腐れ場の主
ぬちゃぬちゃと音を立てながら、目の前の腐ったようなスライムはこちらを警戒する。
こちらも、足場が悪く・・・下手な攻撃が出来ない。
毒沼は、所々にガスが噴出し、周りの空気を汚している。
持久戦はまずいが、打つ手に掛ける状況。
つまり、危険な状況だ。
「なあ、レオ。お前・・・なんか、策は無いか?」
「考えてるところだ・・・げほ」
毒が体の中に、入ってくるのを感じる。
目の前のスライムは、こちらを警戒しながら近寄ってこない。
だが、無視して通れもしないだろう。
現に、こっちが動こうとすると、それに反応してスライムも移動している。
「のう、主様」
「どうした?」
「ここの毒は、可燃性らしい・・・使えぬか?」
辺りを見渡す。
毒沼からポコリ、ポコリと出ている泡のようなものは、
はじける度に毒のガスをまき散らしている。
「駄目だ、俺達にも被害が出るぞ」
これだけ、ガスが充満している。
俺達にも被害が出る。
「あれだけデカいスライムなんだ、中に詰まってるガスも相当なものだろうな」
「ガス?」
「ああ、なんていうか・・・ほら、体内にもガスが濃縮されてるんじゃないか?
口からも、ガスを吐き出すほどなんだからな」
・・・そうか、その手があるか。
「コトハ、奴の口の中に火を起こせるか?」
「あ、ああ・・・可能じゃが・・・どうする気じゃ?」
「奴を爆発させる」
――――――――――――――――――――
「げほ・・・つまり、スライムは可燃物の塊の状態なんだ。
火をつけてやれば、大爆発するだろう」
「おいおい、それは・・・げっほ!俺達も、まずくないか?」
お互い、毒にやられ始めている。
コトハは耐性があるのか平気そうだし、セオドアも大丈夫そうだ。
「まずい・・・ああ、俺達も巻き込まれる・・・って事か?」
「ああ、げほ・・・そうだ」
「・・・セオドア、その鎧は爆発に耐えられるか?」
「む?ああ・・・ある程度ならな」
そう答えてくれるセオドア。
なら、やりようはある。
「火をつけると同時に、セオドアの陰に隠れるんだ。
爆発はスライムを中心に起きる・・・その方面からの爆発を防げればいい」
「なるほど、私が盾になるという事か」
「いいか?」
セオドアは腕を組んで考えるそぶりを見せる。
「ああ、だが・・・貫通しても文句は言わないでくれよ」
そう言うと、大型の盾を構えた。
「コトハ、準備だ」
「お、おお・・・『狐火』」
指先に火を灯すコトハ。
その様子を見たスライムが、触手のようなものを伸ばしてくる。
「ギリギリまで粘るぞ、ドギー」
「ああ!」
次々と、粘膜を伸ばしながらこちらに向かってくる触手。
近付く触手から斬り落とす。
しばらくは様子を見る為か、触手の行動は緩慢だった。
しかし、次第に触手の数と、動きが鋭敏になり始める。
「くそ!キリがないぜ、レオ?」
コトハに向かう触手は、セオドアが対応してくれていたが。
俺達に向かってくる触手の数は、どんどん増えて行った。
「はあ!」
数本まとめて切り払うが、先を失った触手はその場で新しい先端を生み出し、
またこちらに襲い掛かってくる。
「いいぞ、主様!」
両手に狐火の光を灯すコトハ。
「ああ―――」
「って、ぬわ!」
隣にいたドギーが、触手に足を取られ、引きずり上げられた。
空中で何度も剣を振り、触手を切ろうとするが・・・。
足元までは、剣が届いていない。
「くそ!ドギー・・・!」
近くによる触手を切り裂き、ドギーに近づこうとする。
だが・・・スライムの触手は行く手を阻む様に、俺の前に立ちはだかる。
「レオ!さっさと爆発させろ!俺は大丈夫だ!」
そう言うと、ドギーは剣で自分の足を拘束していた触手を切り裂いた。
下の沼に落ちるドギー。
「・・・くそ、コトハ!」
「うむ・・・よいか、セオドア」
「ああ、あの程度で死ぬ、ドギーではない」
セオドアの後ろに隠れる俺。
「ゆくぞ、『狐火』!」
コトハがスライムを指さすと、小さな青い炎がスライムの口の中に現れる。
そして、その青い炎が赤くなり始めた瞬間。
スライムの周りに、空気を吸い込むような音がし始めた。
「構えろ!」
セオドアの後ろにコトハを引き込み、その上から俺が抱きしめる。
その行動と同時に、耳をつんざくほどの爆発音と、衝撃波が襲い掛かった。
――――――――――――――――――――
爆発音は一瞬で駆け抜け、スライムのいた場所を見ると。
・・・大穴が開いて、毒沼の紫色の液体がその下に流れ込んでいた。
穴を覗くと、暗い闇が広がっていた。
「げほ・・・!やれやれ」
ドギーが沼から立ち上がった。
「大丈夫か?」
「ああ、寸前で岩の陰に隠れたからな。
それより・・・こりゃ、すごいな」
大穴を覗くドギー。
吸い込まれそうなほど、深い穴だ。
「だが・・・向こうに行けるか?」
セオドアがそう聞く。
確かに・・・スライムの爆発のせいで、向こう側には渡れそうにない。
予想通りなら、あっちに次の階層への道があったはずだ。
「・・・仕方ないの、いったん戻るか?」
「ああ・・・そうだな。ドギー、本当に大丈夫か?」
「げほ・・・少し、毒沼の水は飲んじまったが・・・まだ大丈夫だ」
大丈夫そうには・・・見えないな。
爆発でのダメージはほとんどなさそうだが、毒沼に落ちた際に、
結構な量を飲んだようで、顔色が徐々に悪くなっている。
「・・・セオドア、一度地上に戻ろう。
この状況は、撤退が妥当だ」
「ああ、私もそう思う」
「なんだよ、まだ大丈夫だって・・・!」
無理に元気を出そうとするが、ドギーがよろけた。
その身体を支えるセオドア。
「撤退が妥当じゃ、無理をするな、ドギー」
「ああ・・・悪ぃ・・・」
そう呟くと、ドギーはぐったりとした。
「戻るには、入り口か出口の近くにある水晶を触ればいい・・・そうだったな?」
「ああ」
――――――――――――――――――――
階層の入り口付近まで戻り、隅にある小さな水晶に触れる。
すると、全員を魔法陣が包み。
一瞬で、地上まで転送された。
ここは、確か・・・ダンジョンの入り口だ。
見張りが二人、こちらを見ている。
「戻ったか・・・毒でも受けたのか?」
「ああ、薬は無いか?」
「無い、自分で何とかするのも、ワーレスのルールだ」
「そうかよ・・・げほ」
「だ、大丈夫ですか!?」
キーラがこちらに走ってきた。
「ちょっと待って下さいね」
キーラが、セオドアに背負われたドギーの顔を触る。
「腐り毒・・・ですね、少し待って下さい」
ポシェットを探ると、薬草らしきものの粉末をを混ぜ合わせた。
それを団子状にして、ドギーに食わせる。
「むぐ・・・!?」
一瞬、何をされたか分からなかったドギーは口に放り込まれたものを咀嚼したが。
顔が青くなり、セオドアから滑り落ちるように気絶した。
「苦いですけど、我慢して下さいね」
「キーラ・・・言うのが遅いの?」
「え?」
キョトンとした顔をするキーラ。
・・・しかし、調剤も出来るのか。
意外に、器用だな・・・キーラ。




