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田舎冒険者と白狐  作者: 倉秋
ハントシーズン編
14/53

ベヒーモス編 甘いもの好きの英雄

饅頭を頬張ろうと大口を開けていたドギー。

女性の声が響くと同時に、その行動が止まった。


「なんじゃ、お主」


騎士風の鎧の女性。

正確には白いプレートアーマーで覆われた全身に、

関節から見える青と白を基調とした騎士の正装・・・サーコートが見え隠れしている。

マントの色は赤・・・騎士団の紋章なのか、ワシが羽ばたく絵が描かれている。


兜を脇に抱えたその顔は、長く赤い髪をシニヨンに纏めている。

細い釣り目が、こちらを見ていた。


「おお、美人さんだな」


饅頭を下ろすと、ドギーはそう呟く。

しかし、誰だ・・・?

彼女の装備からしても、後ろのお供からしても、相当な人物だと思うが。


「美人?私が?・・・冗談はよせ」


「いやいや、美人さんだと思うだけどな?」


「・・・」


こいつ、本当に女好きだな。

将来結婚する奴は相当苦労するな。


「・・・っと、そうじゃない。

 あなた、そこのま、んじゅうとやら、一ついただけないか?」


「これか?」


コトハの用意してくれた饅頭(まんじゅう)を指さす女性。

二つしかないのだが、恐らく俺とドギーに用意してくれたものだろう。


「・・・いいか、コトハ?」


「むー・・・まあ良い、また作ればいいだけじゃからの」


それじゃあと、二つに割ったものを両方手渡そうとした。

しかし、ドギーがその行動の邪魔をした。


「おいおい、レオ。それは、コトハさんがお前のために作ったものだぜ?

 俺のをやるのが筋ってもんだ」


そういうと、ドギーが先ほど持っていた饅頭を手渡した。


「なんじゃお主、空気が読めるの?」


「逆に、読めないとまずいんじゃない?」


そうおちゃらけて見せるドギー。

いい奴だな。


「ふむ・・・」


女性は饅頭を一口、口に含む。

何度か咀嚼すると


「甘い・・・これは、美味しい!」


そう感想を述べた。

そうじゃろうそうじゃろうと頷くコトハ。

満足気な顔で、笑っていた。


「もっとないか?」


「すまんの、試しに作っただけで今食べたそれと、主様(ぬしさま)の持っているそれしかないのじゃ」


コトハの耳が少し垂れる、顔も申し訳なさそうだ。

美味いと言われたのが、それほど嬉しかったのだろう。


そして、俺の持っている饅頭を物欲しげに見てくる女性。

・・・。


「分かった、やるよ。割ったものでいいなら」


女性に手渡す。


「いいのか・・・?」


「ああ、いいだろ、コトハ?」


「仕方ないの・・・主様の分は夜にでも作るから、ええぞ」


「そうか」


女性はうれしそうに呟くと、手渡した饅頭を一口で完食した。

それを飲み込むと、ハンカチを取り出し、口元を拭いている。


「すまなかった、甘いものには目が無くて。

 私はロゼ・・・ロゼッタ・クォイネンと言う」


「ロゼ?」


どこかで聞いたな・・・その名前。


「『英雄』、ロゼ!」


俺が思い出す前に、ドギーがそう叫んだ。

ああ、そうだ、

英雄・・・ロゼだ。


「ああ、そう言われているようだが・・・私はそんな」


「いえ、ロゼ様は最高の騎士です」


「その通り・・・ロゼ様こそ至高の存在!」


後ろにいるお供が声を上げ始める。

・・・一応、サーコートを着ているところを見ると、騎士団の人みたいだが。

ちらちらと、サーコートの下から鎖帷子(チェインメイル)も見える。

全員女性のようだが・・・。


「なんじゃ、変な集団じゃな・・・」


「何の騒ぎだい?」


騒ぎを聞きつけたマリーが受付の奥、厨房から出てきた。

その姿は、料理で汚れたのか、煤で顔が少し黒くなっている。


「なんだい、団体客は予約してくれないと困るよ?」


ロゼの後ろに並んでいたお供は10人近く。

マリーはそれを客だと思ったのだろう。


「いや、すまない・・・泊まるのは私だけだ」


「我々は、既に別の場所に宿を取っていますので、ご心配なく」


「なんだ、そうなのかい?」


マリーが受付に立つ。

鍵やかごを用意すると、ロゼを手招きした。


「ほら、鍵とかごだよ。あと、前払いだからね」


ロゼは、財布を取り出すと、銀貨を3枚ほど手渡した。


「うん、確かに。3日分だね」


受付に備え付けのノートに書いていく。


「では、ロゼ様・・・私達はこれで」


「ああ・・・明日は頼むぞ」


「はい!」


サーコートを着た女性達が宿を後にする。

残った俺たちは、ロゼを見ていた。


「・・・ああ、騒がせてすまない。なに、ベヒーモス討伐までいるだけだ。

 苦労は掛けない」


そう言うと、自身の借りた部屋へと向かっていった。


「はー・・・英雄様とはね」


「驚いたな」


饅頭も食いそびれた。

食いたかったが、まあ仕方ない。

しかし、これで・・・ベヒーモスは何とかなる・・・のか?


――――――――――――――――――――


ロゼの一件は、驚いたが。

彼女を見て確信した点もある。


・・・彼女はとても強い。

装備もそうだが・・・腰に下げた武器。

あのレイピア・・・途轍もない力を感じた。

あの人だったら、ベヒーモスを倒せるのかもしれない。

そう、一人で部屋で考えていた。


「主様ー!」


「ん?」


ドアを叩く音と共に、扉が開かれた。

その先には・・・大量の饅頭を乗せた皿を持つ、コトハが立っていた。


「出来立てほやほやじゃ!」


そういうと、皿を机に下ろした。

・・・うず高くそびえ立つその白い山。

食い切れない、そう直感した。


「あ・・・ありがとうな」


まあ、さっきは食えなかったし・・・。

早速一つ頂く。

・・・あんこの甘さと、外身の柔らかい感覚。

確かに、これは美味い。

美味い・・・が。

目の前の数を考えると、胃が重くなる。


「美味いよ・・・だけど、これ、食い切れる量なのか?」


「主様だけに食わせるつもりは毛頭ないぞ。

 ドギーらにも配るし、ロゼという女にも持っていこうかと思っておる」


なるほど。

それなら納得だ。

しかし、その格好はそのままなのか。

いつもの巫女服の上にエプロン姿。

三角巾は取ったみたいだが。


「それじゃ、配ってくるか・・・」


「おお、一緒に行くぞ」


饅頭を複数、紙袋に入れていく。



ドギー達の部屋のドアを叩く。


「!ま、待ってくれ」


ガチャガチャと音が聞こえる。

・・・しばらくすると、セオドアが出てきた。


「なんじゃ?ドギーはどうした?」


「風呂だ・・・」


何故か疲れ気味のセオドア。

見れば、兜が少しずれている。

・・・急いで被ったのか?


「そうか、ほれ」


紙袋を手渡すコトハ。

それを受け取ると、セオドアは中を確認した。


「・・・あ、饅頭!」


ん?

セオドアらしくない弾むような声だ。


「あ・・・んん!」


ゴホンと咳払いをした。


「有難くいただこう」


コトハはセオドアに近づくと小声で。


「・・・今なら、普通に食えるぞ。ドギーはまだ戻らんのじゃろ?」


「あ・・・はい、ありがとうございます、コトハさん」


・・・二人で何か話しているが。

まあ、いいか。

セオドアも甘いものが好きなんだろう。

意外だが。


後は、ロゼさんの所か。

場所は1階の隅の部屋だったはず。


早速1階に降り、その部屋のドアを探す。

1階は他の観光客も多いようで、すれ違う数も多い。

皆、ベヒーモスの話題で騒いでいるようだ。


「緊張感のない奴らじゃ」


「・・・饅頭運んでいる俺らもそう見えるだろうな」


「何を。考え事の時は甘いものじゃ。戦争中でも甘いものは必須じゃぞ」


確かに、甘いものを食べると集中できる気がするが。

しかし、コトハの持っている紙袋・・・大きい。

ドギーの所に置いていったものの2倍近い大きさだ。


「あの女の事じゃ、これでも足りぬ気がするの」


「・・・」


饅頭が美味いと言われたことがよほど嬉しかったのか、その表情はにこやかで。

・・・そうだよな、自分で作ったものを褒めてもらえたんだから、

そりゃ、嬉しいに決まっている。


「お、ここじゃな」


ドアの前に立つと、2度ノックをする。


「・・・誰だ?」


ドアが開くと、先ほどの格好のロゼが立っていた。

鎧は脱いだようで、軽快な恰好をしていた。


「君たちは・・・先の」


「おお、饅頭を焼いたぞ。いらんか?」


コトハが持っている紙袋を渡そうと前に出す。

饅頭と聞き、目を輝かせているようにも見えるロゼ。

その紙袋を即座に受け取った。


「すまないな・・・催促したようで」


「なぁに・・・あれだけ美味そうに食っておったんじゃ、作り甲斐もある」


そういうと、腰に両手を当てて胸を張るコトハ。


「・・・しかし、その若さでこの料理の腕か」


感心したように呟く。

まあ・・・コトハが若く見えるのはしょうがないだろう。


「見た目通りの年齢ではないぞ?」


「獣人はそうだと聞くが・・・まあ、女性に歳を聞くほど無神経ではない。

 ・・・二人の名を伺ってもよろしいか?」


ロゼは俺とコトハを交互に見た。


「・・・レオハルトだ、Eランク冒険者」


「コトハ、ここにいるレオのパートナーじゃ」


「・・・そうか、同業者だったか」


ロゼの腰には、金色に光る冒険者の証。

・・・なるほど、A級冒険者の証だ。

さっきは鎧に隠れて見えなかったようだ。


「レオ・・・に、コトハか。貴方たちもベヒーモスと戦う同志か?」


「まあ、そうじゃろうな・・・と言っても、サポート役じゃが」


「他の魔物は任せてくれ、ロゼ・・・あんたが心置きなく戦えるよう、

 こっちはこっちで頑張るからな」


そう言い、手を伸ばす。


「・・・ああ、頑張ってくれ」


ロゼはそう言うと、こちらの手を握る

そして、二人で握手をする。

その手の強さは・・・Aランク冒険者とは思えない程のか弱いものだった。


――――――――――――――――――――


分けたとはいえ・・・饅頭はまだまだ残っていた。


「食い過ぎた・・・」


残すのも忍びなかったので、全部平らげた。

お陰で腹が痛い・・・。

甘いものをこれだけ食べるのは初めてかもしれない。


ベッドで横になろうかと、椅子から立ち上がる。


「主様、主様」


ベッドの上に座っていたコトハが正座して、自分の膝を叩いている。

それは・・・。


「はようせい、女を待たせるもんじゃないぞ」


「・・・ああ、分かったよ・・・」


渋々とコトハの近くに寝そべる。

その頭を膝に迎え入れるコトハ。


「うむ、これでよし」


・・・後頭部の柔らかい感覚。

癖になる人がいるというが・・・確かにこれは。


「それじゃ、始めるぞ」


「ん?」


うとうとし始めていたのだが、何を・・・?

コトハの手には、耳かき。


「寝ておってよいぞ」


「・・・ああ、任せるよ」


寝ることにした。


そのまま、朝まで起きることは無かった。




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