黄金の先の腐れ場
湿った風が頬を撫でる。
気持ち悪いわけでは無いが、この先からは、嫌な臭いを感じる。
腐敗臭というか、墓地に近い臭いが鼻につく。
暗い通路を抜けていくと、急に広い場所に出た。
・・・やはり、臭いの正体は墓地だ。
地面には、大量の墓石がそびえ立っている。
その地面も、腐っているようで、紫色に変色している。
「うへぇ・・・まさか、墓地の真ん中かよ」
「気を付けろよ、何が埋まってるか分からないかならな」
墓石の間を縫うように抜けていく。
踏みしめる土の感触は、気色が悪い。
それと同時に、ここで戦闘になった場合の事を考えていた。
(足場が悪い、戦いは不利になるな)
そう思いつつ、墓場を抜けていく。
――――――――――――――――――――
土に足を取られながら進む事数分。
密室に近い空間で、墓場を抜けていくのは、精神的に来るものがある。
さっさと抜けたいところだが・・・。
「む・・・!」
セオドアの足が止まる。
「どうした、セオドア?」
ドギーが近づき、様子を見ている。
セオドアは足に何か引っかかったのか、右足を抜こうと動かしている。
「一体何が―――」
ドギーがセオドアの足に顔を近づけた瞬間。
地面から腕が飛び出した。
「うぉぉ!?」
飛び退いて驚いているドギー。
こいつは、ゾンビの手か?
腐ったような外観の人の腕が、地面から生えている。
ゾンビは基本的に人畜無害だ。
一部じゃ噛まれたら感染してゾンビになるとか、人肉食が普通だとか言われるが。
彼らは身体が腐っている分、必要な栄養が少なく。
全体的に小食な種族だ。
こちらから、手を出さない限りは大人しい種族・・・なんだが。
見た目のせいで、完全に損をしている種族だ。
地面をかき分けるように、這い出てくるゾンビ。
予想通り、腐っている身体がお目見えした。
「・・・貴様ら、我々の縄張りに入るのはいかんぞ」
「え、縄張り?」
驚いていたドギーが周りを見渡す。
「墓場だけじゃないか、お前らの縄張りって、墓場なのか?」
うむ、と頷くゾンビ。
「そうか、それは悪かったな。
次の場所に進むために、ここを通りたかっただけなんだ」
「次の場所・・・か、シルフ様のお宝を目指しておるんだな?」
「知っておるのか?」
コトハがそう聞くと、ゾンビは頷く。
「いい事を教えておこう。
『風は反対へは向かわん。流れのいくままに、風を信じて進め』、覚えておけ」
「風・・・」
一応、手帳にメモをしておく。
何か、引っかかる物を感じたからだ。
「ではな」
そう言うと、また地面に埋まり始めるゾンビ。
身体が見えなくなると、地面も平坦に戻る。
「おお・・・腐ってるから敵かと思ったんだが」
すんでのところで、剣を引き抜かなかったドギー。
セオドアは、腕を組んでいた・・・ゾンビの事を知っていたようだな。
「観念で見るのはいけない話だ。その種族の事を知るのも、
冒険者としては当然の行動だぞ、ドギー」
「へいへい、勉強不足で悪いね・・・」
そう言って、ドギーは頭を掻いた。
しかし・・・この墓地がゾンビの縄張りだったとは。
・・・静かに歩いた方がよさそうだ。
――――――――――――――――――――
墓地を抜けても、地面の色は変わらない。
なんだ、少し・・・胸騒ぎがして来た。
ゾンビはあそこに住んでいるようだったが、この先。
墓地ではなく、この先から・・・何か、嫌な予感が感じられる。
しばらく歩くと、毒沼が目の前に広がった。
先の見えない程、暗闇が広がっている。
ここは本当に、ワーレスの地下なのかというほど・・・広い。
一陣の風が頬を撫でる。
「嫌な風じゃ」
「ああ・・・気色が悪い」
毒沼や、その周りに生える茸。
沼が放つ臭いでそう感じるわけでは無い。
何か、この先に・・・いる様な気がするのだ。
「さっさと行こうぜ・・・毒沼の毒が回る前にな」
「ドギーに賛成だ・・・急いで渡ろう」
辺りを見渡すが、毒沼を渡るのは回避できそうにない。
出来るだけ、浅い部分を通って進んだ方がいいだろう。
一歩、毒沼に足を踏み入れる。
ぶにゅりとした感覚が、ブーツ越しに伝わる。
だが、そこが浅いようでブーツはそこまで沈まなかった。
「これなら、いけそうだな」
だが、毒は体を蝕むだろう。
急いで、抜けた方がいい。
――――――――――――――――――――
毒沼を渡り始めて数分。
所々にある深みにはまりながら、先に進んでいた。
途中から、暗闇でほとんど見通しが取れなくなったので、松明を片手に渡っている。
松明に照らされる毒沼は、紫色を照り返す。
それを見るだけでも、気が滅入ってくる。
「なあ、レオ」
「ん?」
「この先、本当に道があるのか?さっきから、沼ばかりじゃないか」
「・・・わからん、だけど・・・こっちの気がするんだよ」
「おいおい、気がするって・・・?」
呆れて、俺に聞き返そうとしたドギーは、目の前を見て唖然としていた。
そして
「お、おい・・・レオ」
そう言って、目の前を指さしたドギー。
「なんだ?」
「目の前!」
ドギーがそう叫ぶ。
指さした先を、目で追うと。
平坦で、所々から岩がせり出している毒沼から。
何か、が姿を現した。
見た目はドロドロのスライム。
だが、その・・・巨大さはスライムの比じゃない。
全身に、岩や苔がくっつき・・・表面は毒沼と同じ色をしていた。
数mあろうかというその巨体に、俺達は呆気に取られていた。
そして気づく。
「まずい、離れろ!」
スライムが、徐々にだがこちらに近づいてきていた。
分かった・・・嫌な感じは・・・こいつからだ!
スライムの口のようなものが開くと、物凄い瘴気を含んだ風が吹き起った。
「ぐ・・・!」
咄嗟に口を押さえたが、少し吸い込んでしまった。
「・・・げほ!くそ」
奴の吐く息は猛毒だ。
少し体に入っただけで、身体にだるさが出てくる。
「くそ、足元はおぼつかないし、どうやって逃げるんだよ」
奴とこっちの距離が近すぎる。
逃げようとしても、途中で捕捉される。
「戦うしかない・・・!」
剣を引き抜く。
スライムに効くか、分からないが・・・戦う前にやられるよりはましだ。
ドギーも、セオドアも武器を抜く。
コトハも、詠唱を始めた。
「ああ、やるっきゃないな!」
「・・・ああ!」
目の前のスライムが吠えるように口を開く。
こいつを倒さなければ、先に進めないな・・・!




