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(3)

「お前、なめてんの?」

 

 校舎裏の人気のない場所。

 地面に這いつくばっている所に、浅井は容赦なくその頭を踏みにじる。


「足りねーよ」


 ぐりぐり、ぐりぐりと踏みにじる。そこに情など一切ない。おもちゃ以下の扱いだ。


「足りねー分どうするか、ちゃんと考えて明日には持ってこいよ」


 浅井と取り巻きは何事もなかったかのようにその場を離れていく。


 ――ゴミ野郎。


 浅井を軽蔑し貶める言葉がもっと欲しい。こんなものじゃ足りない。もっともっと。


 ――いいぞ。いいぞ。


 自分の心が暗雲に満たされ、呪詛の言葉で敷き詰められていく程に、達成感が高まっていく。矛盾した相反する感情にいまだ慣れないが、これは必要な事なのだ。

 すぐにやめたい。今すぐにでも逃げ出したい。でもそれじゃ駄目だ。


 ――僕は絶対に。


 心も身体も血塗れだ。それでも固い決心は揺るがない。


 ――許さない。


 全てを見送り、僕はその場を離れた。






「なんか、痛い」


 楓は額に手をあて、珍しく辛そうに顔を歪めていた。

 そんな顔を見たのは初めてだった。いつも空虚でどこにもいないような空気を出し続ける彼女が初めて見せた感情の欠片のようだった。


「何か思い出したの?」


 しかし楓は答えず、視線を地面に落とし項垂れてしまう。


 ――でもやっと、そこに気付けたんだ。


 だとすれば、もうちょっとで自分の事を知るのかもしれない。僕自身も、自分の目的以外に彼女が一体何者なのかを分かる範囲で調べてみた。

 思った通りだった。

楓は、自分と同じだと。

ただ自分と一つ違うのは、彼女は目的を明確化出来ていないという事だ。

 

 ――やっぱり、そうなのか。


 僕はずっと自分の中で渦巻く疑問に改めて向き合う。

 僕が彼女を見つけた事が、果たして偶然なのか。それとも必然だったのか。


 偶然、ではない。

 偶然なわけが、ない。

 考えれば考えるほどに、偶然は否定される。

 僕と彼女が同じじゃないかと思った理由を辿れば、偶然という可能性は否定される。


 だってそうだろ。僕も、彼女も――。


「楓」


 気付かせてあげるのが僕の役目だとしたら、僕はそうするべきだ。


「心の底から、憎いと思っている人が君にはいるよね」


 はっと、楓がこちらを見た。何故。どうして僕がそんな事を知っているのかといった表情だった。


 知っている。

僕は見てしまった。

 彼女を辿って、彼女がここにいる理由を。

 そしてそこから、彼女がいつも雨にうたれている理由も、なんとなく感じ取った。


「君は、ここで死んだんだよね」


 いや、それでは言葉が正しくない。


「君は……」


 楓が顔を上げた。

 楓が、少しだけ微笑んだ。


「うん、殺されたんだった……ここで」


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