもらった直後だろう。
「今は・・・また元通りみたいだが」
しかし、違和感もある。
多少強くなった気がする。
「むう・・・よくわからんの。だれか、詳しい者でもいればいいのだが」
「なかなかいないだろ・・・そんな奴」
人の能力が分かる奴なんて。
いれば、自分の能力の秘密も分かるんだろうけど。
まあ、今はいいか。
こうやって、お互いに生きているんだし。
バッグに入れてあるリザードマン3匹分の尻尾。
これでしばらくは食べていける。
・・・そう、しばらくは。