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雪の神楽

「ねえ、お母さんは神楽見たことある?」

「んー街に出る前はねえ」「雪景色の中で舞うのがとても幻想的だったかな」

母は懐かしそうに笑った


「ふーん。でも残念だね。今夜は雪降らないって天気予報で…」


「雪は降るわよ」

「?」

「だって雪の神楽だもの」

自信たっぷりに母が言う

ヘンなの


夕方になり友達たちが迎えに来た


コートとマフラーを渡しながら

「さあさ、行ってらっしゃい。ちゃんと暖かい格好してね」


玄関を出ると


あれ?雪積もってる?

いつの間に降ったんだろう?



さくさくさく

新雪を長靴で踏みしめて神社に向かう

吐く息も真っ白だ


雪灯りが宵闇をぼんやりと照らし道が明るい

ぽつりぽつりとある集落の明かりがとても暖かそうだ


神社の境内には村の子供たちが集まっていた


舞台の周りは篝火が焚かれている

薪がパチパチと爆ぜながら雪景色を照らし

ゆらゆらと揺れる炎が雪に映る


「うわー綺麗…」


そして神楽が始まった


厳かな舞台に

貴之さんが篳篥ひちりきが奏でる


扇を持ち白衣緋袴に千早姿の巫かむなき雪音さんが

音も無く舞台で舞う


その舞は


儚から寂へ

凛から烈へ

烈から凛へ

寂から儚へ


雪の舞 雪の舞 雪が舞う


雪の精霊の舞う神事

忘っとして見入る


神楽舞が終わる

ふーっと白い息を吐く


(綺麗だったなあ)


その晩は興奮して眠れなかった




それから暫くして村の人から

雪音さんが雪神楽を継承する人を探していることを聞いたのだ


始めはチンチクリンの自分なんかがと考えはしたが

意を決して神社へ向かった

それほど私は雪の神楽に魅了されてしまったのだ


そして嫋やかな笑顔で私を迎えてくれた雪音さんが


悠久の時を生きる姫神の雪の精霊

人ではないことを知ることになったのです


私に神楽舞を指南しながら

雪音さんは色々なことを教えてくれた


村の事、神社の事、私の母が小さな子供の頃の話も

…そして夏の向日葵畑で出会った少年の話


雪音さんが、とてもとても 楽しそうに 愛おしそうに その少年の話を続ける

「それでね、私の事を「お嫁さんにしてあげる。」って」

はにかみながら、私に話す


何だろう?すごくムカムカする


「でも、その子は引っ越しちゃったんですよね?」


どうして、こんな意地悪なこと言ってしまったんだろう?

嫌な娘だなわたし…


ちょっとだけ驚いた顔をしていた雪音さんは

「そうね」とすぐに微笑む


「でもね、縁えにしとはいつの日にか交差するものなの」

「そして縁は約定であり、約定は縁なのよ」


「…よくわかりません」

それを聞いた雪音さんはクスクスと笑っていた




……それから数年の歳月が過ぎ

私の神楽舞も、なんとか様になってきたと言われるようになった

雪音様からも太鼓判を押された


今年の雪神楽では私が舞う

神に捧げる神楽

雪の精霊たる雪音さまに捧げる供物


でも夏のある日

いつものように神社に行くと雪音様からの言伝を伝えられた

「約定を果たしに参ります」と


私は半狂乱になって

雪音さまがどこへ行ったのか村中を聞きまわり

雪音様が東京へ

あの少年の元へと嫁いだと聞かされた


そのまま私は村を飛び出した

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