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田舎冒険者と白狐  作者: 倉秋
帰郷編
21/53

帰郷

馬車に揺られ、腰も痛くなりかけた頃。

外から日の光が窓を通して差してきた。


「・・・ん」


目の差す光に起こされた。

窓を覗くと、見慣れた風景が、自分を出迎える。


「ほぼ、2週間ぶりだな・・・」


これだけ長く故郷を離れた事が無い。

冒険者になっていなければ、一生出ることも無かったかもしれない。


「・・・?」


馬車が一軒の家を通り過ぎた一瞬、何かが見えた。

黒いフードを被った男が、家に入ろうとしていた。


「あそこは・・・空き家だったはずだが」


・・・まあ、いいか。

家を見に来ただけかもしれないし。

視線を馬車の中に戻すと、コトハはまだ寝ていた。


「・・・」


「・・・」


瞼がピクピク動いている。


「起きてるだろ」


「・・・寝とる」


起きてるな・・・。


「そろそろ着くぞ、狸寝入りはやめてさっさと起きてくれ」


「しょうがないの」


身体を起こすと、身体を伸ばした。


「・・・ふぁー・・・おお、畑だらけじゃな」


「ああ、しかも収穫前だ・・・」


青々とした畑が視線一面を覆っている。


「ようこそ、キカ村に」


――――――――――――――――――――


キカ村の歴史は500年前にも遡る。

建国以前から存在していたらしく、その頃は畜産で一財を蓄えていたらしい。

名前の由来は、その時の地主「キカ・ロー」から取られた。


しかし、交通の不便さと発展の遅さから、今に至っては片田舎、程度の認識だ。

とはいえ、俺の大事な故郷。

コトハにも見せておきたかった。


「おおー・・・芋じゃな」


荷馬車の後ろにあふれるほど積まれた芋。


「あれは早芋といって、他の芋よりも早くとれるんだ。

 他の芋は、あと1か月ほどで収穫時期なんだが」


しかし、畑の様子を見るに少しずれ込みそうだ。


「詳しいの」


「それで食ってきたからな」


うちの場合は芋を一番植えていた。

他の野菜も植えてはいたが、やはり、芋の方が稼ぎがいい。

それに、余ったら主食になるからな。


一軒の家の前で、馬車が止まる。


「えーと・・・うん。お客さん、ここですよ」


「ああ」


馬車の扉を開く御者。

その目の前には、実家があった。


古くなり、立て付けの悪い木製の一軒家。

雨漏りはしょっちゅうだし、床は軋んでいる。

屋根も本来なら直さないといけないが、その金も無くそのまま。

・・・要するにあばら家だ。


「ここが、主様(ぬしさま)の?」


「ああ、実家だ。・・・だけど、親父とお袋の姿が無いな」


畑に出ているわけでもなさそうだ。

農具が近くの納屋に置きっぱなしだ。

それに、家にも人の気配が無い。


「今日は何かあったか・・・?」


隣の家に聞いてみるか。


隣の家も、俺の家と同様、あばら家のような家に住んでいる。

まあ、キカ村の住人の8割くらいはそうだ。


「・・・お?なんだ、レオじゃねえか」


麦藁帽を被ったおじさんが出迎えてくる。

髪はボサボサ、髭は濃い。

しかし、見知った顔だ。


「ガズおじさん、久しぶり」


「ああ、冒険者になって、ハントに参加したんだって?」


「まあ、そうですけど」


「はっはっは、ひと皮剥けた顔になったな!」


そう言って背中をバンバン叩いてきた。

・・・このおじさんにはかなりお世話になった。

不作の時にも助けてくれたし、親父が寝込んだ時にも助けてもらった。

頭が上がらない人物だ。


「・・・ん?んん?」


俺の後ろを見て、何かに気づく。

コトハを見つけたようだ。


「獣人とは珍しい。レオ、お前の仲間か?」


「ああ、パートナーのコトハだ」


「よろしく頼むぞ」


そういって、丁寧にあいさつするコトハ。


「ちっこいが、将来べっぴんになるに違いねえ。

 レオ、手を離すんじゃねえぞ、この村の為にも」


「・・・ははは、分かりました。それより、おじさん。

 俺の両親がどこに行ったか知りませんか?」


「え?ああ・・・どっかに出かけるって聞いたが・・・うーん」


首を傾げて何かを考えている。


「ああ!そうだ。村長のとこに行ったぞ。

 なんでも、借金の件で相談があるとか」


「借金?」


返済日はまだのはずだ。

・・・何かあったのか?

腰に下げている金貨を叩く。

これで、一時しのぎにはなるが。


「まあ、しばらくしたら戻るさ。

 ・・・あと、広場には近づくなよ?」


「何かあるんですか?」


「いや、変な奴らがしばらく前に来てな。

 この村に御神体があるとか何とかで・・・村中調べまくってんだよ」


御神体・・・か。

この村にそんなもの、無かったはずだが。


「伝えたぞ、近づくなよ!」


そういうと、家に入っていった。

・・・。


「近づくなと言われると、近づきたくるもんじゃな、主様」


「・・・ああ」


もしかしたら、危険な連中かもしれない。


――――――――――――――――――――


広場に近づく。

確かに黒いローブを着た何者かが数人、うろついている。


「・・・主様」


「ああ・・・言われたとおりだな」


どこかで見た気もするんだが・・・。

あの黒いローブ・・・。

黒いローブに描かれている紋様。

・・・あれ。


「ゴイアの腕だ・・・何でこんなところに」


「何?冒険者にも登録されてる、あの?」


「・・・ああ」


広場の中央辺りで、何かを掘っている。

・・・関わらない方がよさそうだ。


「コトハ、戻った方がいい」


「うむ、触らぬ神に祟りなし・・・じゃ」


見つからない様に、その場を後にした。



実家に戻ると。

親父とお袋が家に入る直前だった。


「親父、お袋」


「お?おお、戻ったのか」


「お帰り、レオ」


二人の顔は、最後に見た時とは変わらない。

皺が増えてきたが、まだまだ元気な二人だ。


「いやー・・・村長から心配されてな。

 このままだと、いつになっても借金を返せないぞ・・・ってな」


はっはっは、と笑う。


「親父、こいつを」


小袋を渡す。


「なんだ、こりゃ」


封を開けると、その中には金貨が10枚。

親父の顔が怒りで変化する。


「!お前、まさか・・・盗んだのか!」


「盗んでない!正当な報酬だ!」


そう言って、証人であるコトハの背中を押す。


「なあ、コトハ」


「うむ、危うかったが、確かに正当に貰った報酬じゃ」


・・・二人の目がコトハに向く。

始めは二人とも目を丸くしていたが、やがて嬉しそうな顔で。


「おお、嫁か!ついに嫁を連れてきたんだな!」


「しかも、村以外の子。久しぶりね」


「まだ嫁じゃない!」


まだ、とクスクス笑う二人。

この親共・・・。


「まあ、話は中でしよう。母さん飯の支度をしてくれ」


「はいはい・・・ごちそう作りますよ」


「・・・はぁ」


親にいじられるとは。


「入らぬのか、主様」


コトハは入り口に立っていた。


「今行くよ・・・」




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