パーティー結成と初仕事 前編
ハントシーズン中は、大物狙いの冒険者も多い。
例えば、俺が殺されたミノタウロスなんかは、一匹で金貨2枚。
銅貨10枚分で銀貨1枚と同等、銀貨10枚で金貨1枚同等なので、
銅貨200枚分の報酬ということだ。
家の借金は、金貨100枚分程。
農村である故郷での平均年収なんてたかが知れている。
返すのに・・・あと50年は掛かる計算になるしな。
だからこそ、俺もハントに参加した訳だ。
だが、現実に握られている金は、減っていくばかり。
金を稼ぐのも甘くはない。
コトハに貰ったこの力で、格上を倒したとしても、信じられなければそれまで。
見届け人でもいれば、話は別だろうが・・・。
そんな暇な奴、いるはずもない。
考えた末、ギルドに向かう。
仕事と賃金を貰うために。
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冒険者ギルドの賑わいはかなりのものだった。
なんなら、初日よりも多い気がする。
ボードに張り出された討伐対象の依頼も、激増している。
「主様、どうするんじゃ?」
後ろからぴったりと着いてきている狐の少女、コトハ。
端から見ると、どんなパーティーに見えるんだろうか。
・・・ああ、そうだ、やっておくことを思い出した。
まずは、ハントの受注ではなく、窓口の方へ向かう。
「いらっしゃい、ご用件は?」
壮年の男性が応対をしてくれる。
・・・前の受付嬢よりは、親切に対応してくれそうだ。
「パーティーを登録しておきたい」
「ああ、そう言うことですね。しかし、お連れは・・・若くないかね?」
コトハを見てそう言う。
背格好からして、12くらい、いや、それよりも若いか。
耳をぴょこぴょこと動かし、窓口係を見ている。
「彼女は獣人だ、こう見えて、そこそこの年だぞ」
「ああ、なるほど」
ポン、と手を打って納得したようだ。
「問題はなさそうだが・・・君はEランクか」
腰に下げている証の色で判断したらしい。
そして、コトハの全身を見るが。
「・・・なるほど、パーティーには非冒険者でも一人までなら許可される。
だが、どうせなら彼女を冒険者にしてはどうかな?」
証が無いので、冒険者ではないと判断したのだろう。
コトハを冒険者にする、それも考えたことだが。
今現在の財布の中身じゃ、試験を受けることも出来ない。
最低でも、銀貨3枚は必要になる・・・今は無理だ。
「いや、それは」
現在の金銭状況を言う。
「・・・なるほど、苦労しているな」
理解してくれたようで、奥に下がると何枚か書類を持ってきた。
「えーとだな・・・君の名前は?」
「レオハルト」
「えー・・・レオ・・・レオ」
眼鏡を掛けて、隣に置いてあった分厚い本を見ている。
・・・どうやら、冒険者の一覧みたいだ。
あの厚みだけ、冒険者が多いということでもある。
「ふむ」
眼鏡をかけたまま、こちらを向く。
「Eランク冒険者、レオハルト・ディリオン。えー・・・実績は」
また、本に目を落とす。
「・・・特になし、ですか」
そうだろう、ゴブリンやオークとした戦ったことがない。
田舎の冒険者の仕事なんて、ほとんどない。
「まあ、冒険者は何でも屋ですからな、あなたも小さい仕事ばかりだったのでしょう?」
「あ、ああ・・・キカ村、知ってるか?」
「あー・・・そこの出身ですか。確かに、あの周りには仕事はないでしょう」
彼の言う通りだ。
田舎での仕事は、ほとんどが野良仕事の手伝いだったり、害獣退治くらいなものだ。
だから、実績がないとも言えるんだが。
冒険者と言っても、ほぼ便利屋に近い。
昔は、未開拓地を探検する、文字通りの冒険者だったのだが。
時代が経つにつれ、未開の地は無くなっていった。
今じゃ、便利屋・・・護衛もすれば魔物も狩る、材料の調達なんかもそうだ。
その仕事柄、信頼できるかどうかを判断するために、ランク制度を導入している。
EランクからAランク・・・その上にもあるらしいが、俺は知らない。
そのランクで顧客が冒険者を信頼できるかどうかわかり、
ギルド側も失敗して、顧客の信頼を無くす心配がなくなるわけだ。
ただ、このランク・・・上のランクに行くためには、骨が折れる。
・ギルドに一定以上の功績を残すこと
・指定された魔物を倒せる実力を持っていること
この二つだ。
俺の場合は、功績というほどのものが無い。
依頼は何度かこなしてはいるが、ランクアップできるほどのものじゃない。
それに、Dランクへはオーガを倒さないといけない。
「・・・まあ、パーティーを組むのは大丈夫ですよ。
ただ、あなた基準での仕事の選定になりますので、そこはご留意を」
つまり、Eランク相当の仕事しか受けられないということだ。
今までと変わりないということ。
「・・・それで、彼女の名前は?」
「ああ、コトハだ」
「はいはい、コトハさん・・・と」
新しく出した書類に記入していく。
「レオハルト、コトハ・・・ランクはE相当。所属はこのギルドになるぞ。
・・・それで、パーティー名は?」
名前?
ああ、そうか、名前か。
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首都カルラスには有名なパーティーが複数ある。
今回のハントにも参加している「リベリオンズ」。
元犯罪者や戦犯を犯し追放された兵士などが集まってできた、5人のパーティーだ。
所属している5人全員が、Aランク冒険者であり実績も非常に高い。
・・・ただし、稼ぐためには手段を選ばないという噂もあり、
彼らの出自も併せて反逆者の名に相応しい評価となっている。
現在遠征に出ているせいでハントに参加していない「金獅子」。
黄金の騎士と呼ばれる〈英雄〉ラファゼールをリーダーとした、3人のパーティー。
しかし、ラファゼール以外の2人の活躍を見たことがないと言われている。
ラファゼール一人のワンマンパーティーじゃないのかと噂されている。
俺らと同じ二人組の「黒の双剣」。
女性二人組の冒険者で、名の通りの双剣使い二人だ。
カルラス所属の女性冒険者の中では、トップクラスの冒険者だろう。
最近は王国から直接依頼が来ているとか。
そして、魔法使いのみで構成された「ゴイアの腕」。
ゴイアはボーペリア国土着の魔法の神様の名前だ。
パーティーというよりは、宗教集団に近い形らしいが。
・・・まあ、関わらない方がいいとギルドからは言われている。
こんな所か。
まあ、彼らは一癖も二癖もあるが、実力を兼ね備えた集団だ。
俺たちも、そうなれるよう、頑張らないとな。
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名前をどうするか、考えていたのだが。
・・・具体的に、いい案が浮かばない。
爺さんの名前でも付けてやろうかとも思ったが。
コトハを見る。
こっちの視線に気づくと、微笑まれた。
「・・・白狐か」
そう、彼女は白狐だ。
「白狐・・・いい名前ですね」
ただ呟いたつもりが、名前と勘違いされたらしい。
窓口係の腕が動く。
書類に記入されていくその名前。
・・・まあ、いいか。
他に候補なんて浮かばなかったし。
こうして、パーティー「白狐」が誕生した。
Eランク相当だけど。
せっかくパーティーを組んだので、ハントに参加したいところだが。
受付の横にあるでかいボードの前に立つ。
「主様、これはなんじゃ?」
「ああ、これは・・・討伐依頼がある奴らの情報だよ」
何枚もの紙が無造作に張り付けてある。
その一枚を見る。
ゴブリン討伐。
リーアー農場からの依頼。
数が不明だが、農作物の被害から、数十はいると考えられる。
求人数は・・・10名。
期日は明日だが、まだ張ってあるということは、
人数が集まっていないということだ。
依頼書を2枚剥がすと、下には同じ紙が重なっていた。
・・・あと3枚あるということは、先に受けている人間は6人いる。
「何故、2枚はがすのだ?」
「俺と、コトハの分。パーティーで受ける際は人数分持っていくのがルールだ」
受付に依頼書を置く。
「・・・はじめまして」
前とは違う女性だ。
前髪が長く、目が見えない程隠れてはいるが。
顔立ちはしっかりしており、綺麗な子だ。
「受付を担当する・・・ノイアと申します」
「ああ、初めまして・・・それで、俺たちで大丈夫か?」
確認を取る。
ランク相応かということだ。
「ゴブリンのみ確認されているので、問題ないかと」
依頼書に大きな判子を押す。
それを返される。
これで、依頼人との契約が完了だ。
最初にこっちに来たときは、自分で仕事を選ばす、相手に任せたが。
本来なら、こうやって自分で選ぶべきだったろう。
「・・・」
今思うと、都会に出てきた緊張のせいでもあったと感じる。
それに・・・まあ、コトハとも出会えたんだ、悪いことではなかった。
「さて、早速牧場に向かうか」
「・・・明日が仕事の日、じゃぞ?」
もう行くのか、という表情だ。
「下見だ」
始めていく場所で戦うとなれば下見は必要だ。
何があるか分からないからな。
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昼過ぎには農場の前に着いた。
首都カルラスの郊外、農業区に指定されている場所に農場はあった。
「ここが、リーアー農場か」
看板にはそう書いてある。
目の前には一軒の家と、周りに広がる大きな畑。
間違いなさそうだ。
畑を柵越しに見て回る。
だが、歩く場所は畦道ばかりで動きにくい。
だとすれば、ゴブリンが複数現れた場合、仕留め損ねる可能性がある。
「なあ、主様」
「ん?」
「ゴブリンの足跡じゃ」
畦道に小さい足跡が複数、畑の中に入るように続いていた。
「・・・これは、確かに」
足跡は森の方へと続いているようだ。
なるほど、これじゃ、害獣退治と変わらなさそうだ。
「おい!そこの!」
畑の方から声がする。
見ると、麦藁帽子をかぶった男が、こちらに歩いてきていた。
「この畑の主人かの?」
「・・・っと、悪い、ゴブリンじゃなかったか」
鍬を振り上げて向かってきていたが、鍬を地面に下ろした。
「その様子だと、かなり困ってるようだな?」
「ああ、農作物の半分がやられた・・・だが、それも明日までだ」
明日。
・・・冒険者によるゴブリンの駆除を指しているのだろう。
「あんたら・・・もしかして、冒険者の?」
「ああ、先に現場を見ておこうと思ってな」
「そうかそうか、明日は頼むよ」
そう言うと、鍬を肩に担ぎ、畑に戻っていった。
・・・半分近くか。
農民にとって、それは大打撃だ。
それに、ハントシーズンだからよかったものの。
通常の依頼だったら、彼の懐から依頼金を出さなければいけない。
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ハントシーズンの間は、国が全ての賞金や報酬を払う。
通常時は依頼人が依頼金をギルドに払って、
俺たちが動き依頼金の一部が支払われる。
だが、ハントシーズンの場合はその依頼金が必要ない。
つまり、俺たちには依頼金という形では払われない・・・その代わり。
魔物を倒した数で、金を稼ぐということになる。
無論、ハントシーズン以外の場合でも討伐報酬は支払われるものの。
・・・ゴブリン10匹倒したとしても、子供の小遣いにもならない程だ。
だからこそ、ハントシーズンは稼ぎ時だと言われる。
この間にどれだけ稼げるかが、冒険者としての才覚だと言われるほどだ。
国家にとっては、首都カルラスを破壊されないために魔物を探し出したい。
依頼人からすれば、魔物がいたという報告をすれば、国から礼金が入る。
つまり、依頼人は情報源として、国からは感謝されるということだ。
要するに、手間賃などは払うから魔物の情報をくれ、と言っているようなもんだ。
国も魔物の死骸から素材を取り、売りさばくことで国庫が潤沢になる。
・・・まあ、国も得しているということだ。
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依頼者の背中を見送り、更に畑の周りを移動する。
・・・この調子だと、昼過ぎまでは掛かりそうだ。




