首都とベヒーモス ドギーとセオドア
下等吸血鬼の分の報酬は銀貨4枚。
それをドギーと分け合い2枚ずつ懐に入った。
さらに、通常依頼だったので、依頼者からの報酬金貨2枚も分け合った。
金貨1枚と銀貨2枚、通常依頼で稼ぐのなら・・・2週間はかかる。
銀貨2枚は実家に送るとして・・・金貨の方は路銀にさせてもらおう。
財布をしまい、マリーの宿へ帰ることにした。
時刻は夕方・・・意外に早く依頼が終わったので、今日はゆっくりできそうだ。
店の入り口をくぐると、マリーが笑顔で出迎えてくれた。
玄関先を掃除していたのか、箒を片手に持っている。
「お疲れ!稼げたかい?」
「・・・タダで泊めてもらってるのが、申し訳なくなるくらいにはな」
「それは景気がいいね、何なら、払ってくれてもいいよ?」
そういって、手を差し出してくる。
冗談半分本気半分で財布を取り出す。
マリーは笑いながら。
「いいよいいよ、言い出したことは守る。
ほら、コトハちゃんのとこに帰ってやんな」
「あ・・・ああ、悪いな」
財布をしまうと、マリーの横を抜けるように廊下に向かう。
「・・・さて、食事の用意でもするかな!」
俺は2階に、マリーは台所へと消えて行った。
泊まっている部屋に入る。
コトハは・・・夕日を浴びながら寝ている。
毛布がはだけていたので、かけ直してやる。
「・・・えーと、風呂にでも入っておくか」
そう思い立ち、かごを持って立ち上がる。
――――――――――――――――――――
露天風呂は、誰もいなかった。
・・・まあ、夕方からなんて入る奴もいないだろうし。
一人で入っていると、脱衣所から音がする。
気になったので見てみると、見知らぬ男が二人。
観光客にも見えるが。
喋りながら、風呂に入ってくる。
「・・・聞いたか、明日の話」
「ハントシーズンの事だろ?確か・・・とんでもない奴がギルドに来るとか」
「英雄の一人「ロゼ」様だよ、何でも・・・ほら」
「なんだよ?」
「・・・ベヒーモスが首都付近に現れるんだと」
それを聞いた瞬間、耳を疑った。
ベヒーモス・・・?
「へえー、そりゃ、見ものになるな」
見ものどころじゃない、首都が大変なことになるぞ。
Aランク冒険者複数でも勝てるか分からない・・・強大な魔物。
それがベヒーモスだ。
なるほど・・・だから英雄まで動くのか。
「しっかし、うちの国の英雄は何してるんだ?」
「こういう時に動いてこそ、だよな?」
「ああ」
そういえば、そうだな。
ラファゼールという、冒険者で英雄がいるはず。
・・・どこかに言っているとか、そんな話は聞いていないが。
『英雄』
国のために著しい活躍をした人物に与えられる称号。
または、力を認められ、英雄と呼ぶにふさわしい者の称号でもある。
冒険者、騎士、将軍・・・問わず、その国々に複数人存在する。
特に、冒険者の場合は国を問わず重宝される存在である。
今回来る、その「ロゼ」も、冒険者だ。
二人が上がったのを確認して、風呂から上がる。
・・・少し入りすぎたな、のぼせ気味だ。
部屋に戻ると、コトハは起きていた。
椅子に座って机の上で何かしている。
「ぬひはは」
「・・・食べてから喋れ」
口にミカンを放り込んでいた。
どうやら、机の上にはミカンが何個か置いてある。
「んぐ・・・主様!お帰り」
「ああ、風呂に入ってたんだが・・・一回帰ったのには気づかなかったか」
「?」
気持ちよさそうに寝ていたから、分からないか。
首を傾げてこちらを見るコトハ。
そうだ、コトハにも聞いてみるか。
向かい側の椅子に座る。
「ベヒーモスって知ってるか?」
「ベヒーモス?おお、知っておる。
わらわの故郷であるゼンドー国にもよく出現しておった」
次のミカンの皮をむき始めるコトハ。
ゼンドー・・・。
「ゼンドー?北東の国の?」
そうか、あそこが故郷なのか。
東方の国の文化を吸収した、彩色豊かな国だとは聞いている
風光明媚で、金持ちはあの国に別荘を建てるのが一種のステータスらしい。
「うむ、生まれてしばらくは住んでおったが・・・
まあ、色々あってわらわはボーペリアに居を構えたのじゃ」
「ふーん・・・そうか」
故郷を思い出すように目を瞑っている。
目を開くと、先ほどのベヒーモスの話に戻した。
「しかし、何故そんな事を聞く?」
剥いたミカンを渡された。
・・・自分のために向いたんじゃないのか。
少し嬉しい。
「風呂場で聞いたんだ、観光客がな・・・」
その時にあったことを話した。
「ふーむ・・・?」
新しいミカンを剥き始めていたが、コトハの指が止まる。
何やら考えているようだ。
「ベヒーモスは、災厄、災害と言われるほどのものじゃ。
わらわの国でも、奴は人間、魔物両方に恐れられておった」
「・・・」
ミカンを一切れ頬張る。
酸味が口に広がる。
・・・というより、酸っぱかった。
「じゃが、大量に出ることはまずない。仲間意識も無い獣じゃからな」
「それは、初耳だな」
「ベヒーモスは大喰らいの獣、周りの生物を喰い、自らの生命とする。
じゃから、同族食いも当然する」
なるほど。
同族も餌って訳・・・って。
「じゃあ、どうやって子供を作ってるんだ?それだと・・・」
オスもメスも無く、食い合うという事。
子孫なんて残せないだろう。
「それは分からん。しかし、ベヒーモスは・・・
通常の生物とは何か違うのかも知れんの」
そう言ったコトハは止めていた指を動かし始める。
また、器用にミカンの皮を剥いている。
俺も貰ったミカンをすべて頬張った。
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夜。
コトハは風呂に入りに行った。
俺は、ベッドで横になり、明日以降の事を考えていた。
「ベヒーモスか」
見に行ってみたいという気持ちもある。
幸い、旅の資金は今日の稼ぎで大丈夫そうだ。
それに、英雄がどれほどのものか、近くで見てみたいという気持ちもある。
不意に、ドアが叩かれた。
・・・誰だ、コトハならそのまま入ってくるはずだ。
「俺俺、ドギー」
「なんだ・・・お前か」
ドアを開けると、寝間着姿のドギーが立っていた。
何も持っていないところを見ると、話をしに来た感じか?
「お前も聞いたか?」
「・・・ベヒーモスの事か?」
「ああ!見に行ってみないか?」
・・・ドギーは目を輝かせてそう言う。
俺も興味はあるが・・・しかし危険もあるだろう。
「なあなあ、行ってみようぜ?」
「・・・あのな、セオドアは了解したのか?」
あの男の事だ、諫めると思う。
危険なものに近づくなと。
「セオドアにはまだ言ってないけどさ、気になるだろ?」
「・・・お前な」
溜息をつく。
ドギーがパーティーのリーダーとは聞いたが。
実質、セオドアのお陰で持っているのだろう。
「セオドアにまず聞け、話はそれからでもいいだろ」
「しょうがないな・・・」
頭を掻くと、ドギーは踵を返した。
と思ったら、こっちをまた見る。
焦っているようにも見えるが。
「・・・どうした?」
「いや、中に入れてくれ!」
は?
いきなり、なんだ?
問答無用で中に入ってくるドギー。
すると、ドアを少しだけ開けて、外を覗いている。
――――――――――――――――――――
「おー、いい湯じゃった。のう、セーシュ」
「ええ・・・いいお湯でした」
コトハとセーシュ・・・もといセオドアは一緒に風呂に入っていた。
二人とも湯上りで格好は宿が用意していた浴衣。
上がったばかりなのか、肌からはまだ、湯気が多少出ている。
(・・・なんだ、コトハじゃないか)
(しっ・・・隣の女、気にならないのか?)
(隣?)
隙間から覗くと、コトハと誰かがしゃべっている。
見た感じ、エルフの女性に見えるが。
(だから何だ?)
(気になるだろ、あんな可愛い子)
(・・・お前な)
頭を抱える。
前から思っていたが、こいつ、女好きなのか?
聞いた話だと、マリーとも揉めたと聞いたし。
しかし、二人は楽しそうに話をしている。
コトハは俺以外と話すことが少なかったので、多少安心した。
友人ができたんだな・・・と思った。
「しかし、お主も苦労するの」
「え?」
「奴の女好きは相当なものじゃろ?」
「・・・別に、いい。傍にいられるだけで、私は・・・」
二人の会話は断片的には聞こえるが、中々聞き取りづらい。
・・・というより、なんで俺まで会話を聞いているんだ?
耳を離すと、部屋の奥にある椅子に腰かけた。
「なんだよ、気にならないのか?」
「何を気にするんだ?コトハに友達ができただけだろ?」
「俺が気になってるのは、その隣の子だ」
ドギーがまた覗いている。
しかし、こっちを見ると、机の傍まで走り、向かいの椅子に座った。
「何やって―――」
「主様、今帰ったぞ」
「お、コトハさん、お邪魔してるよ」
・・・こいつ。
覗いていたことがばれない様にしやがった。
「なんじゃ、ドギーか。・・・主様、どうした?」
「え?」
「変な顔しておる」
顔を触る。
そんな変な顔をしていたのか。
まあ、ドギーの変わり身の早さに呆れていたのだろうが。
「それじゃ、俺は戻るぜ」
「あ、ああ・・・おやすみ」
ドギーが部屋から出て行く。
・・・コトハはニヤリと笑った。
「ドギーめ、覗きがばれてないとでも思っておるのか?」
「気づいてたのか?」
「ああ、主様も途中まで見てたじゃろ?」
ばれていたようだ。
さすが・・・勘がいい。
「ああ、友達と楽しそうに話していたな?」
「友達?・・・そうじゃな、友達じゃ」
嬉しそうに、頷く。
しかし、あんなエルフの女性、この宿では初めて見るが。
・・・この宿に固定で泊まっている客は、俺たちとドギー達。
一部の観光客も、ハントシーズンの狩りを見学しに来ているが。
「一体誰なんだ?俺は・・・見たことが無い女性だったが」
「・・・と、友達になってはいかんのか?」
「いや、そう言うわけじゃない。気になっただけで」
「なら、深く聞く必要はないじゃろ」
そう言って、ベッドに横になる。
・・・そっちは俺のベッドなんだが。
「ほれ、主様」
毛布をまくり、誘ってくる。
その顔は、一緒に寝て当然という顔だ。
悪びれも、からかうような顔でもない。
「・・・ああ、分かったよ。ただ、何もしないからな」
そう言って、コトハの横に横たわる。
ベッドの横のランタンの火を消すと、部屋は暗闇で覆われた。
「うむ、主様の匂いは安心する」
そう言いながら、腕に抱き着く。
ああ・・・今夜も寝つきが悪くなりそうだ。
だが、隣で満足気に眠りに入るコトハを見ると。
・・・邪険には出来なくなる。
――――――――――――――――――――
その頃、ドギーの部屋。
先ほどの事が気になり、ドギーはそわそわしていた。
セオドアは先ほど風呂から戻ったようで、既に鎧を着ていた。
「なあ、セオドア?」
「・・・ん?」
椅子に座って、小説を読んでいるセオドアの目が、こっちを向く。
「ここの宿で、エルフなんて見たか?」
「・・・え、エルフか?・・・いや、見ていない」
「そうだよな・・・可愛い子だったんだけど」
「・・・知らん、明日も早い・・・寝たらどうだ?」
ドギーはそれを聞くと。
「それもそうだな・・・さっさと寝ちまおう」
自分のベッドに横になった。
数秒でいびきをかき始めるドギー。
それを横目でセオドアが見ると。
兜を取った。
「・・・///」
真っ赤になっている顔が、ドギーを見ている。
可愛い・・・。
「・・・っ」
兜をかぶり直し、セオドア・・・セーシュも寝ることにした。
見られた・・・けど、可愛いと言ってくれた。
気にしてもらえたことが嬉しかったが。
・・・同時に今の状態だと、何も進展しないと強く自覚するセーシュだった。




