帰郷
馬車に揺られ、腰も痛くなりかけた頃。
外から日の光が窓を通して差してきた。
「・・・ん」
目の差す光に起こされた。
窓を覗くと、見慣れた風景が、自分を出迎える。
「ほぼ、2週間ぶりだな・・・」
これだけ長く故郷を離れた事が無い。
冒険者になっていなければ、一生出ることも無かったかもしれない。
「・・・?」
馬車が一軒の家を通り過ぎた一瞬、何かが見えた。
黒いフードを被った男が、家に入ろうとしていた。
「あそこは・・・空き家だったはずだが」
・・・まあ、いいか。
家を見に来ただけかもしれないし。
視線を馬車の中に戻すと、コトハはまだ寝ていた。
「・・・」
「・・・」
瞼がピクピク動いている。
「起きてるだろ」
「・・・寝とる」
起きてるな・・・。
「そろそろ着くぞ、狸寝入りはやめてさっさと起きてくれ」
「しょうがないの」
身体を起こすと、身体を伸ばした。
「・・・ふぁー・・・おお、畑だらけじゃな」
「ああ、しかも収穫前だ・・・」
青々とした畑が視線一面を覆っている。
「ようこそ、キカ村に」
――――――――――――――――――――
キカ村の歴史は500年前にも遡る。
建国以前から存在していたらしく、その頃は畜産で一財を蓄えていたらしい。
名前の由来は、その時の地主「キカ・ロー」から取られた。
しかし、交通の不便さと発展の遅さから、今に至っては片田舎、程度の認識だ。
とはいえ、俺の大事な故郷。
コトハにも見せておきたかった。
「おおー・・・芋じゃな」
荷馬車の後ろにあふれるほど積まれた芋。
「あれは早芋といって、他の芋よりも早くとれるんだ。
他の芋は、あと1か月ほどで収穫時期なんだが」
しかし、畑の様子を見るに少しずれ込みそうだ。
「詳しいの」
「それで食ってきたからな」
うちの場合は芋を一番植えていた。
他の野菜も植えてはいたが、やはり、芋の方が稼ぎがいい。
それに、余ったら主食になるからな。
一軒の家の前で、馬車が止まる。
「えーと・・・うん。お客さん、ここですよ」
「ああ」
馬車の扉を開く御者。
その目の前には、実家があった。
古くなり、立て付けの悪い木製の一軒家。
雨漏りはしょっちゅうだし、床は軋んでいる。
屋根も本来なら直さないといけないが、その金も無くそのまま。
・・・要するにあばら家だ。
「ここが、主様の?」
「ああ、実家だ。・・・だけど、親父とお袋の姿が無いな」
畑に出ているわけでもなさそうだ。
農具が近くの納屋に置きっぱなしだ。
それに、家にも人の気配が無い。
「今日は何かあったか・・・?」
隣の家に聞いてみるか。
隣の家も、俺の家と同様、あばら家のような家に住んでいる。
まあ、キカ村の住人の8割くらいはそうだ。
「・・・お?なんだ、レオじゃねえか」
麦藁帽を被ったおじさんが出迎えてくる。
髪はボサボサ、髭は濃い。
しかし、見知った顔だ。
「ガズおじさん、久しぶり」
「ああ、冒険者になって、ハントに参加したんだって?」
「まあ、そうですけど」
「はっはっは、ひと皮剥けた顔になったな!」
そう言って背中をバンバン叩いてきた。
・・・このおじさんにはかなりお世話になった。
不作の時にも助けてくれたし、親父が寝込んだ時にも助けてもらった。
頭が上がらない人物だ。
「・・・ん?んん?」
俺の後ろを見て、何かに気づく。
コトハを見つけたようだ。
「獣人とは珍しい。レオ、お前の仲間か?」
「ああ、パートナーのコトハだ」
「よろしく頼むぞ」
そういって、丁寧にあいさつするコトハ。
「ちっこいが、将来べっぴんになるに違いねえ。
レオ、手を離すんじゃねえぞ、この村の為にも」
「・・・ははは、分かりました。それより、おじさん。
俺の両親がどこに行ったか知りませんか?」
「え?ああ・・・どっかに出かけるって聞いたが・・・うーん」
首を傾げて何かを考えている。
「ああ!そうだ。村長のとこに行ったぞ。
なんでも、借金の件で相談があるとか」
「借金?」
返済日はまだのはずだ。
・・・何かあったのか?
腰に下げている金貨を叩く。
これで、一時しのぎにはなるが。
「まあ、しばらくしたら戻るさ。
・・・あと、広場には近づくなよ?」
「何かあるんですか?」
「いや、変な奴らがしばらく前に来てな。
この村に御神体があるとか何とかで・・・村中調べまくってんだよ」
御神体・・・か。
この村にそんなもの、無かったはずだが。
「伝えたぞ、近づくなよ!」
そういうと、家に入っていった。
・・・。
「近づくなと言われると、近づきたくるもんじゃな、主様」
「・・・ああ」
もしかしたら、危険な連中かもしれない。
――――――――――――――――――――
広場に近づく。
確かに黒いローブを着た何者かが数人、うろついている。
「・・・主様」
「ああ・・・言われたとおりだな」
どこかで見た気もするんだが・・・。
あの黒いローブ・・・。
黒いローブに描かれている紋様。
・・・あれ。
「ゴイアの腕だ・・・何でこんなところに」
「何?冒険者にも登録されてる、あの?」
「・・・ああ」
広場の中央辺りで、何かを掘っている。
・・・関わらない方がよさそうだ。
「コトハ、戻った方がいい」
「うむ、触らぬ神に祟りなし・・・じゃ」
見つからない様に、その場を後にした。
実家に戻ると。
親父とお袋が家に入る直前だった。
「親父、お袋」
「お?おお、戻ったのか」
「お帰り、レオ」
二人の顔は、最後に見た時とは変わらない。
皺が増えてきたが、まだまだ元気な二人だ。
「いやー・・・村長から心配されてな。
このままだと、いつになっても借金を返せないぞ・・・ってな」
はっはっは、と笑う。
「親父、こいつを」
小袋を渡す。
「なんだ、こりゃ」
封を開けると、その中には金貨が10枚。
親父の顔が怒りで変化する。
「!お前、まさか・・・盗んだのか!」
「盗んでない!正当な報酬だ!」
そう言って、証人であるコトハの背中を押す。
「なあ、コトハ」
「うむ、危うかったが、確かに正当に貰った報酬じゃ」
・・・二人の目がコトハに向く。
始めは二人とも目を丸くしていたが、やがて嬉しそうな顔で。
「おお、嫁か!ついに嫁を連れてきたんだな!」
「しかも、村以外の子。久しぶりね」
「まだ嫁じゃない!」
まだ、とクスクス笑う二人。
この親共・・・。
「まあ、話は中でしよう。母さん飯の支度をしてくれ」
「はいはい・・・ごちそう作りますよ」
「・・・はぁ」
親にいじられるとは。
「入らぬのか、主様」
コトハは入り口に立っていた。
「今行くよ・・・」




