プロローグ
神々の加護により、病気や怪我などは無縁だった人類。
しかし、ある時自然災害が起こった。
長雨により、土砂崩れや川の氾濫が起きた。地面が揺れ、大地が裂けた。
神の加護が消えたのか、楽園が崩れ去ったのか。
今まで寿命でしか死ぬことが無かった人類が、怪我で死に、病気になって死んでいった。
どうする事も出来ない人類達の前に、神が天に現れた。
『嘆き悲しむ子供たちよ。かわいそうな子供たちよ。お前たちの願いを叶えよう。お前たちの大事な者の復活も、病も治してみせよう。ただし、それは、試練を乗り越えた者のみに与えられる物。試練を乗り越えた先に、子供たちの願いが叶うであろう。子供たちよ、ダンジョンへ向かいなさい。そこにある試練を乗り越えれば、ダンジョンマスターが子供たちの願いを叶えるだろう』
その言葉と共に、六つのダンジョンが現れる。
人々はもう一度家族に会いたいとダンジョンに入っていった。
ある者は、宝箱で病気の母を治す薬を手に入れた。
有る者は、モンスターと戦い、恋人の怪我を治す薬を勝ち取った。
ある者は、ダンジョンマスターと戦い、子供を蘇らせる薬を手に入れた。
ダンジョンはありとあらゆる望みを叶えた。
ある者には富を。ある者には力を。ある者には美しさを。
人々は神を崇めた。
そして、人々は神々のために神殿をつくった。
それにより加護が戻ってきたのか、聖職者達は、神のような奇跡を行うことが出来た。
ダンジョンマスターを倒さなくても、宝箱で出てくる物で死者を蘇らせる事が出来るようになったのだ。
人々は喜んだ。
より多くの者がダンジョンへと向かった。
しかし、人々の願いが増えた為か、ダンジョンの試練はより強固になっていく。
人々は願った。もっと戦える力が欲しい、と。
神はその願いを叶えた。
魔法や武技と呼ばれる能力が人々に与えられた。
そして、やがてそれは、平等であった人々に格差を付け始めた。
その差を無くすためにも人々は力を合わせ、ダンジョンへと挑み続けた。
それがこの世界のダンジョンである。
物語が語り終わったその場所で、一人の少女がorzマークを披露していた。
その少女、新しいダンジョンのマスター藍花は、聞いた内容の物語に呆れ果てていた。
「……ダンジョンマスター側のルールをもう一回教えてくれるかな?」
ふわふわと自分の側に浮かぶ球体に藍花は声をかけた。
『これは神々の遊戯である。
神は複数のダンジョンを所有し、ダンジョンの優劣によって、神々のランクが決まり、最終的に全てのダンジョンがなくなれば、負けとし、神の遊戯から落脱とする。
よって、ダンジョンマスターはダンジョンコアを守る事を最優先とする。
ダンジョンマスターとダンジョンコアについて。
ダンジョンマスターとダンジョンコアは一心同体であり、ダンジョンコアが破壊されれば、ダンジョンマスターは死亡する。
ダンジョンマスターが倒され、意識があった場合、敵の願いを一人に対し一つ叶えることとする。
敵に敗れ死亡となった場合はダンジョンコアのすぐ側で、時間を置いて再出現する。
また、所持していたダンジョンマナの一部を消失する。
ダンジョンコアの設置場所にはいくつかのルールがある。
その一、異空間等、どことも繋がっていない場所への設置は禁止とする。
その二、ダンジョンコアを土の下等に隠す行為は禁止とする。
その三、上記二つにおいて、見える場所や、隠し部屋や、暗号など、敵が挑戦出来る条件が揃っていれば、上記二つでもダンジョンコアを設置する事が可能となる。
規則違反の場所に置いた場合、警告が三回鳴る。それでも無視して設置し続けた場合、ダンジョンコアは砕け、ダンジョンが崩壊しダンジョンマスターは死亡する。ただし、設置場所を変えた場合、警告回数は初期化する。
ダンジョンコアをダンジョンの外に一時間以上移動させた場合、ダンジョンコアは砕ける。
ダンジョンマスターはダンジョンの外に移動可能である。制限時間はない。
ダンジョンモンスターについて。
ダンジョンマナを使用し、作成される。ダンジョンマスターに絶対服従である。
ダンジョンモンスターが敵に倒されると、魔石と時折ドロップアイテムを残すが、所有権は倒した敵の物となり、所有者が一定時間放置し、所有権を手放したと判断出来る場合のみ、ダンジョンマナ化出来る。
人種ダンジョンモンスターのみ、魔石にはならず、人の死骸として残る。
強化について。
ダンジョン、ダンジョンモンスター、ダンジョンマスターの強化は、ダンジョンマナを用いて、自由に強化して良い。
ダンジョンマナについて。
その一、一日に一回、神より与えられる。
神のゲーム成績により与えられるダンジョンマナは変動する。
その二、ダンジョン内で、いくつかの条件により獲得。
獲得する量は上から順に高い。
生物の殺傷。
液体及び個体の変換。また、その中でも価値が高い物が高い。
敵の滞在時間。
敵の侵入時。ただし、制限有り。
保護期間について。
新規のダンジョンは半年の間、告示されない。また、一年間はダンジョンコアの破壊はされない。
保護期間の間に、防衛設備を整えること。
以上です』
「この敵ってのは、ダンジョンに入ってきた人間って事でいいのかな?」
『はい』
「マッチポンプだよね!? これ!」
藍花はorzマークのまま頭を上げて叫ぶように口にした。
人間側には、ダンジョンに行けと言い、ダンジョン側には人間と戦えという。
それによってケガをしても、それこそ、神殿に行って神に祈るか、ダンジョンのお宝を手に入れて治せという事なのだろう。
酷いゲームもあったものだ、と藍花はため息をついた。
「それで、神のゲームの勝敗って何で決まるの?」
『分かりません』
「……は?」
『ダンジョンマスターはダンジョンを強化し、負けないようにしてください。そうすれば神は負ける事はありません。なのでダンジョンマナを集める事を推奨します』
光る物体の言葉に藍花は口を引き締め、眉を寄せた。
「ねえ、教会? 神殿? よく分からないけど、さっき物語に出てた聖職者は、このゲームに関係するの?」
『分かりません』
「分からないの?」
『私は、ダンジョンマスターにダンジョンゲームのルールを説明するだけの存在です』
「……相談とかは乗ってくれないの?」
『私は、ダンジョンマスターにダンジョンゲームのルールを説明するだけの存在です』
「……神側のルールはどうなってるの?」
『分かりません』
言葉を変えてもダメか、と藍花は頭をかいた。それからしばし考えて次ぎの質問をしてみる。
「教会側のルールってどうなってるの?」
『分かりません』
「人間側のルールってどうなってるの?」
『 神々の加護により、病気や怪我などは無縁だった人類。
しかし、ある時自然災害が起こった。
長雨により、土砂崩れや川の氾濫が起きた。地面が揺れ、大地が裂けた。
神の加護が消えたのか、楽園が崩れ去ったのか。』
「あ、物語をもう一度語るのならいいです」
慌てて藍花はストップをかける。
「まず私は何をすべきだと思う?」
『まずダンジョンモンスターの作成、およびダンジョンに罠をしかけ、ダンジョンコアを守る事を進言します』
「……他にオススメの方法はない?」
『ダンジョンマナはかかりますが、何度も繰り返し出現するタイプのスポーンアイテムと変換すれば、最終的にはお得になります』
「戦わない方法ってないかな?」
『あり得ません。ダンジョンコアの最終防衛ラインはダンジョンマスターとなっております』
「そう……」
藍花は呟いて自分のスキルを確認した。
彼女の所持スキルは四つ。
ダンジョンクリエイト レベル1
異世界ダンジョンツクール レベル1
魔改造 レベルMAX
??? レベルMAX
である。
「……私のスキルで、はてなマークのヤツがあるんだけど、それがなんのスキルか分かる?」
『分かりません』
「……私が持ってるスキルの説明って出来る?」
『一つ目のダンジョンクリエイトはダンジョンの作成のためのスキルです。ダンジョンマナを使い、ダンジョンを強化していきます。一覧があるので、それを使用し、強化と消費ダンジョンマナの確認を行ってください。
二つ目のスキルについては情報がありません。
三つ目のスキルについては情報がありません』
あー。これは、期待薄だなぁ。と藍花は苦笑する。
『四つ目のスキルについては、このダンジョンを作った神が司る物に関する力となっております』
「知ってるじゃん!!」
思わず口にするが光る物体はふよふよと浮きつつ、『そのスキルが何なのかは知りません』と言ってくる。
藍花は疲れたようにため息をついた。
「相談相手が欲しい……」
それが藍花の切実な気持ちだった。