ベヒーモス編 防衛線準備
ハントシーズンは今日を含めて後2日。
噂では、最終日近くにベヒーモスが出るとの噂だ。
・・・ちなみに噂というのは毎回、何処からともなく流れてくる。
しかも、その的中率は9割以上だ。
誰が流しているのかは気になるが、情報源としては有難いものだ。
昨日来たドギーも、その噂を信じて訪ねてきたのだろう。
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朝のランニングを済ませて、宿に帰る途中の事。
道の外れに、冒険者が数名、何かをしていた。
・・・気になったので、その様子を遠目から探っていた。
「ほんとか?ここをベヒーモスが通るって」
「ああ、だから・・・こうやって、火薬をだな」
穴を掘って、爆薬の入った箱を埋めている。
見れば複数埋めているようにも見える。
「よし・・・準備完了だ!」
「これで俺ら・・・『スカール』の手柄になるぜ!」
「・・・ああ、英雄に取られてたまるかってんだ」
・・・彼らも冒険者のパーティーのようだ。
ベヒーモスを倒そうと躍起になっているのだろう。
しかし、それにしても。
彼らの用意した爆薬の量は、異常だと言えるほどの量だ。
牧場一つ吹き飛ばせるほどの爆薬なんじゃないかとも思える。
それだけの相手という事は分かるが、近隣に被害が出る気がするのだが。
宿に戻ると、セオドアが一人で受付近くの待合で本を読んでいた。
相変わらずの全身鎧、兜で顔は見えない。
「セオドア?」
「・・・これは、レオ。どうした?」
「お前こそ、こんなところで読書か?」
「うむ・・・ドギーが部屋で何かをしていてな」
何をしてるんだ、あいつ・・・。
セオドアまで追い出して。
「そういえば、昨日、ドギーと話したか?」
「む?・・・ベヒーモスの話か」
「ああ」
セオドアの対面の椅子に座る。
セオドアは読んでいた本をテーブルに置いた。
「止めたんだろ?」
「ああ、危険すぎる・・・Dランクでは話にならん相手だ・・・」
「俺もそう考えた、まあ、見たいとは思ったけど・・・」
昨日もその話をしていた。
ドギーの場合、そのままベヒーモスに挑んでしまう可能性もある。
アイツの性格を考えると、やらないとも限らないからな。
「触らぬ神に祟りなし・・・だ、倒すものがいるのなら、
力のないものは黙っていた方がいい」
「そうだよなぁ・・・」
両手を頭の後ろに置き、背中を背もたれに預ける。
俺たちにはでかすぎる相手だ、話にもならないだろう。
・・・仮に戦ったら、手も足も出ずに、踏みつぶされるだろうな。
「・・・そう言えばセオドア」
「なんだ・・・?」
再度本を読もうと、セオドアは本を手に取っていた。
「お前、どうして鎧をずっと着てるんだ?」
前から疑問に思っていたのだが。
戦わないのなら、鎧は脱いでも構わないだろう。
しかも、顔が見えない全身鎧。
暑いと思うんだが・・・。
「・・・これは、その。む、昔大火傷を負ったんだ。
それで、隠す意味を込めて、鎧を着ている」
「・・・すまん、悪い事を聞いたか?」
申し訳ない気持ちになる。
そうか、そんな過去があったのか。
「・・・いや、いい。脱がない私も変に思われて当然だ」
「人それぞれ、理由があるさ・・・俺だって、人に言えないことはあるからな」
根掘り葉掘り聞かれたくない事だってある。
秘密というのはそういうものだろう。
「しかし、今日は仕事を探しに行かないのか?」
俺はこの後、ギルドに顔を出す予定だ。
コトハを迎えに行ってから、だが。
「・・・ドギー次第だ、出てくれば・・・私も行く」
「そうか」
腰を上げる。
「じゃ、俺はコトハと出てくるよ」
「ああ・・・いい仕事をな」
その一言に、手を振って返した。
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部屋にコトハがいない。
置手紙があったが、内容は。
「マリーの買い物に付き合ってくる」
だそうだ。
・・・仕方ない、一人でギルドに行くか。
ギルドは、かなりの盛り上がり様だ。
何やら準備をしているようだが・・・ベヒーモス関連だろうか。
「あ、レオさん」
大量の書類を運ぶノイアが声を掛けてきた。
その姿は忙しさのせいだろうか、ギルドの制服も乱れている。
「忙しそうだな」
「ええ、その・・・ベヒーモスが首都近郊に出たとの報告が」
「出たのか!?」
「は、はい。現在、防衛線構築のために昨日の夜から・・・徹夜して準備中です」
そうか、それは大変だろう。
しかし、ベヒーモスは既に現れていたのか。
周りを見るが、誰もその顔に余裕はない。
ギルドの役員も、冒険者もだ。
「レオさん、仕事をお探しなら・・・防衛線の構築のお手伝いをしてください」
「手伝い・・・って、何をするんだ?」
持っている書類の中から器用に1枚、依頼書を取り出す。
それを手渡してくる。
「・・・第2防衛線の、警戒任務?」
「はい、正確には・・・魔物討伐任務になります。
ベヒーモスは、カルラスの街の防壁を破っての侵入が考えられますので。
・・・その際に、ベヒーモス以外の魔物の侵攻を遮る役になります」
なるほど、ベヒーモスに金魚の糞のように付いてくる魔物の排除か。
「わかった、場所は?」
「カルラスの西門、えーと・・・場所は西門前で待機になります」
書類の山を机に置くと、依頼書に印を押した。
依頼書によると。
ベヒーモスの被害が出ることが前提になっている。
ベヒーモス通過後に、出てくる魔物を討伐しろとのことだ。
・・・つまり、俺たちでベヒーモスを防げるとは最初から思われていないようだ。
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宿に帰ると、コトハは既に戻っていた。
マリーと一緒に、料理の仕込みの手伝いをしているとのこと。
料理が出来るのか、とも思ったが、俺より長生きなのだ、出来て当然か。
「・・・そうか」
セオドアがそう呟く。
俺はセオドアに依頼書の話をしていた。
先ほどの待合の場所で、ドギーとセオドアと一緒に話をしている。
西門・・・と言えば、この宿からはさほど遠くない。
場所も近いし・・・彼らも誘おうと、話をしていた。
「・・・通常の魔物なら、我々でも相手は出来る。ドギー、いいか?」
「ああ、問題ないぜ・・・ベヒーモスか、腕が鳴るな!」
「・・・戦うわけではない。我々は・・・監視と、他の魔物の排除が命令だ」
「えー?」
不服そうに声を上げる。
それを無視してセオドアが続ける。
「では、我々の目的は・・・ベヒーモス通過後の魔物の排除、でいいのか?」
「ああ、そうなるな」
「・・・」
ドギーは黙ると、そっぽを向いた。
「分かった・・・ドギー、私は依頼書を受け取りに行く。構わないな?」
「ああ、ああ・・・勝手にしてくれ」
ぶっきらぼうにそう答える。
セオドアは俺に一礼すると、ギルドへ向かっていった。
「ドギー、お前・・・セオドアに感謝しろよ?」
「え?」
「お前がここまで生きてこられたのは、半分以上セオドアのお陰だろ?
・・・お前とは知り合ってそこまで経ってないが、そう感じるぞ」
「・・・むう、俺だって、自覚はあるんだよ」
自覚はあったのか。
「じゃあ」
「だけど、冒険者ってもんは、無謀でも立ち向かうものだろ?」
・・・言いたいことは分かる。
そもそも、冒険者というのは未開の地を冒険するために、無謀な行為を行う者ばかりだった。
ドギーはその時代の冒険者に憧れて、冒険者になったのだろう。
だが、現実は日々を食べていくために様々な仕事を行う、便利屋だ。
ドギーにとって、それは面白くないのかもしれないな。
「・・・言いたいことは分かる。けどな・・・お前はパーティーのリーダーだ。
セオドアの危険も考えて行動した方がいい」
「・・・セオドアの?」
「ああ、セオドアはお前よりも強いし、賢い。だが・・・
お前以上に危険に見舞われることだってあるだろう?」
「・・・」
「ドギー、危険な行為をするなら、自己責任でやれ。
・・・セオドアは、お前の護衛じゃないんだ」
「・・・仲間、だよな」
その通りだ。
分かってるじゃないか・・・。
「・・・俺、セオドアにコンプレックスがあるんだよ。
アイツの方が強いし、作戦面でも賢い。パーティーのリーダーだって、
俺が作ったからそうなってるだけで・・・あいつがやるべきだと思ってる」
「・・・コンプレックスか」
「ああ、俺だって、あいつの役に立ちたい。だから・・・
少しでも、名を上げれるなら強さを示せるのなら・・・俺は」
「無謀でも構わない・・・か?」
頷くドギー。
なるほど、こいつはこいつで考えているわけか。
「・・・悪かった、そこまで考えてるとは思わなくてな」
「いや、俺だって・・・ちょっとすっきりした」
そう言うドギーの顔はにこやかだ。
「じゃあ、尚更・・・無謀は止めた方がいい。
お互いに、まだまだ底辺なんだからな」
「分かってるって・・・焦るなってことだろ?」
「ああ、出来ることから、やっていけばいいさ」
お互いに。
ドギーと目が合うと一緒に笑った。
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しばらく雑談していると、コトハが皿を持ってきた。
コトハはいつもの巫女服の上にエプロンと三角巾を頭に付けていた。
その皿の上には・・・?
「これ、なんだ?」
丸い、白いもの。
・・・湯気が立っているところを見ると、食いものだろうか?
「饅頭じゃ」
「饅頭?」
聞いたことが無い。
「ゼンドーの菓子じゃ、作ってみたんじゃが」
「へえ・・・」
一つ取り、真っ二つに割る。
中には黒い何かが入っている。
「あんこじゃ」
「あんこ?」
コトハに聞き返す。
「あんこって、豆を煮詰めて作るやつ?」
ドギーがそう聞く。
「よく知っとるの」
ドギーも饅頭を一つ取る。
それをまじまじと見る。
「甘いものにはちょっと詳しいんだよ」
「そりゃ、意外じゃの、男子は甘いものが苦手と聞くが」
「そんなことはないさ」
ドギーが饅頭を口に含もうと、口を開いた瞬間。
「私にも一つ、いただけないか?」
後ろから聞こえた、聞きなれない女性の声。
視線をそちらに送ると、騎士風の鎧を着た女性が、
お供を引き連れて立っていた。




