日菜乃
今回は暴力巫女 日菜乃の子供の頃のお話です
あれは私が小学生2年生の秋のこと
この村に越してきた
父は都会での味気のないサラリーマン生活に見切りをつけて
母の出身地である
ここ姫神の村へと就農するためにやって来たのだ
街の小学校では大勢の友達がいたし
辺鄙な田舎への転校なんて
最初は酷く憂鬱な気分だった
だが住んでしまえば
子供同士ゆえか友達もすぐに出来たし
街では体験することも出来ないようなことばかりで
とても新鮮だったし楽しかった
その頃に私は村で一人の不思議な女性と出会った
村の人達は彼女の事を
「雪音様」「雪音様」と呼んで敬っている様子だった
始めは、
(この村の、どこかの旧家のお嬢様なのかな?)
くらいにしか考えていなかった
友達の子に聞いても
「雪音様は雪の神様なんだよ」と
ひょっとしてからかわれているのかな?と感じたものだった
(まあ、そのうちにわかるよね。)
道で雪音さんとすれ違っても頭を下げて挨拶する程度で
大して気にもせずにいた
そんなある日のこと
晩秋の田んぼ道を自転車で走っていると
轍にタイヤを取られて
盛大に転倒し田んぼの中へと転がり落ちた
「痛たたた…」
子供の軽い体重だったからなのか
幸いにも怪我こそしなかったものの
痛みに顔をしかめてた時に
「大丈夫?」
チリン。という鈴の音とともに女の人の声がした
見上げると、そこには
長い長い黒髪に雪の結晶をあしらった白い着物姿の
息を呑むほど美しい女性が
心配そうな顔をして此方を覗き込んでいた
(あ、雪の神さまだ…)
村の友達に言われたことが
なんとなくストンッと胸に落ちる
「大丈夫?」
再び雪音さんに問われ
ハッとして「大丈夫です!」と返事をする
真っ白な雪のような人に対して
泥まみれになった自分が何故かとても恥ずかしかった
「少し擦りむいてるみたいね」
「手当してあげるから神社へいらっしゃいな」
言われるがままに
ぼーっと手を引かれて神社へと入って行く
雪の神さまだからなのか
白い白い手は少しヒンヤリとしていた
「どうかしましたか?雪音様」
神社から作業着を着た20代前半くらいの
眼鏡の若い男の人が出てきた
「貴之さん。この子が怪我をしたみたいで…」
「救急箱ですね?すぐに取ってきます」
と青年は奥へと消える
雪音さんと貴之という青年に手当をしてもらう
軽い擦傷程度の傷だったので処置自体はすぐに終わった
その後に2人と少し話をした
「もう直に村に冬が来る」
「そうしたらここで雪神楽があるから見に来てね」
「私が舞うのよ」
「気をつけて帰りなさいね」
と雪音さんは手を振りながら見送ってくれ
家までは貴之さんが送ってくれた
「雪音様の雪神楽は綺麗だぞ」道々そんなことを教えてくれた
そして雪神楽の日がやって来た