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(1)

「おい」


 乱暴に投げかけられた言葉と、あいさつ代わりのスキンシップにしては強すぎる平手が背中に浴びせられる。ぱあんと教室に大きな音が鳴り響いても、誰もそちらの方を見向きもしない。


「ちゃんと持ってきたよな?」


 ぐいっと顔を近づける浅井亮二あさいりょうじの顔面はそのまま頬にキスするほどに近い。

 一体いくら金をむしり取られただろうか。今日もどうせ金を出してしまうのだ。

 繰り返し、繰り返し。何度も僕はその光景を見てきた。その度に胸が締め付けられ、得も言われぬ吐き気を覚え、悲しさと怒りが綯い交ぜになって感情の矛先すら見失いそうになる。


 ――早く終わらせたい。


 嫌なものを見るはめになる。ここに来れば不可避な光景。それでも僕はそれを目に焼き付ける。僕にはこれを見る義務がある。


 ――こんな世界、ぶっ壊れろ。


 でもまだ、僕には力が足りないようだった。

 窓の外を見ると、雨が降っている。

 彼女がいる。


 ――行くか。


 僕は教室を出る。

 その前に振り返って一度確認すると、浅井の手には札が何枚も握られていた。

 ぎりっと歯を噛み締める。奥歯が割れそうになる。






「なんで皆雨を嫌うんだろうね」


 今日も傘をささない彼女は空を虚ろに見上げながら呟く。


「気分がどんよりするからじゃない。ぱあっと晴れてる方が、すかっと気分も良くなるんじゃないかな」

「わかんない。目を開くにも眩しい光なんて浴びても鬱陶しいだけだよ」


 快晴否定派の彼女の意見はさておき、確かに雨がそんなに悪いかと聞かれれば、僕にとってもそうは思えなかった。


「こっちの空の方が落ち着く」


 そうだな、と思った。燦燦とした太陽の光とどこまでも澄み切った青空は、無理矢理前を向けと言われているような気がして、どこか嫌いだった。


「ずっと雨が降ってて欲しい」


 何度も聞くセリフだった。もう尋ねたりはしないが、僕が一度どうしてと尋ねた時彼女はこう答えた。


「汚れたものが綺麗になるような気がするから」


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