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田舎冒険者と白狐  作者: 倉秋
ハントシーズン編
4/53

ロリ白狐 誕生

馬の逃げた馬車を押しながら歩いている。

ゴブリンに奇襲された近くに放棄されていた。


中身は・・・先のミノタウロスにやられた仲間の冒険者の死体だ。

・・・ギルドまで届ければ、彼らも家族の元に帰れるだろう。


街まであと少しというところでコトハが話しかけてきた。


主様(ぬしさま)


「ぬしさま・・・?」


何だ、その言葉?

聞きなれない言葉に、首を傾げる。


「レオの呼び方じゃ、それとも・・・旦那様の方が良いか?」


ニヤリと笑うとこちらの顔を覗いてくる。


「・・・いや、主様でいい」


俺に選択権はない・・・反論すると更にややこしくなりそうだ。

公衆の面前で旦那様などと呼ばれようものなら、そういう関係だと思われるだろう。

それに比べれば、まだまし・・・か?


――――――――――――――――――――


ギルドの前まで馬車を押してきた。

多少疲れたが、やはり、身体は強くなっている。

コトハに生き返してもらう前なら、馬車を押してここまでは来れなかった。


ギルドの扉を開ける。

目線が一瞬、こちらに向いたが、直ぐに各々の仕事に戻った。

昨日来た時よりは、人は少なかった。


昨日、応対してくれた受付嬢の前に立つ。

一瞬驚いた表情をしたが直ぐに顔を戻すと。


「・・・生きていましたか。報告では、全滅と聞いていましたが」


書類に目を通しながらそう言う。

忙しそうということもあるが、こちらに興味がないのは見て取れた。


「俺以外は・・・いや、隊長だけは逃げたか」


「クブツ隊長なら、ゴブリン達との戦いで負傷して、退避したと聞きましたが」


・・・退避?

自分の部下を、見捨てて?


「・・・彼には、後で話を聞かなければいけませんね。

 それで、ご用件は報酬の話ですか?」


ハントシーズンで一攫千金ができるというのは、この報酬にある。

通常の依頼の場合、ギルドが用意した依頼をこなし、

それによって賃金を得るシステムになっている。

だがハントシーズン中は違う。

狩った魔物に対して報酬が支払われるのだ。

ゴブリン一匹ならいくら、オーク一匹ならいくら・・・という感じだ。

そして、それを証明するために、彼らの体の一部を貰っていく。


例えば、ゴブリンなら右耳、ユニコーンなら角、という感じだ。

人型でない場合は、その魔物の特徴的な部分を切り取って提出する。


あの場で俺が倒したのは、ゴブリン三匹。

あと、コトハが倒したミノタウロスの角も切ってきたが・・・。

俺が倒したわけじゃない、出すか・・悩んでいた。


「どうしました?提出、されないのですか?」


「ああ、悪い」


ゴブリンの耳を袋から取り出す。

が、横からコトハが手を突っ込み、ミノタウロスの角を机に置いてしまった。


「これは・・・?」


「レオが倒した、間違いないぞ」


不審な目で俺を見る受付嬢。


・・・Eランクで倒せる相手じゃない。

Aランクですら、複数なら手こずる相手だ。

怪しまれるぞ、これは。


「・・・まさか、横取りしたわけでは?」


ほら、予想通りだ。

普通なら、疑って当然だ。


「何?レオを疑うのか?」


受付嬢に食って掛かるコトハ。


「あなたは誰ですか?見たところ・・・冒険者ではないようですが」


コトハの服を見る。

異国の服を着た女性、そう見えるだけだろう。

狐の耳も見えてはいるが、この国では獣人は珍しくない。


「・・・関係者でないのなら、口を挟まないで下さい」


苛立ち気にコトハを睨みつける。


「コトハ、行くぞ」


「じゃが・・・」


「いいから」


コトハの腕を掴む。

騒動が大きくなる前に、撤収することにする。

机に置いたミノタウロスの角をしまう。

・・・と、帰る前に、正当な報酬は頂こう。


「ゴブリン三匹分の報酬は貰うぞ」


「ええ、それは構いませんよ」


「・・・それと、ギルドの前に馬車を置いてきた。中身は・・・俺の仲間たちだ」


受付嬢が一瞬眉を(ひそ)めるが


「・・・分かりました、こちらで対処しますので」


そう言うと、ゴブリンの耳を受け取り、箱に入れる。

書類と銅貨六枚を手渡される。

それを鞄に押し入れ、ギルドを去った。


――――――――――――――――――――


ギルドを後にし、昨日の宿に帰る。

・・・後ろに着いてきているコトハはむくれ顔だ。

まあ、気に入らなかったのだろう。

俺も、余り付き合いたくはないタイプだ。


宿には昨日と同じように、婆さん一人が店番をしていた。

主人はコトハを見ると。


「一人分、追加かい」


・・・銅貨四枚を払う。

部屋の鍵を2本手渡してくる。


「のう、店の主人?」


「なんだい?」


銅貨を懐にしまい、コトハに顔を向ける。


「ここの街のギルドは、ああいういけ好かない者ばかりなのか?」


「いけ好かない?・・・はっはっは!よく言うねぇ」


この婆さんでも、こんなに笑うのか。

ちょっと印象が変わった。


「ああ、ハントシーズンなんてそんなもんさ。一人一人に構っている時間なんて少ない。

 まあ、アンタらが一級の冒険者なら、態度も変わるだろうけどね」


・・・それじゃ、程遠い存在だな。

こちとら、Eランクだ。


鍵が二つということは、別々の部屋ということだ。

・・・隣同士の部屋で安心はした。

しかし、コトハは不服なようで。


「何故、主様と一緒に寝られないのじゃ?」


「・・・それは勘弁してくれ・・・」


身が持たない。

というより、理性が持たなくなる。

告白は受けたとはいえ、俺も踏ん切りが出来てないし、一線は守るべきだ。


――――――――――――――――――――


夜が近づいて来る。

辺りは暗くなり始め、子供の姿も無くなった。

食事を取ろうと、バッグの中を探る。

コトハの分も考えると、足りないかもしれない。


「・・・何もないな」


昨日で携帯食も食ってしまった。

というより、コトハに携帯食を食わせるのは気が引ける。


・・・しょうがない、外で食べてくるか。

そう思い、コトハを呼びに行く。


隣の部屋のドアを叩く。


・・・反応がない。

気になったので、ノブを回すが、鍵は開いていた。


「寝てるのか?」


ゆっくりとドアを開けて中を覗く。

・・・一瞬、コトハ特有の甘い臭いがしたが、無視しよう。

ベッドの上には寝ている誰か。

まあ、コトハしかいないのだが。


部屋に入り、寝ている人物を揺り起こす。


「食事をしに行くぞ・・・コトハ?」


寝ている人物は確かにその人なのだが。

耳も同じ、格好も一緒。

だが・・・。


「小さくなってる!?」


目の前の女性は、先ほどまでいた、豊満な姿をした女性ではなく。

・・・小さい少女が、丸まって寝ていた。


「・・・んぅ?」


コトハの片目が開くと、こちらと目が合う。


「・・・なんじゃ、主様か・・・」


のそりと起き上がるが、服が大きいままだったので、色々とずれた。

正確に言えば胸が見えそうになった。


「!」


咄嗟に目線を外す。

その様子を見たコトハは不思議がっている。

そして、目線を自分の体に移すと・・・


「・・・おお、ちっこくなっとる!」


今気づいたようだ。


自分の小さくなった身体が珍しいのか、身体中を触っている。

・・・一応、俺の着替えがあったのでその中で着れそうなものを着せた。

と言っても、裾の長い上着を上に一枚着ているだけだ。

これじゃ、外は出歩けないな・・・。


「はぁー・・・どうするか」


財布の中の金を見る。

・・・彼女に服を買ったら、全て無くなる。

だが、外に出ないことには仕事ができない。

コトハを置て行けばいい話だが・・・今の状態で一人っきりは危なっかしい。

どうしたものかと、考えるが。


・・・妙案が浮かばない。

頭を抱えていると、心配そうにコトハが顔を覗き込んでいた。


「主様、どうしたのじゃ?」


声も、若返っているみたいで、多少違和感を感じた。


「あ、ああ・・・色々な。これから先の事を考えてただけだ。

 着替えも必要だろ?」


「むぅ、そうじゃな」


そう言うと、シャツ一枚の身体で、自分が着ていた巫女服をカバンから取り出した。


「?」


何をする気だろうか。


「これをこうやって・・・こう!」


見る間に縮小していく服。

・・・え?


「小さくなった!?」


再度そう驚いた。


「ああ、これは・・・魔法で作った巫女服じゃ。

 と言っても、防具としては優れてないが」


便利な服もあったもんだ。

・・・というより待て。

シャツをいきなり脱ごうとしている。

身体を反転させ、見ないようにする。


もぞもぞと服の脱ぐ音と、服がこすれる音が聞こえる。


「なんじゃ、見ないのか?」


「お前な・・・少しは恥じらいをだな」


終わったようなので目線を戻す。

・・・本当に、小さくなったコトハがそこに立っていた。


「しかし・・・なんで小さくなった?」


最大の疑問だ。

人間だったら、あり得ない状態だしな。


「まあ、能力を失った反動の一つかも知れん・・・詳しくは分からん」


「元には戻れるのか?」


「無理じゃな、じゃが・・・時間が経って、能力が戻り始めれば・・・」


そうか。

・・・一応は元に戻れるってことか。

時間は掛かりそうだが、安心はした。

だが、しばらくの旅は・・・この小さい子との二人旅になりそうだ。


――――――――――――――――――――


夜更け過ぎ。

外はすっかり暗く、ランタンの光が無ければ真っ暗だろう。

机の上にランタンを置き、家計簿を付ける。


「ひいふう・・・食事代を差し引いて・・・残りはこれだけか」


銀貨一枚と銅貨一枚。

実質、銅貨が11枚あることになる。

・・・二日泊まったら、残りは三枚。

その間の食費で全部消えると考えると、残り二日ですっからかんだ。


「・・・ハントで、稼ぐしかないな」


明日も、ギルドへ行かなければいけないだろう。

じゃなきゃ、破産する。

家計簿を閉じ、付箋に残り金額を書いておく。


ランタンの油代も馬鹿にならないし、そろそろ寝るか。


――――――――――――――――――――


宿で迎える三日目の朝。

ハントシーズン終了まで、あと五日だ。

次がいつ起こるか分からない以上、出来るだけ稼げる場所に行かなければいけない。

ベッドから起きようと、身体を動かす。


しかし、身体に異変がある。

正確には、重い・・・?

遅くまで起きたせいだろうか。

・・・特に、左腕辺りが。


左腕の方を頭を動かしてみる。

考えたくもなかったが、ある考えが頭をよぎったからだ。


「・・・んにゃ」


俺以外にベッドで寝ている奴がいる。


左腕が重い理由は分かった。

コトハがしっかりと、腕に抱き着いているからだ。

身体が重いのもそれで納得がいった。


「んへへー・・・ぬしさまぁ」


・・・こいつ、どんな夢を見てやがるんだ・・・。


小さいとはいえ、女性だ。

そこのところ、意識してほしいとも考える。

・・・俺も男なんだからな。


結局そのまま、彼女が起きるまで、俺はそのまま動かなかった。

彼女も彼女で、起きるなり


「おはよう、主様」


とだけ言うと、何事もなかったかのようにベッドから起きて行った。


「妖狐だと、これが普通なのか・・・?」


ベッドの上で首を傾げる。

左腕に残る感触。

頭を掻く。


「・・・もやもやする、ランニングでもしてくるか」


服を着替え、外を走ることにした。

・・・こんな生活が長引くと、身体が持たなくなるかもしれない。




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