再挑戦の準備
バーテンダーから、この周辺の話を聞いた。
商店街の品揃えや、裏路地の店での注意点。
宿屋の選び方、など。
「ダンジョンはどうなんじゃ?」
「風洞は・・・そうですね」
隣の客に酒を出しながら、バーテンダーが考える。
「どこに繋がっているのかわかりませんので、適宜対処するしかありません。
寒さに強い装備、その逆に暑さ対策も必要でしょう。
しかし、一番必要なのは、撤退につながる要因を消すことですな」
「撤退につながる・・・毒や、麻痺での行動不能か?」
「それも一因ですな」
グラスを拭き始めるバーテンダー。
隣に座っていた客が腰を上げると、別の客がそこに座った。
そして、酒を頼んでいるようで、バーテンダーがその準備を始めている。
「お客さんも、何か頼みますかい?」
「ああ、じゃあ・・・アルコールの入ってないものを2つ」
「はいはい・・・それと、一番の撤退の要因は、仲間割れが多いですね」
「仲間割れ?」
意外な言葉だ。
ダンジョンに潜るからには、チームワークは大切なものだ。
それなのに、仲間割れで撤退するのか?
「ワーレスには野良の冒険者も多くいます。
ほら、あの・・・店の端で飲んでいる人達はチームを組んでない人たちですよ」
目でその位置を教えてくるバーテンダー。
横目でそちらを見ると、いかにもガラの悪そうな男達が酒を飲んでいた。
「まあ、チームというものは一人でも意志の違う者がいれば瓦解します。
特にワーレスは、まとまったチームというのが少ないのですよ」
「・・・なるほど」
昨日のダンジョンの事を考えれば・・・。
一人でも勝手な行動を取れば、即撤退もあり得るだろう。
「そういう意味では、しっかりとしたチームなら、案外最奥まで行けるかもしれませんね」
「今まで行ったチームは?」
首を振るバーテンダー。
「いや、最奥近くまで行ったチームは存在するんですがね。
最後の扉が開かなかったとか」
最後の扉・・・か。
シルフに関する、何かだろう。
「まあ、最奥に眠るのが何なのか、分かっていない方がいいんですよ。
ダンジョンの価値が落ちてしまいますからね」
そう言う考えもあるか。
だが、最奥のものに、俺達は用がある。
「道中で稼げるので、奥まで行こうとする人は少ないんですけどね」
「なるほどのう、途中の黄金の場所で金貨でも持って帰れば、それでよいのか」
「ええ、欲張ると死にますがね」
バーテンダーが飲み物を二つ、目の前に出してくる。
「どうぞ、フルーツティーになります」
「ああ」
グラスに入ったフルーツティーをコトハに渡す。
少し飲んでみるが・・・甘いな、これは。
「ちなみに・・・お客さんは何処まで?」
「途中で撤退したよ」
「そうですか、なるほど」
何度かバーテンダーが頷く。
「では、いいお店を紹介しますよ。
次にダンジョンに入る際は、そこで道具を買うといいでしょう」
そう言うと、紙きれに道具屋の名前らしきものと、簡易的な地図を描いてくれた。
「・・・『草原の薬草屋』?」
「ええ、ワーレスでは珍しい、安くて効きのいい薬を扱っている場所ですよ?」
そうか、目を通しておいて損はなさそうだ。
キーラにも着いてきてもらうか。
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バーテンダーに礼を言って、代金を払って酒場を後にした。
『草原の薬草屋』か・・・外観だけでも見に行ってみるか。
コトハと散歩がてら、その薬草屋を覗きに行った。
夜にも差し掛かったせいか、既に閉店していたが・・・確かにそこにあった。
「古い店のようじゃな」
「ああ」
見た目でわかる、その古さ。
建屋は少し傾いて、傾いた場所を支えるように木材を立てかけてある。
・・・これは、歴史がありそうな店だな・・・。
「じゃが・・・ふむ」
鼻をクンクンとコトハが動かすと。
「うむ、良さそうな店じゃ。しっかりとした薬品を作っておる」
「匂いでわかるのか?」
「ある程度じゃがな?」
・・・明日の朝にでも、訪ねてみるか。
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戻る頃にはとっぷりと更け。
辺りは暗闇に包まれていた。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
気の良さそうな宿の主人に出迎えてもらった。
「ああ、有意義だったよ」
「主人、『草原の薬草屋』を知っておるか?」
「え、ああ・・・偏屈な婆さんが営む、薬屋ですけど」
「偏屈?」
「ええ、薬は安いので利用客は多いんですが。
その代わり、かなり・・・対応が悪いので嫌うお客さんも多いんですよ」
なるほど、接客が悪いって事か。
まあ、俺達にはあまり関係ない話だろう。
薬を売ってもらえないというのなら、問題だが。
部屋に戻ると、散歩の疲れが出たのか・・・眠気が襲ってきた。
コトハも同じようで、フラフラしている。
「ふぁ・・・少し歩きすぎたか」
ベッドに腰かけると、すぐに眠気が襲ってきた。
あくびを噛み殺しながら、ベッドに横になる。
その様子を見たコトハが、上から覆いかぶさるように腹の上に乗ってくる。
「お前のベッドはあっちだぞ・・・」
「良いではないか」
そう言うと、コトハは目を瞑って寝息を立て始めた。
やれやれ・・・。
押し返す気力もなく、コトハごと毛布を被り寝ることにした。
「おやすみ・・・」
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「ドギー、体調はどうだ?」
「大丈夫だって。明日にでも、ダンジョンに行けるぜ?」
元気よくそう返すドギー。
セオドアはその様子を見て不安になっていた。
「本当だろうな?お前の場合、無理をすることが多いからな」
「だから大丈夫だって、キーラちゃんの薬もよく効いたしさ」
「ならいいが・・・」
心配性だな、と呟くドギー。
「だが、一体あのダンジョンの奥には・・・何があるんだろうな?」
ベッドに横になりながら、ドギーがそう言う。
セオドアは顎に手を当てて何か考えている、
「シルフの遺跡を開ける、鍵が入ってるんじゃないか?」
「鍵ね」
「もしくは、扉を開けるヒントか」
何にせよ、ここのダンジョンには扉に関する何かが眠っていると。
そう感じるセオドア。
「大層なものをしまってそうだな、扉の先には」
「ああ・・・そうだな」
宝か、何かは分からないが。
その先にあるものは、この大陸を揺るがす何かだろう
(なんにせよ、私がドギーを守らないと)
セオドアの中のセーシュは、強いくそう思い返す。
「なんだよ、俺の事じっと見て」
「何でもない、病人は寝ていろ」
「へいへい・・・」
枕に頭を付けると、ドギーは寝息を立て始めた。
「手のかかる奴だ・・・」
兜を取り外し、セーシュはドギーを見る。
「まあ、そこが悪くないんだけどね」




