表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者ラーフル2 勇者登場  作者: 茅咲水香
5/8

カルディア湖

5.カルディア湖

「奴隷は禁止じゃない?」

「カレーでは奴隷は普通にいるわ。」

 アレスとビュクスが会話をする。

「他人の奴隷を奪おうとするのは、泥棒よ。悪いのはあなた。」

「ぼ、僕は奴隷を解放しようとしただけなのに。」

「人の持ち物を勝手に奪うのが泥棒じゃなくて?」

「奴隷の人権が・・・・・・。」

「そんなもの犬にでも食べさせなさい。とにかくあなたのやったことは犯罪行為。一晩留置場で過ごしてもらうわ。そのくらいで済むことをラッキーに覚えておいてね。旦那から正式に訴訟起こされたら、賠償金を払わなくてはならなくなるわ。」

「そんなの間違ってる。」

 アレスは途方に暮れた。アレフグリードでは奴隷は禁止されていた。すべての人間に人権が保障されていたからだ。貧乏な人間は居たが、奴隷は居なかった。


 翌日、外へ出ると仲間たちが待っていた。「いよう、犯罪者。」

 タンデが軽口を叩く。

「とにかくおなかが空いたよ。昼ご飯でも食べに行こう。」

「それがいいね。」

 トリスが同意する。

「いろいろ調べてみたけれど、この街では奴隷は禁止じゃないらしいね。アレスがむきになるのは分からなくもないが、ローマにはローマの法があるというくらいだ。逆らわない方が身のためだろう。」

 ドナンが忠告する。

「ああ、分かってる。街の中ではやらないよ。やるなら街の外だ。」

「ああ、何にも分かってない。」

 ドナンは頭を抱えた。

 近くの食堂に入って昼食を取る。

「金貨十枚分くらいは稼いだし、そろそろ次の街へ行ってもいいんじゃないか?」

 バークスが意見を言う。

「僕としては、あの旦那って奴をやっつけないとだめだと思うんだよね。」

「それがこの街での目的ってこと?」

「そのための情報収集が必要だよ。」

「まあ、それがアレスの意見なら、やるしかないわなあ。」

「私としては犯罪行為は反対したいのだけれどね。」

 ドナンが忠告する。

「犯罪にならないようにやるんだよ。まずはみんなで旦那についての情報を集める。」

 実際に情報は簡単に手に入った。カレーの近くに住まいがあるらしいこと。ただ、誰もその場所を知らないということ。パインは割と自由にカレーに出入りしていること。パインが街中で魔法を使った時にとんでもない被害が出たこと。旦那がその賠償金を即決で払ったこと。旦那は基本的に金で動く人間であること。旦那とパインのペアでクエストを行っていること。などなど、いろいろな情報が聞けた。

「基本的には金持ちなんだね。」

 タンデが呟く。

「これは金で売ってくれといっても無理じゃないかな。」

「パインはかなり旦那のお気に入りみたいだし、すごく旦那に懐いているそうですよ。親子か恋人みたいに。」

 メディアがため息をつく。

「お互いが、それでいいと思っているものを引き離すのは無理じゃないかしら。」

「力尽くでやるしかないかなあ。」

「前回は不意打ちで全員ノックダウンされたけど、用心してやれば。」

「結局最後は力なんだな。」

 バークスがにやりと笑う。

「任せておけ、次は負けねえ。」

「決戦は奴の家だ。必ず突き止める。」

「それなんだが、家に帰ってないのか?」

「どうやら赤の小枝亭と言うところに泊まっているらしい。街中でやり合うわけにも行かないだろう。一応一度捕まってるしね。」

「このまま突っ込むと全員牢屋行きか。」

「任せて。脱獄なんて簡単にできるよ。」

 トリスが笑う。

「いや、街の人を敵に回すのはまずい。あいつは街の人に結構恩を売っているらしいし、悪口を言う奴がいなかった。僻みは結構あるみたいだけれどね。」

 アレスたちは冒険者ギルドに戻ることにした。


「緊急クエスト?」

「ああ、今人を集めているところだとさ。」 アレスがギルドに戻ると人が集まっていた。キースが説明してくれる。

「カルディア湖にハイドラが出たらしい。金貨一枚の大物だが、普通にやって勝てる相手じゃない。勇者さんたちが参加してくれれば、勝てるかもしれないけどな。」

「それは参加するけど・・・・・・、旦那は?」

「今、呼びに行ってる。パインが力を貸してくれれば、何とかなるけど・・・・・・。」

「何か含みがあるね。」

「一人でやられると、金をもらえない。旦那がその辺をうまく指示してくれればいいんだけどな。」

「パインはそんなに強いのかい?」

「あれは、人間のかなう強さじゃない。」

「一度試したことがあるんだよ。」

 バースがささやく。

「旦那にちょっかいをかけようとしたんだけど、パインににらまれてね。」

「ああ、気迫って奴かな。人間としての格が違うっていう感じだったね。」

 キースは肩をすくめて言う。

「あんたも気迫があるけど、そんなもんじゃないんだよ。」

「あれ?僕って怖い?」

「ああ、怖いね。」

 百人近い冒険者たちが集められていた。そんな中で説明が始まる。

「カルディア湖はここから二日ほど行ったところにある湖です。食料と予備の装備を持った隊商が同行しますので、そちらの心配はしなくて結構です。ハイドラ退治は危険なので、心配な方は参加されなくて結構です」

「報酬は金貨一枚分、参加された人数で割りますので、だいたい一人あたり鉄貨百枚くらいになるかと。」

「悪くねえ。」

 キースが笑う。

「うまくいけばしばらく遊んで暮らせる」

「結構安くなっちゃうんだね。」

 アレスが素直に言う。

「勇者様には物足りない相手かもしれないけれど、俺らにとっては命がけの大物なんだよ。」

「そう言うなって、キースくん。何事も協力が必要なものだよ。」

 タンデが笑う。冒険者ギルドの集団はこれからもらえる報償に期待を膨らませていた。 一行はすぐに出発する。全員歩行だ。好き勝手にしゃべりながら移動する。

 三日目にカルディア湖にたどり着く。大きな湖だ。

「さすがにすぐに出てくるってことはないのか。」

「出てきますよ。人を襲いますからね。全員戦闘準備を始めてください。」

 コルネットの指示で辺りの空気が変わる。ここからは真面目モードだ。一瞬の油断が死につながる。接近戦担当の部隊がじりじりと前に出る。弓部隊と魔法部隊は後方待機だ。水に触れる間際に、水面が泡立つ。五つの首が伸び上がって、向かってくる。接近戦部隊は散開して首の来襲に備える。弓部隊が一斉に矢を放つ。が、ほとんどの矢がはじき返されていた。魔法部隊がドンドンと魔法を打ち込んでいく。そんな中、攻撃魔法を持たないトリスはララバイの歌を歌い始める。人方でないモンスターに聞くかどうかは難しいところだ。トリスは必死に歌い続ける。声が届くように少しずつ前に出る。

「やめろ、そこより前に出るな。」

 弓舞台の一人に注意される。

「前衛の邪魔になる。」

 仕方がないのでトリスは止まる。前衛部隊は襲いかかってくる首を必死に受け流し、傷を与えていく。しかし、あまり聞いている様子は見られない。武器が正面ではじかれているようだ。何人かはすでに倒れているようだ。移動魔法が得意な魔法使いが、倒れている前衛を回収する。

 とても攻撃が効いているという感じはしなかった。誰の顔にも焦りが見られる。と、突然相手の動きが鈍りはじめる。頭を揺すり、ふらふらとし始める。トリスのララバイが効き始めているのだ。やがて五本の首は、湖の縁に倒れ込んだ。ここぞとばかりに前衛が攻撃を仕掛ける。が、厚い皮にはじかれて、全く有効打が与えられない。

「これは、任せてくれ。」

 アレスが気を高める。勇者の必殺の一撃だ。これにはさすがのハイドラも首を切られる。周囲から歓声が上がった。アレスは次々に首を切った。

「これで、討伐成功かな?」

 五本の首を切り落とし、アレスが笑う。必殺の一撃は気力を使う。肩で息をしながら、それでも満足そうに笑った。と、一人が悲鳴を上げる。

「首が、首が動いている!」

 ずる、ずるっと切られた首が近づいて、結合する。五本の首は元通りくっついてしまった。むくり、と首が起き上がる。

「やばい、逃げろ!」

 誰かが叫んだ。慌てて散開する冒険者たち。ハイドラは大きくのびをして湖の中に消えていった。

「逃げられた?」

「逃がしてもらったのかな。」

「あちゃー、討伐失敗かあ。」

 アレスが呆れたように言う。首を切り落としても死なないモンスターは初めてだった。「一応、撃退はしましたけど・・・・・・。」

 コルネットが申し訳なさそうに言う。

「討伐成功とはいきませんね。とりあえず、野営地まで撤退しましょう。」


「あれ、あんなのどうやって倒すんだよ。」「首を切っても死なないってことは心臓か?」

「湖からあいつを引きずり出すのか?無茶だろう。」

「あいつが抵抗しなくても、引きずり出せないだろうに。」

 野営地では冒険者たちが口々に不満を言う。今回の討伐は失敗だ。だが、こんな危険なモンスターを野放しにしておくわけにもいかない。

「さすがに心臓を切り落としたら死ぬと思うんだけどね。」

 アレスが呟く。

「だとしても、どうやって首以外を水面から上げさせる?」

 バークスが問いかける。

「さすがの俺でも、あれを持ち上げるのは無理だと思うぞ。」

「でも、やってもらうしかないよね。バークスが湖から引きずり出して、僕が心臓を突き刺す。首も心臓も切り落として生きているなら、みじん切りにしてみるしかないね。」

「攻撃に関しては勇者の一撃以外に有効打がないから仕方ないとして、俺らはどうする?」

 タンデが笑う。

「なにもしないわけにはいかないだろう?」「タンデはいつも通り、他の首の牽制。トリスはララバイ。魔法は力を上げる魔法を使って・・・・・・。」

「攻撃力は上がるけど、力が上がるわけではないからなあ。」

「それでもかけないよりはましだと思う。傷ついたものがいたら、メディアが自分の裁量で回復させる。」

「まあ、その辺で考えておくしかないねえ。」

 タンデは笑えない、と呟いた。


「コルネット、何かお困りかね?」

「あ、旦那!」

 野営地にふらっと旦那が現れる。パインは連れていないようだ。

「パインはどうしたんですか?」

「湖に調査に行かせた。戦況はどうなっている?」

「一応撃退したのですが、再生されました。」「それでも一度撃退したのか。さすがだな。」 旦那は感心したように言う。

「しかし、この世界にそんなに再生力の高いモンスターがいたとはね。予想外だねえ。」「はい。全く想定外です。多少の再生力はあるモンスターはいますけれど・・・・・・。」

「そりゃ、倒し方ってものがあるからなあ。」 旦那はひとしきりコルネットと話をする。どうやら明日の作戦を立てていたようだが、うまくいっていないらしい。攻撃が効かない、と言うか勇者しかダメージを与えられていないのだから、作戦を立てようがないのだ。

 やがて、パインが戻ってくる。

「旦那様。調査終わりました。」

「ふむ。」

「ハイドラは二匹います。そのうち一匹は幼体です。もう一匹が守っているようですね。」

「今日倒したのは、そっちか。」

「だいぶ弱ってますが、成体の方は明日には回復しているかと。幼体の方は湖の底で眠っています。ただ・・・・・・。」

「む?何か気になることでも?」

「成体の方が、どうもドウマン様の気配がするのです。」

「ドウマンの?ああ、彼の持ち物か。次元の狭間にでも落ち込んだかな。」

「どうやってこの世界に現れたかは分かりませんが、ドウマン様の式で間違いないかと。」「だとすれば、回収してやるしかないか。目立つわけにもいくまい。パイン、夜のうちに回収してこい。」

「でてきますか?」

「ドウマンの符を渡すので、それを使え。」

「それなら確実に。」

「行ってこい。」

「あの、旦那?」

 コルネットが口を挟む。

「話が見えないんですけど。」

「ん、どこまで説明したものかな。ハイドラがドウマンのものなのでこちらで回収したいのだが、それでは困るかな?」

「二匹いるっていってましたよね?」

「私が回収したいのは一匹だけだ。もう一匹は好きにしたらいい。ああ、大丈夫。今日、攻撃が通じなかったのはドウマンの呪のせいだ。残っている一匹には普通に攻撃が通じるよ。」

「湖に光の柱が立ってるぞ!」

「何が起きているんだ?」

 野営地が騒ぎ出す。

「目立つな、と言ったつもりだったんだが、聞いていなかったかな。」

 旦那が頭を抱える。

「コルネット、ついてこい。パインの仕事を見ることにしよう。」

 湖は月の光に照らされていた。真上にパインが浮かんでいる。湖の表面に今日倒したはずのハイドラが浮かんでいる。

「ごめんね、もう少しで終わるから。」

 心なしか、ハイドラがドンドン縮んでいっているように見える。それはドンドン加速していき、ハイドラが小さな塊になってしまう。パインは両手に光の玉とその塊を持って空中を飛ぶ。そこへ三本の首が襲いかかってきた。「あなたの相手をする気はないわ。保護者を失ったあなたでは、私に勝ち目がないことぐらい分かるでしょう。」

 三本の首の攻撃をよけながらパインが言う。そのまま攻撃が来ない高さまで飛び上がり、湖の縁へ戻ってくる。光の玉はやがて輝きを失いガラス玉のようになった。

「旦那様、どうぞ。」

「もう少し目立たないようにできなかったかな?」

「だめでしたか。」

「ああ、今日はだめだな。」

「申し訳ありません。」

「まあいい。回収してくれたのだから、その点では合格だ。」

 光の玉と塊を受け取ると、旦那はそれをポーチにしまう。

「なんですか、それ?」

「光の玉は貯め込んだ魔力だな。今は不活性化している。もう一つは手だ。ある偉人の手でね。ドウマンというものが式として使っている。」

「式?」

「わかりやすく言うと使い魔だな。とりあえずこいつはドウマンのお気に入りなんでね。私が回収させてもらったよ。」

 旦那は笑顔で言った。

「みんなはもう一匹を倒せばいい。それでギルドから報奨金が出るのだろう?」

「二匹いたとは調査不足でした。ギルドにいって報奨金を増やしてもらわなければ。」

「それでも構わん。好きにすればいい。私はこいつをドウマンに返しに行く。あとは好きにやってくれ。」

 旦那はそう言うと、パインの頭をぽんぽんと叩いた。  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ