シルフの鍵
その小さな祠の周りを一度ぐるりと回る。
罠はなさそうだし、あったとしても大した罠ではなさそうだ。
大掛かりな仕掛けも見えないので、そう判断した。
「ねー、ねー!開けないの!?」
「分かった、分かった!」
祠から漏れ出す光に向かって手を伸ばす。
そこだけ、穴が開いているようで、すんなりと手は祠の中に入っていった。
「・・・?」
中を弄るが、何もない。
ただ、温かい、と言うより温い感覚が手を包んでいた。
不意に、その手を掴まれる感覚と、何かを握らされる感覚が襲った。
「!?」
急いで手を抜くと、手の中には何かの鍵のようなものと、
手の甲には痣のような紋章が刻まれいていた。
「シルフ様の加護だ!良かったね、人間のお兄さん!」
「シルフの、加護?」
まじまじと、手の甲を見る。
だが、痣のように残っていたその紋章は、次第に消えて行った。
「消えた・・・」
「うん、でも、身体には残ってるよ!
それなら、シルフ様の鍵も、使えるはずだよ!」
「鍵が、使える?」
「うん!加護無き体に門をくぐる資格無しって、シルフ様が行ってたもん!」
このフェアリーが言う事が本当なら、遺跡跡のあの扉を開けられるのだろうか?
「ねえねえ、お兄さん。そろそろ戻った方がいいよ」
「え?」
「祠から鍵が無くなったんだから、この空間も意味のないものになるの」
「だから?」
「うん、崩壊するよ」
フェアリーがそう言うと同時に自身が起こる。
「まずいな・・・!」
垂らしたアラクネの糸に掴まり、二度引く。
セオドアへの合図だ。
「フェアリー!お前は・・・!?」
危険だから、一緒に脱出しようかと考えたが。
その姿は忽然と消えていた。
徐々に強くなり始める地鳴り。
揺れも、酷くなる。
「まずい・・・セオドア!?」
瞬間、アラクネの糸が上方向へと引き上げられた。
――――――――――――――――――――
「うぉ!?」
引き上げられたのはほぼ一瞬だった。
降下した時間に比べれば、何十倍もの速さだ。
「おっと!」
大穴から飛び出した俺の身体を抱きとめるセオドア。
「大丈夫か、レオ!」
「ああ、鍵が手に入ったんだが・・・!」
揺れは、この部屋にも起きていた。
まさか、これは。
「逃げた方がよさそうだぜ、レオ!」
「ああ!」
案の定。
ダンジョン全体に揺れが起こっていた。
『風洞のダンジョン』の崩壊が始まった。
――――――――――――――――――――
「ぬぉわぁあああ!!」
訳の分からない声を張り上げつつ、俺達はダンジョンの出口を探していた。
脱出するためには、入り口か出口にある結晶を使えばいいのだが。
入り口への道は既に崩れており・・・俺達は出口を探して奔走していた。
「こっちも駄目じゃ!」
「向こうもな!」
「右だ、右に曲がれ!」
崩れていない道を必死になって探し。
走り抜けた先には。
「出口じゃ!主様!」
「ああ!!」
階段の横にある結晶が光る。
同時に、天井が崩れ始めた。
「くそ・・・!」
間に合え・・・!
結晶に触れると、光が辺りを包む。
――――――――――――――――――――
「は、はは、ははは!」
助かった。
体中、崩れた壁から出た埃で埃まみれになっていたが。
俺達全員、生きていた。
辺りを見渡すと、二人の警備が俺達を見ていた。
そして、響く轟音。
風洞のダンジョンの入り口が崩れ去っていった。
「わ、ワーレスのダンジョンが!?」
「くそ、何が起きたんだ!」
その日、ワーレスの名物であるダンジョンは崩れ去った。
だが、次の日には。
街中や郊外に複数のダンジョンの入り口が出来ていた。
どうやら、鍵を取って崩壊したダンジョンはさらに複雑化し。
その入り口も大量に生まれてしまったらしい。
俺達はその様子を、宿の窓から見ていた。
「大変なことになったな」
セオドアがそう呟く。
「じゃが、街の人は嬉しそうじゃぞ」
「それだけ、稼ぎ口が増えるからじゃないでしょうか?」
「現金な奴らだぜ・・・」
たくましいとも思うが。
手に握る、シルフの鍵を見る。
「そいつが遺跡跡のシルフの扉を開けるっていう鍵だよな?」
「ああ」
緑色の小さな鍵。
それは、手のひらの中で怪しく輝いていた。
「だが、キンカシャに戻れるだけの金はあるか?」
ドギーがセオドアにそう聞くと。
セオドアは首を横に振った。
「前の金貨で色々と買ったからな。
多少稼いで行かないと、路銀が尽きるぞ」
「あー・・・じゃあ、もう少し稼ぐ必要があるか」
「私の、糸を売ればいいんじゃないですか?」
ラーサがそう提案してくれるが。
「これは貴重品じゃ、売るよりも材料にした方がいい。
それに、稼げる口は、目の前に広がっておる」
「あ、じゃあ・・・私、『草原の薬草屋』で働きますね」
「キーラ?」
「皆さんは危険な場所で働いてますし、私も働かなきゃ、ってそう思うんです。
だから、お婆さんに言って、働こうかな、と」
そうか。
それは助かるが。
「それじゃ、俺達はもう一度ダンジョンに潜って。
キーラちゃんはバイトして、ラーサちゃんは・・・」
「私は、その・・・山に居を構えようかと思います」
「このワーレスの近くにか?」
「はい・・・街の近くに良さそうな洞窟があったので。
そこに、身を隠そうかなと」
「懸命だな、その身体だと、俺達との冒険も難しそうだし」
アラクネの巨体だ、隠すにも無理がある。
それに、助けた報酬なら既に貰っている。
「皆さん、本当にありがとうございました」
丁寧にペコリと一礼するラーサ。
「うむ・・・では、選別の魔法じゃ」
コトハが魔法をラーサに掛けると、アラクネの身体が人間のものになる。
「効いているうちに、洞窟までたどり着くんじゃぞ」
「は、はい!ありがとうございます!」
ぺこぺこと何度も頭を下げ、ラーサは部屋から出て行った。
「礼儀のいい子じゃないか。アラクネって、妖艶でずる賢そうなイメージだったけど」
「個体によるだろ、それは」
人間と同じだ。
いい奴もいれば、悪い奴もいる。
そう言うものだ。
「さあてと!働くか!な、レオ!」
「ああ、路銀稼ぎと行こう」
鍵は手元にある。
これで、ゴイア教が先に開くという事態は避けられるだろう。
だが、油断は禁物だ。
しっかりと準備をして、路銀を稼ぎ。
安全に、キンカシャへと戻ろう。




