波
「バレてしまえば是非もないの」
玉藻が妖しく笑う
童女が咥えていたストローをペッと飛ばし玉藻に噛みつく
「んで、あたいら見て嘲笑ってやがったのか?さぞや面白い見世物だったろうな」
「それはそれは愉快であったわ」
玉藻はそれを軽くあしらう
が、雪音に少し怒りを含んだ顔を向けると
「だが、雪音よ。
そなたは怒りに我を忘れておったな。
あれでは主の大事な旦那様とやらにも害が及ぶところであったわ
我が止めに入るのも当然であろう?」
「その点に関しては、本当に反省しています」
雪音はチラリと、おのれの良人を見て無事であったことに安堵する
「でも、やはり旦那様を監視していたのですね?」
これは心外とばかりに玉藻は
「監視などとは・・・姫神の雪姫が無粋な言い回しよの」
そして彼女は遠い目をして俺を見ていた理由を語り始めた
「最初は興味本位であった」
「生娘を拗らせて万年行かず後家の雪音がご執心とやらのヒトの子を見てやろう
まあ、その程度のイタズラ心であったよ」
童女が
「マジで未通女だったのかよ・・・」
「貴女が普段わたしをどう思っているのかよ-くわかりました」
雪音は憮然とした風でそっぽを向く
玉藻は碧から変化した黄金の双眸で俺をじっと眺めてると
眼を優しげに細めると語り始めた
「今から十年以上前のことだ
我はそなたに逢うておるぞ」
会った?一体いつ?
「伏見の千本鳥居を憶えているか?」
確かに中学生のとき修学旅行で関西ヘ行ったな
そこで伏見稲荷へと行ってたはずだ
ああ、そういえば長い長い鳥居を級友たちと歩いたっけ・・・
有名な観光地なのに不思議と人がまばらだったのを覚えてる
あの時は。。。。
よそ見をしながら長い鳥居を眺めながら歩いて時だった
前を歩いていた、長い金髪をした女性に追突してしまったのだ
完全に俺が悪い
「ごめんさい。あ、えっとアイム・ソーリー…」
金髪の女性は流暢な日本語で
「どういたしまして少年。あなたは…」
俺の顔を覗きんで優しく微笑んだ
揺れる碧い瞳がとても印象的だった
「とても心地良い「波」をしているのね」
この女性が何を言っているのわからなかった
思春期特有の女性に対する気後れと気恥ずかしさが綯交ぜとなり
この綺麗な女性にぶつかってしまった
自分の迂闊さが、ただただ恥ずかしくてたまらなかった
「おーい!姫神!早く来いよー」
「今行くよー」
「あの、どうもすいませんでした。それじゃ!」
クラスメイトに急かされたのを幸いに逃げ出すように、その場を離れた
甘い甘い記憶を懐かしむように愛おしむように
玉藻はおのが胸を抱きしめる
「彼の「波」が、とても気に入った」
「雪音のモノだと思ったら余計に欲しくなった」
「いっそ手を付けてしまおうか?とすら考えた」
玉藻は妖艶な笑みを浮かべ、そっと俺の手をとって
自分の豊満な胸へと導こうとする
その手を雪音さんがペシリと叩く
「我に溺れさせてしまえば簡単だとな」
クスクスと笑いながら叩かれた手を擦る
「だが私の中のタマが「それはダメだ」と言った。「雪音が悲しむ」と」
「だから我は待つことにした」
「雪音が少年との約定を果たす時を」
その場に沈黙が降りた
沈黙を破るように玉藻が切り出す
「そこで提案がある」
全員が玉藻にを注視する
「我等で彼の者を共有せぬか?」
腕を組んで考えていた童女が賛意を示す
「あたいはそれでもいいぞ。地雷女が正妻なら あたい2号さんな」
これに玉藻が不平を鳴らす
「それでは我が3号さんか?
目をつけた順で考えるなら、我が2号さんではあるまいか?」
2人の物言いに額に青筋が立ちまくった雪音が
「そろそろキレていいかしら?」
・・・さっきまでの甘酸っぱい空気どこー?
なにやら不穏な話し合いになってきた
飲まなきゃやってられない
ウエイトレスさんを呼んでビールを頼む
・・・それにしても「波」か
猫に縁側レベルの力が何だというのだ?
でも。その「波」に皆が引き寄せられてくる
パワ-アップとか出来るのかな?
(出ろーオレの「波」出ろー)と念じてみた
何も変わらない。てか、わからない
・・・違うな。もっと、こうスーパーになる感じでやってみるか
(それはク◯◯ンのことかー!!)
みたいな
「お待たせしました」
店員さんがビールを持ってきた
丁度そのタイミングで、それは起こった
いきなり三人の女達が嬌声を上げてテーブルに突っ伏す
そして悶えるような艶めかしい姿態を晒す
顔を朱に染め、こみ上げてくる何かを堪えるように玉藻が
「い、いきなり、なにを・・ くっ!」
「・・・おめー意外と てくにしゃん だな」
童女!お前は頼むから股間に手を持ってくな!
「・・・んっ!」
雪音は着物の裾を咥え必死に声を上げるの堪える
シンと静まり返った店内に
3人の何かを堪えるような呻き声だけが響く
・・・店内ドン引きである
そして店員さんは、やはりドン引きしているオレに
ニッコリと完璧な営業スマイルでこう切り出した
「お客様」
「当店も一応は公共の場でございますので
特殊なプレイはご遠慮下さい」
「・・・はい、すいません」
俺としては謝るしか無かった
結局、店から追い出された