解読中のキーラ
Dランクの証を腰に下げ、薬屋まで戻った。
外で片づけをしていたドギーと目が合う。
「・・・お!Dランクに上がったんだな」
腰に下げていた証を見ていた。
緑色になった、証が光る。
「運よく、簡単にな」
「まあ、Dランクの試験なんてそんなもんだよ。
Cからが問題だからな・・・」
「ああ、それは知ってる」
だが、これでドギー達とは同ランクだ。
仕事をするにしても、色々共有できるようになるだろう。
「おお、主様・・・ランク試験は・・・合格かの?」
「ああ、ごらんの通り」
証を見せる。
コトハはうんうんと頷くと
「これからは、もっと稼げるようになるという事じゃな」
そうだな。
Eランクよりは、いい仕事が回ってくるはずだ。
「稼げると言えば・・・その、精霊文字の解読はどうなってるんだ?」
「あと数日かかるという話だ。キーラも頑張ってくれているみたいだし」
身体を壊さないといいが。
あの様子だと、寝食を忘れてやっている可能性もある。
・・・気になるな、今日の夜にでも尋ねてみるか。
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その日の夜。
ドギーとセオドア、それにドギーの婆さんを合わせた5人で食卓を囲んでいた。
「婆さん、明日には改装が終わるぜ」
「そうかい、苦労を掛けるね」
しわがれた声でそう喋るドギーの婆さん。
腰は曲がり、いかにも老婆・・・というのがしっくりくる人だ。
だが、目はしっかりと開いており、働いている姿は若い人と変わらない程元気だ。
「ああ、レオにコトハちゃんも迷惑をかけたね」
「いや、迷惑を掛けているのはこっちですよ」
「そうじゃ、タダで泊めてもらっておるんじゃからな」
「何も出来ないで、済まないね。せめて食事は楽しんで・・・と思ったが、
最近は何でも高くてね、質素で済まないが」
それでも、ごちそうに見える。
・・・客人として、もてなそうと作ったのだろう。
「だが、そこの鎧さん。なかなかいい腕を持っておるな。
この料理のほとんども、そこの人に手伝ってもらったものじゃ」
・・・セオドアがこれを作ったのか?
本当に・・・器用な奴だな。
鎧を着ながら料理をしたのだろう。
食事も終わり、借りている部屋に戻った。
ランクアップ試験とはいえ、通常の依頼には変わらなかったので、報酬は貰った。
その分を手帳に書いておく。
「ふむ、ここの焼き菓子も美味しいの」
椅子に座っていたコトハは。
シルハ名物のコイン型クッキーを頬張っていた。
「・・・キーラの様子を見に行くが、コトハも来るか?」
手帳をしまい、外套を羽織る。
その様子を見たコトハは、何枚かクッキーを袋に包むと。
「持って行ってやろう、頭を使うと甘いものが食いたくなるからの」
「そうだな」
苦笑し、コトハの分の外套も用意する。
・・・まだ冬には早いが、夜は冷えるからな。
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キーラの家には、明かりがついていたが。
・・・それは家の一部にしか点いていなく、とても暗い。
というより、研究している場所にしかランタンを付けていないのだろう。
ドアを叩くが、返事が無い。
中に人がいる気配はあるんだが・・・。
ノブをひねると、鍵もかかっていなかった。
不用心だ。
「キーラ?」
ドアを開いて名前を呼ぶが、返事が無い。
「倒れたか・・・?」
心配になり、家の中に入る。
廊下を歩き、明かりの点いていた場所へ向かう。
・・・机の上にはランタンが置かれており、その横に突っ伏して眠るキーラがいた。
「風邪引くぞ・・・」
辺りを見渡し、毛布を発見したので、上から被せてやる。
「しかし、あまり進んでおらぬな・・・」
解読中を思わしき紙を見て、コトハはそう呟いた。
俺も覗くが・・・半分しか終わっていないようだ。
「まあ、急がせるもの悪いだろ?
しかし・・・何も食ってないのか?」
机の上には書類と本以外何もない。
キッチンは・・・前に尋ねた時のまま。
何かを食べた形跡がない。
「キーラ!」
起こすのは忍びなかったが、何も食ってない事を考えるとそのままにしておけない。
呼びかけて体を揺する。
「・・・えへへ・・・」
起きる気配が無い。
にこにこ笑って、いい夢でも見てるのか?
しかし、かけていたメガネがずり落ち、床に落ちる。
かちゃんと言う音が響く。
「ふぁぁ!」
急に目を覚ましたキーラ。
落とした眼鏡を探るように、床に這いつくばっている。
「あ、あった・・・よいしょ」
眼鏡をかけなおすと、辺りをキョロキョロと見ている。
「ふわぁぁ!!」
俺達を見つけた瞬間に、そう叫んで後ずさりする。
後ずさりする先には本棚。
ガンっと頭をぶつけると、痛みのせいか、頭を押さえてうずくまっている。
「いったぁ・・・」
「おいおい、大丈夫か?」
「あ・・・レオさん、でしたか」
涙目になりながら、こちらを見ているキーラ。
頭には・・・こぶが出来ている。
「わらわもおるぞ」
頭を押さえながら立ち上がるキーラ。
「ああ・・・コトハさんもこんばんは・・・」
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ある程度キッチンを片付け、簡単な食事とコーヒーを淹れる。
「すみません・・・没頭すると何にも手が付かなくなるので」
「だからといって、食事もせぬのは感心せんぞ」
テーブルに食事を並べる。
「レオさんは、料理も出来るんですね?」
「ん?ああ・・・簡単なものなら」
肉を焼いて、卵を上から落としただけだ。
・・・というより、この家にはそれくらいしかなった。
よほど腹が減っていたのか、目の前に並べるのが終わると同時に、食べ始めた。
「・・・ん、美味しいですね!」
それはよかった。
「しかし・・・いつか倒れるぞ?もっと身体を大事にせんと」
コトハはそう言うと、キーラの肌に触れた。
「ほれ、肌もカサカサじゃ。目のくまも寝不足のせいじゃろ。
女なら、夜くらいはしっかり寝ろ」
「んー・・・んぐ。でも、これだけ珍しい精霊文字なんですよ!
ついつい没頭しちゃう気持ち・・・分かりませんか?」
「「分からん」」
コトハと俺の言葉が被る。
・・・だが、本当に解読して楽しそうにも見える。
彼女にとっては天職なのだろう。
「ところで、どれくらいかかるかの?」
「後2日、いただければ完璧に解いて見せますよ」
2日か。
まあ、ギルドで仕事でも貰いながら待つか。
キーラは食べ終わったようで
「ご馳走様!」
というと、また解読作業に戻った。
コトハと顔を合わせ苦笑する。
本当に、楽しそうな顔で作業をしている。
「ちゃんと寝ろよ?」
「気を付けます」
・・・目線も変えずに、そう答えた。
これは、明日も来た方がよさそうだ。
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明日もギルドに足を運んでみるか。
Dランクでの仕事にも興味がある。
・・・ドギーも誘って、仕事をするのも悪くないだろう。
「主様、明日はどうするのじゃ?」
「まあ・・・ギルドで仕事でも探すよ。
ドギーも誘ってみようかと思うが」
「いいの、賛成じゃ。Dランクの仕事というのも興味がある」
俺も同感だ。
ランクアップしての初めての仕事になる。
・・・少し、緊張もするが。




