ランクアップと幸運
キーラに解読を頼み1日が過ぎた。
昼頃に一度、様子を確認しに行ったが、まだ終わらないとのこと。
それだけ、精霊文字は難読らしく・・・あと数日は掛かるという。
仕方が無いので、俺達はドギーの実家の改装工事の手伝いをしていた。
改装と言っても、古くなった壁を修復するのと、雨漏りがしそうな部分を直すだけ。
この様子だと、今日明日中にも終わりそうだ。
「いやー、手伝って悪いな」
「泊めてもらっている恩は返さないとな」
「そうか。ところで、コトハさんは?」
「セオドアと買い出しに行っているぞ、お前が頼んだんじゃないのか?」
ドギーが何か考えている。
そして
「ああ、そうだそうだ。ペンキが切れたから買いに行ってくれって頼んだんだ」
「それについていった」
外壁の修理を継続する。
修理と言っても、ボロボロになった部分に補修材を塗って、
乾燥したら上からペンキを塗る。
それを繰り返すだけだ。
「まあ、今日はこれくらいでいいかな。
後は乾燥させて明日塗って・・・確認して終わりだな」
「そうか」
――――――――――――――――――――
昼前には、改装工事が終了した。
明日、ペンキを塗って確認したら壁は終わりとのこと。
・・・時間が余ったので、冒険者ギルドに行くことにした。
Dランクへ上がるための試験を受けるためだ。
冒険者ギルド内は、閑散としていた。
まあ、いつも通りならこんなものだ。
受付に行き、用件を話す。
「では・・・こちらの依頼を完遂して下さい」
女性から手渡された、書類。
それは・・・。
「薬草採取・・・?」
「はい、Dランク相当の難易度の採取依頼になります。
近隣にはオーガやオークの存在が確認されていますね」
「なるほど」
「終了次第、Dランクへ昇格しますので。
報告は必ず済ませてください」
「ああ」
書類を懐に入れ、その場を後にした。
ランクアップするための試験は、一人で行うのが決まりになっている。
つまり、パーティーの力を借りてはいけない。
・・・パーティー内にとんでもない奴がいて、そいつに任せる。
それだけで、ランクが上がるようなら・・・ランク自体に価値が無くなってしまう。
個人の強さが分からなくなるって事だからな。
一度、ドギーの実家に戻る。
戻った頃には、コトハもセオドアも戻っていた。
店の奥で、薬草を煎じる手伝いをしていた。
「おお、主様」
三角巾で頭を覆い、すり鉢で薬草をすりつぶしていた。
顔には、薬草の緑色の汁がかかって、汚れていた。
「・・・ほら」
ハンカチを取り出し、顔を拭く。
「なんじゃ、汚れておったか?」
くすぐったそうに成すがままになっている。
よし、取れたな。
「コトハ、俺はランクアップの試験を受けに行く」
「おお、ならば用意せねばな」
「いや、ランクアップは一人で行うものなんだ。
だから、留守番をしてくれ」
それを聞くと、耳が少し垂れた。
「なんじゃ、そうなのか」
「すぐに帰るさ、だから、待っていてくれ」
書類に書いてあった場所と、採取品を考えると、今日中には戻れそうだ。
何事も無ければ、だが。
――――――――――――――――――――
書類を頼りに、キンカシャの郊外に広がる、森の中まで来た。
この森の奥に自生する「不死の薬草」を手に入れるのが、目的だという。
不死の薬草は、その効能からそう呼ばれる訳ではない。
・・・抜いても、雑草の如くすぐに生えてくる。
薬草自体の生命力が高いからそう言われている。
まあ、効能はそこまで高くはないが・・・
一部の薬品を作るためには必須のものだ。
特に、風邪薬などには重宝される。
「場所は・・・この近くの洞窟の中にあるのか」
辺りを見渡すが、洞窟らしきものはない。
場所を間違えたかと、焦っていると。
足が滑り、斜面の下へ滑り落ちた。
「うお・・・!」
体勢を整え、木に当たらない様に滑っていく。
斜面はそこまで長くなく、数秒で下まで滑り落ちたようだ。
「・・・足場が悪いな」
立ち上がると、目の前には。
・・・ぽっかりと大口を開けた洞窟の入り口があった。
周りには蔦と苔がびっしりと付いていた。
松明に火をつけ、洞窟を照らしながら進む。
洞窟内も、外と同様苔ばかりで緑色に見える。
苔特有のすえた臭いが鼻を刺す。
しかし、苔ばかりで不死の薬草が見つからない。
中を確認しながら歩いていると、岩の切れ目から光がさす、明るい場所に付いた。
洞窟の中とは思えないほど、明るい。
そこには、赤い花や黄色い花が大量に咲いていた。
そして、緑色の雑草に見える草。
大量に群生しているそれは「不死の薬草」だ。
その名通り、光の当たる場所は全て・・・不死の薬草で覆われていた。
これだけの繁殖力だ、街の近くに植えた方が、利便が聞くんじゃないかと思ったが。
「・・・これだけの繁殖力があるから、植えれないのかもな」
付近の他の草を死滅させるほどの繁殖力だ。
・・・便利だからといって、近くには植えれないのだろう。
籠一杯になるまで摘んで、蓋をする。
これだけあれば、満足だろう。
・・・しかし、この洞窟。
先ほどから魔物の唸り声が聞こえるようになってきた。
もしかしたら魔物の巣が近くにあるのかもしれない。
Dランクに頼むくらいだ、それぐらいの危険性はあるだろう。
洞窟の入り口まで歩く。
途中、魔物とばったり出くわす可能性もあったので、ゆっくりと気配を消しながら歩いていた。
・・・だが、それも杞憂で入り口に着くまでには何事も無かった。
しかし。
―――――――――――――――――――――
洞窟の入り口から見える、外には、複数の魔物がうろついていた。
オーガとオーク。
それに、ゴブリンが辺りを警戒している。
そして、空から聞こえる羽ばたく音。
「・・・ハーピィか?」
入り口近くの大きい岩の影に隠れる。
オーガやオーク、ゴブリンは徒党を組むことが多い。
しかし、ハーピィはその集団と対立していることが多い。
だから・・・この状況は。
上を見上げたオーガが近くの石を拾うと、上に投げる。
・・・やっぱり、ハーピィと縄張り争いか、或いは・・・ただ戦いになったか。
しかし、これはチャンスでもある。
上に気を取られている今なら、気づかれずに退散できるかもしれない。
君子危うきに近寄らず・・・だ。
洞窟の入り口の脇からこっそりと、身を屈めながら進んでいく。
近くの草むらに身を隠し、這いながら遠ざかる。
後ろでは、ハーピィの金切り声と、武器を振る音。
ゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。
森を抜けた時には、音も聞こえなくなった。
後ろを振り向くが、追われている様子も無い。
籠も無事・・・よし、これで依頼は完了だな。
戦わずに済むのなら、避けるに越したことはない。
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「・・・確かに、不死の薬草ですね。おめでとうございます」
そう言うと、手を差し出してきた。
「Eランクの証を」
「ああ」
腰に下げている証を手渡す。
それを回収すると、緑色の証を手渡してきた。
「これからは、Dランクとなります。
・・・今回は無事にランクアップできましたが、Cランクへは高い壁があります。
次は、こううまくいくとは限りませんので」
と、手厳しく言われた。
「・・・大概の冒険者はDランク止まりです。
どうか、無茶をせずに頑張ってくださいね」
・・・心配はしてくれているようだ。
俺も、Cランクへは高い壁だという事は知っている。
万年Dランクで終わる者も少なくない。
・・・すれ違う冒険者の大半はDランクともいえるだろう。
俺は、そのランクで終わるのだろうか?
それとも・・・。




