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田舎冒険者と白狐  作者: 倉秋
シルハ国編
29/53

最良の武器

武器というものは一から作るとなると数日から一週間以上かかる。

そう聞いていたんだが。


次の朝には、その武器が完成したと、小間使いの人間が知らせに来た。


「早いな・・・」


昨日今日の話だ・・・早すぎないか?


「師匠がやる気を出したみたいで。

 なんだが、張り切って作ってましたよ?」


「そうなのか?」


最後に見たのは、図面を引いていた彼女の姿だ。

張り切っているようには見えなかったが。


小間使いとして来た少年は、彼女の弟子のようだ。

その証拠に鍛冶見習いを示す、小型の槌のペンダントを付けていた。


「ええ、ですから・・・受け取りに来ていただけると助かります」


「あ、ああ・・・わかった、後で行く」


少年が一礼すると、走り去っていった。


「へぇ、あのカリーナがやる気を出すとはね」


「・・・ドギー?」


寝ていたと思っていたドギーが後ろに立っていた。

だが、寝癖が立っているところを見ると、起き抜けようだ。


「カリーナは、武具屋としては一流なんだけど、客を選ぶんだよ。

 セオドアは気に入られているようなんだけどな?」


そういうと、走っていった少年の方向を見る。


「まあ、そういうわけで・・・やる気を出すのは珍しいんだよ。

 一流の冒険者でも作らないことが多いってのに。

 ・・・レオ、気にいられたのかもな」


「セオドアの紹介だからだろ?」


それ以外に、理由はなさそうだが。

まあ・・・受け取りに行ったときに、それは分かるか。


――――――――――――――――――――


「一つ打っては家のため、二つ打っては槌のため。

 三つ打っては・・・明日のため」


歌いながら、カァン、カァンと鉄を叩いているカリーナ。

その後ろでは、弟子の少年がその様子をじっと見ていた。


「うーん・・・いまいちだね・・・」


打っていた鉄を、地面に捨てる。


「あの、師匠」


「ん?」


顔が煤だらけのカリーナが自分の弟子を見る。


「機嫌がいいみたいですけど・・・?」


「そう?」


炉から熱した鉄を取り出す。

それを再び打ち始めた。


「久しぶりに、私を知らない客が来たんだ。

 シルハのカリーナと言えば、隣国にも轟くほどの名前だろ?」


「それは・・・そうですが」


自分で言うのもなんだが、鍛冶師としては一流。

シルハ国では並ぶもののない鍛冶屋と自負している。


大抵の奴は、その名前を聞いて私の所に来る。

そして、こう言う。


『武器を作ってくれ』、と。


だが、訪ねてきた男は見繕ってくれと言った。

既存品を欲しがったという事。

私が作った、専用の武器を欲しがらずに、だ。


「それに、セオドアの紹介だ。あいつの顔を潰さないためにも、作ってやったのさ」


そう言って、カウンターに置かれた一本の剣を見る。

鞘にしまわれたその剣は、彼専用に作ったものだ。


「じゃあ、機嫌がいいのは?」


「久しぶりに、いい仕事ができたからさ。

 あの男、中々いい場所まで上り詰める気がするね」


「?」


「長年武器を作っている、私の勘だよ」


武器の出来、作っている最中の気分。

それの良し悪しによって、何となくわかる。

この武器を握る者が、どれだけ輝くかは。

まあ・・・鍛冶屋の勘という奴だ。



そういう意味では、今回はすこぶる気分が良かった。

彼の前途は明るそうだ。


「ほら、アンタも打ちな」


「いいんですか?」


普段は見せているだけだが、今日くらいは打たせてもいいだろう。

それくらい、気分がいい。


隣で槌を危うげに振るう弟子を見ながら。

カリーナは鉄を打ち続けた。


――――――――――――――――――――


武器が出来たと聞き、店まで来たのはいいものの。

・・・クローズの札が掲げられている。

閉まってるのか・・・。


しばらく、どうしたらいいか分からずに、周りを歩いていたのだが。

鉄の打つ音が店の裏から響いていた。

そちらに歩いていくと、店の主人と、先ほど訪ねてきた少年がいた。


店の裏は、鍜治場になっているようで、店の中とは規模が違った。

古びた金床が並び、床に落ちている鉄屑の量も半端じゃない。

そんな中で、二人は火の入った炉の前で槌を振るっていた。


「ああ、もう・・・鉄は早く、優しく打つんだよ。

 力任せに速く打ったんじゃ、芯が曲がって当然だ」


「ご、ごめんなさい、師匠」


折れ曲がった鉄の棒を金床から落とす。


「・・・やっぱり、まだ早かったね。

 もっと、私から技を盗むんだ、いいね?」


腰を上げた女主人と目が合った。


「ああ、ごめん、店を閉めてたんだった」


そういうと、俺の方に歩いてきた。

持っていた槌を近くの石に立てかけると、俺の手を引っ張った。


「さあさあ、早速見てもらおうかな」


「って、うわ!」


結構強い力で引っ張られる。

女性の細腕とは思えないほどの力だ。


連れてこられたのは、店の中。

そして、机の上に置かれている一本の剣。


「久しぶりにいい仕事が出来たよ。

 ・・・さあ、抜いてみて」


言われるがままに、目の前の剣を手に取る。

ズシリとした重さがある。


「鞘を重くしたんだよ、今使ってる鞘じゃ、防御にも使えないからね」


「防御?」


「盾を持たない戦士にとって、頑丈な鞘は盾変わりだよ。

 使いこなせるようになっておいた方がいい」


なるほど・・・それなら納得だ。

鞘を掴み、剣を引き抜く。


店の窓から入る日光に照らされ、刀身が輝いて見える。

これは・・・。

銀色に鈍く光るブロードソード。

装飾などは一切ない、無骨なつくりをしている。

だが、分かる・・・これは良い物だ。

刃こぼれ一つない、よく磨かれたその剣。


「あんた用に作ったんだ。

 振ってみな」


「ああ」


何もない空間に何度か振ってみる。

剣による風切り音が耳に響く。

そして、その振りやすさに驚いた。


本来、槍でも剣でも、長い武器というのは振った後の反動が大きい。

要するに、全力で振るうと二の手がうちにくくなる。

だが、この剣は・・・その反動が非常に少ない。

振った後の重心の移動が、俺にピッタリだ。


「凄いな・・・こいつは」


「剣は己を守る武器、時として防具を上回ることもある。

 だから、自分に合った武器の方が、どんな名剣よりも優れてるのさ」


そういうと、カリーナはカウンターの奥から防具を取ってきた。


「こいつは既製品で悪いけど、おまけだよ」


そういうと、鉄製の軽装鎧一式をこちらに渡してきた。


「いいのか?」


「ああ、全部込みで・・・銀一枚でどうだい?」


安い。

・・・鉄の剣と防具を買うだけで10倍以上の値段はする。

そんなに安くていいのだろうか?


「・・・安すぎないか?」


「私は言った事は守る。格安にするって言っただろ?」


そう言って、親指を立てる。

気風のいい人だな・・・助かるけど。


―――――――――――――――――――――


「まいどありー」


銀貨一枚でこの剣と、防具一式を貰った。

店を出ると、先ほどの少年が立っていた。


「あ、忘れものですよ」


そういうと、何かの粉が入った袋と、砥石を渡された。

これは磨き粉か、何かか・・・?


「毎日、ちゃんと手入れをしてくださいね」


「ああ、それはもちろんだ」


袋と砥石を受け取った。

何から何まで、世話になってしまった。


・・・必ず返しに来よう、出世払いで。



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