ワーレス冒険者ギルドでの一幕
『ワーレスへようこそ』と書かれた木の門をくぐると、街の全貌が見えてきた。
巨大な冒険者ギルドが広場の中心にあり、その周りに武器屋や防具屋がひしめいている。
露天商も多く商いをしているようで、馬車で通るのも苦労するくらい、道が狭い。
「すごい賑わいようだな・・・」
「ええ、ワーレスに物資が集まる理由・・・分かるでしょう?」
商人がそう言うと、馬車を広場の端にあるスペースに止めた。
2台の馬車が、綺麗に並ぶ。
商人は馬車から降りると同時に、荷台の商品をいじりだした。
俺達も、商人の後に続いて降りる。
「ああ、これが報酬ですよ」
荷台から、小袋を取り出した商人。
その小袋をこちらに手渡してきた。
中を確認する。
・・・うん、確かに。
「ありがとうございました。また、よろしくお願いしますよ」
「ああ、縁があったらな」
商人は小さく手を振ると、人ごみの中に消えて行った。
小袋の中に入っていた紙を取り出す。
依頼完了を表す、直筆のサインが書かれた依頼書だった。
ドギーに報酬の半分を手渡し、ギルドに依頼完了を報告にしにいった。
ワーレスの冒険者ギルドは、キンカシャ以上に大きい。
その騒がしさも数段上だ。
目の前のドギーが何か話しているが、一切聞こえない。
大声を出し始めて、ようやく気付いたくらいだ。
「はぁ・・・はぁ・・・うるさいなここ」
ドギーは肩で息をしながら、そう話す。
ギルドの端の待機場所で、ようやく普通に話せた。
「すごい、活気だな・・・」
「ああ」
受付と会話が出来る気がしない・・・。
隣に立っていたキーラも、耳を押さえながらこちらを見ている。
「コトハ、キーラを連れて外に出てくれ」
「分かった、キーラ、こっちじゃ」
そう言って、コトハがキーラを外に連れて行く。
その様子を見ていたひとりの女性が、こちらに向かってきた。
「ここは初めて?」
「あ、ああ・・・キンカシャから、今日来たばかりだ」
大きい胸を、軽装鎧で包んだ女性で、燃えるような赤い髪を三つ編みに編んでいた。
装着しているマントは擦り切れていて、長年旅を続けているように見える。
「そう、なら仕方ないわね。
あと数時間したら、人もはけるから、その時いらっしゃいな」
そう言うと、手をひらひらとさせて去っていった。
今、混み時なのか・・・。
「うぉぉ・・・すっげえ、美人・・・しかも、巨乳!」
ドギー・・・お前。
間もなく、セオドアの鉄拳が振り下ろされたのは言うまでもない。
――――――――――――――――――――
先ほどの女性が言うように、数時間後には人がはけ始めた。
受付嬢に近づき、依頼完了の報告と、商人直筆の依頼書を見せる。
「確かに・・・では、完了という事で。
報酬は受け取っていますね?」
「ああ」
小袋を見せる。
「では、後は我々の仕事ですので、ゆっくりお休みください」
眼鏡を掛けた受付嬢は、そう言うと書類を作成し始めた。
「あのさ、ワーレスのダンジョンについて聞きたいんだけど」
受付のカウンターにもたれ掛かり、受付嬢にそう聞くドギー。
「え?ああ・・・『風洞のダンジョン』のことですか?
なら、出口近くに詳しい者がいますので、そちらに」
「わかった、ありがとな!」
ドギーが受付嬢にそう言うと、出口方面に向かっていった。
興味津々そうだ・・・意外だな。
ドギーの後姿を見ていると、セオドアが口を開く。
「ああ見えて、ダンジョン好きだ。
・・・ナンパさえしなければ、立派な男なんだが」
「・・・それはそう思うけどな。まあ、それも含めてドギーだろうなぁ」
軽い奴だが、悪い奴じゃない。
それに、あいつの行動力には見習うべきところもある。
ドギーに続き、そのダンジョンに詳しいという人の話を聞きに行く。
その人は、初老の男性だった。
「あなた方も、風洞のダンジョンに挑むんですか?」
開口一番、その言葉だ。
まあ・・・彼に話しかけるのは、そのダンジョンに用がある人物だけなのだろう。
「ああ、詳しい話を聞きたい」
「そうですか、では」
男は後ろに積んである書類から何枚か取り出すと、俺達に渡してきた。
その紙には、風洞のダンジョンへの入り方と、注意事項。
そして何があってもギルド側は一切、責任を持たないという一文があった。
「風洞のダンジョンを管理はしていますが。
その、特異ともいえる性質上、救助は困難です。
よって、ダンジョンで倒れた方を助ける方法は無いと、そうお考え下さい」
・・・そうか、入る度に形が変わるのだ。
途中で誰かが倒れたとしても、救う方法はないだろう。
次に入る時は、その人物ごと形が変わっている可能性が高い。
つまり、救助は無理という話か。
「どうして、入る度に変わるんだ?」
「私達も調査はしているのですが・・・詳しい事は。
ただ、異なる空間同士が曖昧につながっている・・・迷宮だと思われます」
異なる空間が、曖昧に・・・?
つまり、ダンジョン自体が変形しているわけでは無く。
ダンジョンの中が、入る度に違う場所に繋がっているという事か。
「ちなみに、落ちている宝や宝箱は、先に見つけた人が優先権を持ちます」
「早い者勝ち、か・・・他の冒険者とばったり出会うこともあるのか?」
「珍しい事ではないですね。一日に数千人以上が潜る時もありますので」
なるほど、ダンジョン内で出会う可能性もあるか。
・・・一悶着ありそうだな、その場合。
「まあ、一度・・・潜ってみることをお勧めしますよ。
風洞のダンジョン、その奥深さが分かるかと思いますので」
「・・・そうか、ありがとう。この紙は返した方がいいか?」
「いえ、取っておいてください。注意事項などにも詳しく目を通していただきたいので」
「分かった」
そう言って、その男に礼をいい、冒険者ギルドを後にした。
――――――――――――――――――――
冒険者ギルドの横。
石の壁で出来た、倉庫のような見た目の中に。
その『風洞のダンジョン』の入り口が存在していた。
地下へと続く階段と、見張り番の男二人がその倉庫のような建物の中に存在していた。
「風洞のダンジョンに挑むのか?」
そういうと、見張り番の男性が手を出してくる。
「通行料は、一人銅2枚だ」
「げ・・・通行料取るのかよ」
紙を見る。
・・・確かに、端に『通行料銅2枚』と書いてあった。
渋々、セオドアの分も払うドギー。
俺も、コトハとキーラの分を払おうとしたが。
「あ、私は待ってますので」
「行かぬのか?」
「ええ、足手まといになるだけなので・・・」
そう言うと、キーラは倉庫の端に立った。
そして、一言。
「いってらっしゃい」
そう言って、その場に座り込んだ。
・・・まあ、来たくないのなら、無理強いはしない。
俺達4人で、地下へと続く階段を降りていく。
ひんやりとした空気が、全員を包む。
「寒いな・・・この先に、何があるって言うんだ」
ドギーの吐く息も白くなる。
俺も、コトハも寒さを感じ始めた。
すると、目の前に、凍り付いた扉が見えた。
「うわ・・・凍ってるな」
ドギーがノブに手を掛けるが、すぐに離した。
その手は赤くなっていた。
「凍傷になるぞ、こいつは!」
「・・・」
セオドアがノブを掴むと、強引に扉を開ける。
すると、その先には・・・氷の洞窟が広がっていた。
「マジかよ・・・」
外気とは全く違う、その洞窟の気温。
・・・そうか、全く違う場所に繋がっているというのは嘘ではないか。




