神々の遊戯
「しかし、これはやっぱり、やり過ぎじゃないか?」
「何が? 私はきちんとルールに従っているわ」
「それは、そうだけど」
そんなやりとりがとある場所で行われていた。
「一カ所を集中的に攻撃するのは反対なの~」
「何を言っているの? 勝つためよ。それに、今ここでそれを言ってどうなるの? 止めろと声をかけるの? それこそルール違反だわ」
「……確かにそうだ。お前は何一つルールは破っていない。しかし、それが自分に回ってくる可能性は考えているか?」
「もちろん。バカにしないで。でもね、私はあの子に勝てればそれでいいのよ」
視線が『あの子』に集まる。
「……それで、お前は、誰の力を借りるつもりだ?」
集まった視線についでとばかりに別の者が尋ねる。
「あたし、かしてあげようか?」
「ワシは無理じゃ」
彼女は静かに答える。
「……異世界の神の力を借りるつもりです」
「え!? でも、それだと」
「新しいダンジョンマスターに、与えられるDMは増やせんぞ!?」
「はい。でも、これが最後なら、私は、私の力を信じます」
「てなわけで、助っ人にお願いされた男ですけど、いいですか? あ、こっち、座っても?」
彼女の後ろから、軽い様子で男が現れて、椅子を一つ示す。
「構わんが、お主の力のみを借りるのか?」
「私のというか、うちの世界の子をダンジョンマスターにする計画でして、ところで確認してもいいですか? うちの子がうちの世界の物をDMやMP等を使って取り寄せたりするのは、大丈夫ですか? うちの子達、普段食べてる主食がないと、そのうち、帰りたいって言い出すかもしれないので。あ、あと、うちの子、基本戦闘不向きなんで、うちの世界のゲームを基準としたダンジョン作成をさせて上げたいんですけど、いいですか?」
「あぁ待て。こちらとしてはルールに反してなければそれでいい」
「あれ? 確認はよろしいので?」
「そうだ。彼女にとっては、これが最後のチャンス。借りた力が返せないほどの強力なのは駄目だが、数百年で返せるものであれば問題ない」
「いやいや、数百年なんて大量には貸しませんよ、そんなの、私だって嫌だし。それこそ、数十年分ぐらいですよ」
「……それでいいのか?」
「私には是非はありません」
「ダンジョン作成能力ってどういうのかしら?」
「そうですね。扉とかですかね。あと階段とか作るのもいいですね。簡単にいうと、MPで既製品を作る感じですかね? それから小部屋とかを作るのもいいですね」
「それは駄目よ」
「おや? 禁止でしたか?」
「そうじゃないけど、部屋を作るのは、DMではそれなりに使うのよ、MPで簡単に作られるのは困るわ」
「そうなのですか? でも、自力で拡張する分には構わないと聞いてましたが」
「それはっ」
「可能じゃの」
「そうだよ。そこで反対するのは逆にふこーへーだよ」
「…………そうね……」
「して、お主の世界の何を連れてくるのだ?」
「人間です」
「人間!?」
「ええ、というか、それぐらいしか、まともにダンジョンマスターが出来そうなのいないんですよねぇ」
「…………お主の世界では名の知れた武人なのか?」
「いやいや、まさか、正直、生き物なんて、小指サイズくらいの物しか殺したことないですよ。それだって、家に出てきたからって、遠距離からの半泣きで、でしたもん。あはははは」
「遠距離というのは、魔法か? 弓か?」
「うちの子魔法使えませんよ。弓でもなく、気体にした毒ですね。それを勢いよく出す。そういう道具があるんですよ。それです。家庭に一個くらいで、人体に影響はないですね」
「……攻撃力はないのか?」
「その子自身には、とてもとても。この世界の子供にも負けると思いますよ?」
「…………そんなものをダンジョンマスターにするのか?」
「ですから、罠とかそういう創意工夫で頑張って貰うのですよ。もちろん強いダンジョンモンスターをダンジョンマスターが必要とする事もあるでしょう。でも、本人が戦うとあっさり負けますよ。戦う力なんてありませんからね。あの子に出来るのはせいぜい元の世界で培った知恵と知識によるダンジョン経営ですよ。常識の違いが、最初の頃には、はまるかと」
男の言葉に周りの者達は無言になった。
「そういう意味事も含めて、ダンジョンを自由に広げられないと、うちの子、何にも出来なくて、それこそあっという間に死にます。いちころです」
「罠を設置するのがメインタイプのダンジョンマスターか……。新しいと言えば新しいか」
「そもそも、おぬし、いくらDMが残っておる?」
「新しい子に与えられるのは10万です」
「うっわ! つんでるよー!」
「罠タイプにしたい理由がよくわかるの」
「一気にDMが入ってくる可能性もあるしのぉ」
「一応、これが、うちの子の能力になります」
「こんな書類まで用意しとったのか……。そもそも、わしは、反対しておらん。好きにせぇ」
「おや? お読みにならないので?」
「不要じゃ」
「私は読むわ」
「はい、どうぞ」
「………………ねぇ、この、畜産とか水産とか、ダンジョンの罠なの?」
「あ、それはうちの子のご飯ですね。もちろん、ここの世界人も食べれますよ?」
「なんでそんな事を……」
「うちの子、生食とか結構するんですよねぇ。卵を生でいったり、魚を生で食べたり。でも、そういうのって、新鮮じゃないとお腹壊すじゃないですか」
「……毒無効とかそういう能力は?」
「全然ありません!」
「……この動物は繁殖しないの?」
「うちの子のダンジョン内でしか生存出来ません」
「この動物を殺してDMを得ようという考えではなくて?」
「まさか! 何百、何千、何万と殺しても殺傷DMは発生しませんよ!? もちろんこの動物がいるからと滞在DMも発生しませんし」
「……あと、この、ベッドとシャワーってのは?」
「もちろん、うちの子のためです!! あ、でも、ダンジョン内にベッドを並べて探索者を休ませるというのもいいですね! そして、寝静まった頃に、ダンジョンモンスターがワー! ッと!!」
「……本気で言ってるの? もう馬鹿らしいわ……。……まぁ、いいわ。好きにしなさいよ」
「待て、お前がそんなあっさり認めるというのは逆にこちらとしては不安だぞ!?」
この助っ人が助っ人にたり得るのかと不安で視線がまた「あの子」に集まる。
「失礼ね。彼女の望み通り、助っ人を認めただけよ」
「認めただけ、というが……」
「まあまあ。いいじゃないですか。それで他の方々は?」
「我々はもともと、否を唱える気もない」
こくりと全ての者が頷く。
それを受けて男は晴れやかに笑った。
「いやぁ、認めて貰って良かった! じゃあ早速、行動に移しましょう! では失礼します!」
「……では」
「………………行ってしまったか……」
「結局どんな能力だったのー?」
「罠と、ダンジョンマスターが快適に過ごすための能力ね。あと、既製品を改造する能力もあるみたいだけど、それぐらいね」
「……それは、また……」
「大丈夫かなー」
「ふん、あの男に絆されて、この世界の神を辞めるのかもしれないわよ」
「それならそれできちんと言うじゃろ」
「でも、あの子は助けを求める神を決めてしまった。俺達にはもうどうしようもない」
「いやぁ、みなさん納得してくれて良かった良かった」
「……正直、勝てる見込みがないので、反対する理由もないと思います」
「おや? それは、貴女もそう思うのですか? 自分の力を信じると言っていたでしょうに」
「ええ、そうなのですが……不安にはなります」
「ま、それもそうですね。うまくいくか、うまくいかないか、は、やってみなきゃ分からない」
「はい」
「まぁ、あれですよ。うまく行けば貴女は順調に力を取り戻す。失敗すれば、ま、その時はその時と言うことで」
「ええ……」
「そんな顔をしないでください。勝機は十分にありますよ」
「そうですか?」
「ええ。ぶっちゃけまして、うちの子の能力を許可した時点で、九分九厘は勝敗が決まってるんですよ。あとは、皆さんにもいいましたが、護衛がいないと、あっさり負けるってことですかね。あはは。こればっかりは、仕方がない。こればっかりは、彼女の運に任せましょうか」
「……運任せですか?」
「ええ、そうですよ、何か不都合でも?」
「いえ、実は、ソレが、彼女を怒らせている理由でもあるのですが、でも、ふふ、確かにそうですね。全ては私達のダンジョンマスターの運に任せましょうか。あなたは私とダンジョンマスターに勝てる道筋を作ってくれた。その道筋に気づいてくれるよう」