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田舎冒険者と白狐  作者: 倉秋
ハントシーズン編
6/53

パーティー結成と初仕事 中編

「主様ぁ、腹が減った・・・ぞ」


お腹を押さえて、消え入りそうな声で言うコトハ。

・・・顔色も少し悪い。


「ああ、そうだな・・・」


日の高さから、既に昼は過ぎていた。

下見はこれくらいにして、昼食にするか。

コトハにも悪いことをしたな。


郊外に、一軒の宿があったので、そこに入る。

聞けば、食事だけでも大丈夫とのことだ。


早速食堂に通されたので、適当に見繕い、頼む。


「・・・なあ、主様」


小さいテーブルに向かい合うように座っていたが。

コトハは、その隣の席の男たちが気になっているようだった。


「どうした?」


「あれ、冒険者じゃな?」


腰を指さす。

確かに、腰に下げた緑色の証。

あれは・・・Dランクの証だ。


俺のは白、Eランクの証になる。

色分けで直ぐに分かるのは良いが、白と緑は馬鹿にされることが多い。


「・・・ん?」


俺たちの視線に気づいたようだ。

男たちがこちらを見てきた。


「どうした?なんか用か?」


男の一人が、気さくにそう話しかけてきた。

格好は、軽装鎧と腰に下げたブロードソード。

金髪を後ろで束ねた髪形をしている。


「いや、悪い。特に用は・・・」


「そうか、てっきり、依頼仲間かと思ったんだが」


「依頼?」


男が懐から、依頼書を取り出す。

リーアー農場と書かれた文字を見て、分かった。

なるほど、同じ場所だ。

こちらも、依頼書を見せる。


「やっぱりか、この辺の依頼は、あそこしかなかったからな」


「そうか・・・俺はレオハルトだ、レオとでも呼んでくれ」


「ああ、よろしくな、レオ」


男と握手を交わす。


「俺はドギア、ドギーとでも呼んでくれ。で、向こうで黙って飲んでる奴が」


ドギーの向かい側で一言も喋らず、グラスで飲み物を飲んでいる男。

全身重鎧を着て、何かを飲んでいる今も、兜を被りながら飲んでいる。

お陰で表情は見えない・・・口元は多少見えるが。


「・・・セオドア、せめて自己紹介はしてくれよ?」


「・・・」


飲み物の入ったコップを置くと、兜がこっちを向いた。


「セオドア・カムー」


そう一言発すると、またコップをあおり始めた。


「悪い、ああいう奴なんだよ。でも、槍の腕は確かだからな!」


「・・・苦労してそうだな」


「まあな、だが、悪い奴じゃないんだぜ?」


セオドアと呼ばれた男性を見てそう言う。

確かに、悪い奴という感じはしない。


「・・・しかし、よく飲むのぉ?」


向かいに座っていたと思ったコトハが、いつの間にかセオドアの隣にいた。

そして、飲み物を次々と飲んでいるのを感心したように見ていた。


「・・・変わった、奴だ」


兜の奥の目が、コトハを見る。


「なんじゃ、藪から棒に、変わった奴とは」


「・・・力を感じる、魔物・・・か?」


「わらわは、主様(ぬしさま)のパートナー、それ以上でも以下でもないぞ」


そう言って腰に手を置くと胸を張った。

それを聞いたセオドアは、こちらを見る。

兜のせいで表情が見えず・・・何が言いたいのか分からない。


「・・・主様?・・・夫婦か?」


・・・。

え?

俺とコトハを交互に見ると、素っ頓狂なことを言った。


「そ、そう見えるかの?」


嬉しそうに頬を赤らめるコトハ。

しかし、ドギーの顔はこちらを向いている。

その顔は、驚愕の顔で固まっていた。


「お、おい・・・こんな小さい子を・・・」


「・・・ち、違うぞ!まだ夫婦じゃない!」


その叫び声は、食堂に響いた。

その声に驚いたのか、周りの従業員が一斉にこっちを見た。


「ぬ、主様。・・・一応、意識はしてくれておったんじゃな」


「え?」


顔を赤らめているコトハを疑問に思ったが。

ドギーの一言で気づいた。


「まだ、なんだなお前」


「・・・」


自分の失言に気づいた。


ドギーとセオドアはこっちを見ている。

ドギーの方はにやにやしている、セオドアは・・・兜のせいで分からん。

だが、何となく・・・本当に何となくだが。

セオドアは羨ましそうに眺めていた気がした。


って・・・そんな場合じゃない。


「・・・と、とにかく!俺らはそんな仲じゃない!」


「まだ、だよな?」


ドギー・・・。

これは、この後も弄られる!・・・そう思ったので、椅子から立ち上がった。


「なんだ、どこ行くんだ?」


「・・・トイレだ」


食堂の奥にある、トイレに入った。



レオがトイレに行っている間、ドギーはコトハをと話していた。


「照れ隠しか、それともあいつは甲斐性なしか?」


「主様は、いい男じゃぞ」


「そうか」


ニヤニヤしながら、トイレの方向を向く。


「いやー、他人の色恋ほど面白いものはないからな」


そう言いながら、今度はコトハを見る。


「・・・獣人は見かけで歳が分からないっていうけど、どうなんだ?」


「何?」


女性に失礼な、と一瞬考えるが。

その考えは、あることで遮られた。


ガッ!という音が聞こえた。

音のせいでビクリと体が跳ねたコトハが、音をした方向を見る。

見ると、セオドアの足が、ドギーの足の甲を踏んでいた。

めり込むくらいに。


「・・・のぁぁぁ!」


絶叫が響いた。

また、食堂中の目線が同じ場所に向かう。

ドギーが自分の足を抱えて、床に転げ落ちてもんどりを打っている。


「・・・何しておるんじゃ、お主ら」


コトハはあきれ顔で、ドギーを見る。

ドギーは足を抱えながら、半泣きで痛みをこらえていた。

セオドアは不機嫌そうに立ち上がると、食堂から出ていった。


「ふむ・・・?」


セオドアの去っていく様子を眺めるコトハ。

その姿に、何かを感じる。


「何やら・・・面白そうな二人じゃの」


・・・・・・・・・。

俺が、トイレから帰ってみると。

・・・床でもんどりを打っているドギーと、それを眺めるコトハがいた。


「何があったんだ?」


そう聞くが、誰も答えない。

・・・気にはなるが、俺の話は流れたみたいでほっとした。


――――――――――――――――――――


日が落ちてきて、街は夕方の気配を見せてきた。


「主様、泊まる場所はどうするのじゃ?」


ここに泊まるのか、と耳をぴょこぴょこと動かしながら聞いてくる。

宿の売りである、露天風呂とやらに興味津々らしい。


・・・確かに、俺の身体も臭い始めている。

だが・・・一泊銀貨一枚・・・。

頭を抱える。


コトハのあの様子を見ると、高すぎて泊まれないとも言えない。

・・・だが、泊まれば・・・すっからかん。


手に残る銀貨一枚を見る。

・・・コトハを風呂に入れたいという気持ちもある。

女性だ、出来るなら毎日でも風呂に入りたいものだろう。

女性は大事にしろと、両親からも教わったしな・・・。


ダメもとで宿の主人の場所に向かう。

値段交渉のためにだが・・・自信がない。

値段が高い場所は、値切るのが難しいからだ。


ここの店の主人は若い女性だった。

ウェーブのかかった長い茶髪を、バレッタで止めている。

そして、それよりも目立つのはその大きな胸。

・・・動く度に揺れて、目の毒だ。

目線を逸らしていると、主人がこちらに気づいた。


「ん?お客さんは・・・ああ、食堂で騒いでた人だね?」


「ああ、その節は・・・すまん、迷惑をかけた」


「いやいや、食堂は騒がしい方がいい。静かよりはましだよ」


・・・そう言ってくれると助かるが。


「あんた、名前は?」


「レオハルトだ、レオとでも呼んでくれ」


「レオ・・・え?レオ?」


主人の目の色が変わる。

・・・?


「いやー懐かしいね、元気だったかい?」


笑いながら肩を叩いてくる。


「いや・・・懐かしい?」


「なんだ、忘れたのかい?・・・まあ、小さい頃に少しだけ遊んだ仲だからね」


小さい頃に、遊んだ?

遊んだ・・・うーん・・・。


「はぁ・・・思い出さないのかい?」


そう言うとバレッタを外し長い髪を振り解く。

そして、手でツインテールを作った。


「これでも?」


・・・。

ツインテール、小さい頃・・・。


昔、カルラスに何度か来たことはあった。

自分の家の野菜などを直接売りに、だ。

両親と一緒に馬車に乗り、一日がかりで移動した記憶がある。


そして、俺はまだ小さかったし、大した手伝いも出来なかった。

今思えば、一人で家に待たせるのが危険だったから連れて行ったのだろう。


暇でしょうがなく、見知らぬ場所だったので、馬車の近くで遊んでいた。

その時、知り合った友達がいた。

少女で、今、目の前にいるようなツインテールの子。


まさか、と思ったが。


「マリー・・・?」


「ああ、久しぶりだね、レオ!」


旧友に出会った・・・こんなところで。

だが、あの頃はお互い小さかったし、彼女も面影はあるが変わりすぎだ。


彼女はマリー・クラッド。

数える程しか遊んでいなかったが、印象的な子だった。

いつも俺を引っ張り回しては、お互いに泥だらけになったっけ。


「しっかし、レオ・・・冒険者になったんだね」


感慨深げにそう呟く。


「お前も、宿の主人をやるようになったんだな」


「ああ・・・母さんも死んじまってね。今じゃ、私がこの宿の主人だよ」


そうか・・・。

しかし、昔から強気な子だとは思っていたが。

その印象は、今も変わらないようだ。


「で?なんか用があったんじゃないのかい?」


「ああ、それなんだが・・・」



金がほとんどない事、連れの仲間が女性で、泊まりたいと思っていること。

とりあえず、事情を話した。


「ふーん・・・なるほどね」


ニヤニヤとこちらを見ている。


「女と二人旅?いいご身分だねぇ」


こいつも、俺の事をからかいそうな気がする・・・。


「い、いいだろ別に・・・こっちにも事情があるんだからな」


「で?その子は・・・さっきからこっちを見ている、あの子かい?」


「は?」


マリーが指さした方向を見る。

そこには、壁に半分身体を隠しながらこちらを覗く人物がいた。

こちらを覗いている。


「・・・あ、ああ・・・あいつだ」


「小っちゃい子だね、獣人か・・・」


何か考え込んでいるが。

・・・?

こっちを見ると


「分かった、昔のよしみだ。一泊サービスするよ」


「ほ、本当か!」


「獣人には昔世話になった時期があるからね、放っておけないのさ」


そういうと、バレッタで再び髪を留める。

マリーがカウンターの裏から鍵を取り出すと、それと同時に、

背後にある戸棚からかごを取り出す。


「ほら、部屋の鍵と風呂用のかごだよ。かごを持っていけば露天風呂に入れるよ」


「すまん・・・恩に着るよ」


「じゃあ、今度返してもらうよ」


鍵とかごを受け取り、待っているコトハの方へ向かった。



コトハは黙って後ろからついてきていた。

しかし、廊下からしても、前泊まっていた場所とは天と地の差がある。


ここは、本当に宿泊施設といった感じだ。

・・・泊まっている人間も、裕福そうな人が多い。


「のお、主様」


「ん?」


「さっきの女主人じゃが・・・知り合いかの?」


知り合い・・・そうだな。

旧友というのが、一番しっくりくるか。


「ああ、子供の頃数回遊んだ仲だ。・・・ま、思い出すのに時間は掛かったけどな」


「そうか」


コトハの顔を見る。

何とも言えない顔をしているのだが、なんだろうか?

変なことを言った気はないんだが・・・。


(ライバルが増えたかの・・・?)


今度は思案顔だ。

・・・女性の考えてることは、よくわからん。


複数のドアの前を通りながら鍵の札を見る。

そのうちの一室、札と同じ番号を見つけた。

ここで合っていそうだ。

鍵を挿入し、ノブを回すと開いた。


宿は一泊の値段で質が全然違うとは聞いていたが。

ここまで違うとは思わなかった。

綺麗なベッドが二つ、掃除され輝いている机と椅子。

壁には絵がかけられているが、それもきちんと掃除されていた。


「おおー・・・すごいの!」


ベッドの上に座ると、足をばたつかせている。

端から見ると、子供にしか見えない。

背格好もそうだし。


「そうじゃ、露天風呂!」


ベッドから立ち上がると、駆け出す。

確かに、楽しみにしていた事だ、駆け出すのも無理はないと思うが。


・・・あ。


「コトハ、かご持ってけ!」


慌てて追いかけ、かごを手渡す。

これが無いと、入れないみたいなことを言われた。

かごを受け取ると、また駆け出して行った。


「性格も、幼くなってる気がするな・・・」


廊下を走るコトハを見送る。


――――――――――――――――――――


お互いに露店風呂に入り、さっぱりした夜。

部屋に運ばれてきた料理を見て驚いていた。


肉料理を中心に、サラダ、スープ。

・・・久しぶりの御馳走だ。


「マリーさんからのサービスです」


食事を運んできた女性従業員がそう言う。

・・・本当に世話になるな。


「・・・ありがとう、と伝えておいてくれ」


「ええ。・・・でも、久しぶりにマリーさんの笑顔が見れましたよ」


食事に手を付けようとしていた俺とコトハは手を止めた。


「・・・久しぶり?」


「ええ、営業で笑顔にはなりますけど・・・前の主人、マリーさんの母親なんですけど。

 亡くなってから、悲しみを忘れるかのようにずっと、無心で働いていたんです」


そんな感じはしなかったが。


「古い友人に会えたって、笑ってましたよ」


「そうか・・・」


女性従業員は最後の皿を置くと、一礼して去っていった。


「・・・あの女主人も、苦労しておるのじゃな」


「ああ、だからこそ。味わって食わないとな?」


目の前の料理に目を戻す。

美味しそうな匂いと、見た目。


「そうじゃな・・・」


「・・・しかし、後で恩を返してくれとも言われたが・・・」


この接待を見る限り、とんでもないことをお願いされそうだ。


「はにいってるのにゃ、ぬしさは!」


・・・なんだって?

口に大きめの肉を頬張っていたコトハの言葉が全然聞き取れなかった。


「んぐ・・・何言っておるのじゃ、主様」


「いや、何でもない」


首を振る。

コトハは、次の皿に手を掛けていた。


「変なこと言っておると、全部食べてしまうぞ」


「・・・それは困る」


俺も食べることにした。

・・・後々、苦労すると直感しながら。



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