金策中
金を稼ぐといっても、このワーレスでどう稼ぐかが問題だ。
まあ、冒険者らしくダンジョンに潜ればいい話なのだが。
俺達のせいか、複雑化したダンジョンに潜るのはリスクが伴う。
入口が複数現れたダンジョン。
その一つの前に立っている。
「・・・」
広間の真ん中にせりあがるように現れた苔むした入り口。
山の中や、森の中にありそうな自然の洞窟に見える。
「主様、中から苔の匂いがするぞ」
興味を持った冒険者が何人か入っていったが、出てくる気配は無い。
松明を用意し、火を付けて洞窟内を入り口から覗いた。
奥まで暗闇が続いている、風も生温い。
「ドギー達は別のダンジョンを見に行くっていってたしな」
二人で潜ってみるのもアリか。
見た感じ、危険そうな気配はしない。
「主様、行ってみるか?」
「・・・危険そうなら、すぐに戻れば大丈夫か」
そう呟き、俺は一歩洞窟に足を踏み入れた。
――――――――――――――――――――
「あー・・・何処だよここ」
一方、ドギーとセオドアは。
郊外に現れた岩の洞窟に潜っていた。
中は迷路のような構造になっており、複数の冒険者と共に足を踏み入れたのだが。
「見事に迷子だな」
「皮肉を言ってる場合か!」
他の冒険者の姿も見えなくなってしまった。
声も、遠くなって聞こえなくなってきた。
「恐ろしく広い空間なのかもな」
「その可能性はあるな、ドギー」
幸い、魔物の気配は無い。
ゆっくりと探索は出来る。
「とりあえず、前に歩くか」
「賛成だ」
しばらく二人が歩いていると、脇の小道から急に人が飛び出してきた。
「うぉ!?」
「ああ、悪い!アンタらも迷子か?」
若い男性冒険者だ。
一緒に潜ったうちの一人だ。
「ああ、同じような壁と床ばっかりで、方向感覚も麻痺してきたよ・・・」
「俺も同じだ、そのくせ宝の一つもない。
出口に宝でも用意されてなきゃ、キレるぞ」
同感、と呟くドギー。
その傍らで、セオドアは壁を叩いていた。
「セオドア、何してるんだ?」
「反響音を聞いている・・・そうだな、あっちに歩いてみよう」
左の道を指差すセオドア。
「本当に大丈夫か?」
「歩かなければ、出口にもつかないぞ」
「そうだな・・・んじゃ、歩いてみますか」
――――――――――――――――――――
キーラは、草原の薬草屋で働いていた。
その知識と、手際の良さで店の主人も感心していた。
「本当に、調剤士とかじゃないんだね?」
「はい、精霊文字の解読が、私の仕事ですから」
「ふぅん、宝の持ち腐れだねその才能は」
感心しながら、キーラの調合する様子を見ている。
「あはは・・・でも、好きなことを仕事にしてますし。
調合も嫌いではないんですけどね」
「そうかい」
「あ、でも・・・ここの店って結構珍しい調合の仕方をしてますよね?
調合釜も独特な形をしてますし」
「そうだね、一般的ではないね」
一般的には大きな釜で煮立たせて抽出することが多いのだが。
この店では、小さい釜を複数に分けて作っている。
その複数の釜で作られた薬剤を混ぜ合わせて、薬を作っているのだ。
本体なら一つの釜で完結する薬の調合を、複数の釜に分けてしている。
確かに、こっちの方が効率がいい。
「管理、大変じゃ」
「慣れてるからね、むしろ慣れるとこっちの方が楽だよ。
いちいち大釜を洗わずに済むからね」
「ああ、なるほど」
大釜は大きいものになると人間の体重以上の重さになる。
洗うのも一苦労、という訳だ。
キーラが自分の調合した薬を指に付けて舐める。
「・・・ん、んー?」
そして首を傾げた。
「どうしたんだい?」
「いえ、ちょっと調合法を間違えたかなって」
「? アンタ、舐めて分かるのかい?」
「はい、多少の違いは味で確認するのが早いと思うんですけど」
ふむ、と顎に手を置く店の主人。
「アンタ、天才だね」
「え?」
「精霊文字の解読をするよりも、こうやって薬を作った方が身を立てられるよ?」
「ええ?」
「舐めて分かるくらいなら、私も苦労はしないのさ。
アンタ、副業でもいいから薬を作った方がいい。
世のため人のためにもなるからね」
「世のため、人のため・・・」
その言葉に、手を止めるキーラ。
「まあ、考えておきなよ、お嬢さん。
こんなしわがれた私よりも、人を多く救えるんだからさ」
――――――――――――――――――――
「おかしい」
「そうじゃな、主様・・・」
潜ったはいいが、この洞窟・・・何もない。
魔物もいなければ、宝の一つも落ちていない。
空の洞窟だった。
「苔と、岩しかないのか」
これで、奥まで行って何もなければ時間を無駄につぶしたことになる。
せめて、最奥には宝があると信じたいが。
そう思っていたが、やはり・・・。
「このオンボロ宝箱一つか」
目の前にあるのは、小さなボロボロの宝箱一つ。
叩いてみるが、反応は無し。
ミミックとか、そう言うのではなさそうだ。
「鍵もかかっておらぬ、ろくなものは入ってないの」
無造作に、宝箱を開くコトハ。
中からは・・・一冊の本が出てきた。
赤い本で、題名は。
「死の呪文?」
「なんじゃ、不吉な名前じゃな」
ペラペラと本を捲るコトハ。
大丈夫なのだろうか、読んでも。
「ふむ・・・只の魔術書じゃ、余り価値は無さそうじゃな」
「死の呪文と言う癖にか」
「恐らく、死の呪文と言うのは落書きじゃな。
中身は初級魔法の実践しか書かれておらぬ」
「・・・骨折り損のくたびれ儲けだな、やれやれ」
近くのコケでも取って、いくらか足しにした方がいいか。
ものによってはポーションの材料になる可能性もあるし。
しばらく、苔をコトハと取っていた。
「フカミドリゴケは、毒消しの作用がある。
取っておいて損はないの」
「本当か?なら、最初からこうしとくべきだったな」
麻袋がきつきつになるまで、苔を取った。
紐で口を縛り、肩に担ぐ。
「まあ、何かの足しになるかも知れないし、これも持っていくか」
死の呪文と書かれた本も、道具袋の中に押し込んだ。
やれやれ、くたびれるだけで収穫は少なかった。
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ドギーとセオドアはまだ迷路をさまよっていた。
「お、銀貨だな」
魔物の死骸から銅貨や銀貨を集めているドギー。
どうやら、ここの魔物は光物が好きらしく、迷い込んだ冒険者から、
光物を奪ってため込んでいるらしい。
「しかし、いくら集めたところで、出口を見つけないことには」
「まあまあ、入ってきたんだから出れるだろ」
「そののんきさ、たまには見習いたくなるな」
「たまにかよ!」
コントのような言い合いをしながら、ドギー達は出口を探す。
出るまでは、もう少しかかりそうだと感じるセオドアだった。




