第2話:掃除開始・少しの謎。
シャム掃除開始編。
さて、私の家にシャムが来てから一週間たち、馴れ合いが済んだころのこと。
猫耳にも慣れて、私達はいざ家の掃除に入ることにした。
『では、掃除を始めるわ。シャム、家の構造は解ってる?』
「はい。猫ですから」
『それは心強いわね。では後は頼んだわ』
「お嬢様はどうなされるのですか?」
『もちろん、休むわ。外は暑いし』
するとシャムは一瞬困った顔をしたが、仕方ないですねと出て行った。
とりあえず私はクーラーの効いた応接間でゆっくりアイスティーを飲むことにした。
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「・・・・さて、どこから手をつけましょうか」
私はながーい廊下を歩きながら呟く。
この家は最初見たときから思っていたが広い。
部屋数はざっと70部屋、しかも5階建て。いくら猫の私でも全て把握するのは苦労した。
驚いたのは雅お嬢様でさえ全ての部屋には行ったことが無いということだった。
掃除は広い部屋から始めたほうが効率がよい。
「では、ここから始めますかな」
私は1階の一番端にあったなんとも重厚な扉を開く。
部屋は書斎になっていた。ただし使っている気配はない。
前の机に3つ置いてあった写真を見てみる。まずこれはお嬢様方の小さいころの写真だ。
綺麗に段状に並んで写っている。
一番上が長女の紗依お嬢様、
次が雅お嬢様、
そして雅お嬢様とは1歳妹だという真依お嬢様。
次は多分お父様とお母様の写真だろう。
お父様の名前は確か上条 依鳥様
お母様の名前は上条 咲子様。
「次の写真は何だろう・・・・・」
目を向けてみる。そこには美しい人間の女性が写っていた。
「・・・・・綺麗な方だ」
猫の私でも分かる。奥様の若いころの写真だろうか。
おっと、危ない。仕事をしなければ。
私はその部屋をある程度片付け、次の部屋に向かった。
次の部屋のドアを開けると下り階段があった。
これより下に部屋があるなんて聞いていない。多分、雅様も知らないのだろう。
とにかく、下ってみることにした。
中は夏だというのにひんやりと冷たく、猫系の私には快適な空間だった。
電気らしきものは無かったが、それも猫系の私には関係なかった。
ここはワインセラーか何かだろうか?石畳の廊下はどこまでも続いていく。
ひとつドアを見つけた。ドアを開け中に入る。
埃が酷い。
中には質素な椅子が一脚と机がひとつ。周りは石で囲ってある。
奇妙な感じがしたのでここはパスさせてもらおう。
さっきの廊下を戻り、足を進める。
・・・・・・・・おかしい。
進んでいるはずなのに元来たところに戻ってしまう。
方向が分からない。
身の危険を感じ、一旦1階に上がることにした。
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椅子に座ってくつろいでいるとドアをノックされた。
『お嬢様、失礼します』
シャムが入ってくる。
「あら、もう掃除が終わったの?」
冗談交じりに私は問いかける。
『いえ、まだ1部屋ですが・・・』
彼は苦笑して答える。
「でしょうね、この家は広いもの。で、どうかしたの?」
『・・・はい・・・・・・この家には強い磁力を出すものはありますか?』
どういう意味だろう。
「・・・どういうこと?」
『いえ・・掃除をしていたら急に方向感覚を失ったもので・・私は猫ですから・・』
そういえば昔聞いたことがある、猫に磁石をつけると方向が狂うって。
「・・・いいえ、きっと無いはずだわ。でも私もこの家のことよく知らないから・・』
両手を挙げるポーズをする。
『そうですか・・・・・はい、分かりました。では戻ります』
「無理はしなくていいわ。主人としての唯一の忠告だと思って」
『はい、ありがとうございます。では』
彼はいつもどおり一礼して出ていった。
私も考えてみる。磁石?
そして急に何かが頭を過ぎった。
「・・・・っ!!?」
何?今の。
だめだ、最近頭が弱い。
私はそれを猫耳ショックの反動だと思い、好きな小説で気を紛らわすことにした。
冬に夏の物語書くのは絶対にやめよう。