朝餉にて
「波?」
着物にエプロン姿の雪音さんが問い返す
大正時代のカフェーの女給さんみたいで可愛いな
「そう「波」。そんなこと言ってたな」
英国風の朝食を食べながら
雪音さんと昨夜の騒動の顛末を話していた
(てか雪女も欧風の朝食が作れるんだ…)
変なことに感心しながら
ベイクドビーンズを口に入れ咀嚼する
頬に白い手を宛てがって考えていた雪音さんは
「「波」を感じると言っていたなら、その娘も「ヒト」ではありませんね」
やっぱりネ
あの絡め取りにくるような魔性は只のヒトじゃないわ
ガキの姿のくせに、すげー艶気だった
飲み込まれる様な恐怖感じた
「雪音さんも、その「波」は感じられるの?」
ちょっと気になったので聞いてみる
「はい。」
「でも普通のヒトの発する「波」はとても微弱で…感知するほどでは」
離れててビンビン受信できるようなモンじゃないってことか
至近距離に密着でもしなきゃ感知できないな
「あ、旦那様の「波」は少し特殊ですけれども」
「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
俺の中に隠された眠れるチートが遂に発動するのか!
我の命に従え!我が右腕よ!
「すごく心地良いんです」
「…はい?」
「何か、こうウットリできる。と言いますか」
雪音さんは胸に手を当てて
じんわりとした嬉しさを堪えるような表情で説明してくれる
「上手く説明出来ないのが、もどかしいのですが」
申し訳なさそうに上目遣いでこちらを見る
「…よーするに猫に縁側みたいな能力ってことか」
それも人外専門のね!
急速にしぼんで行く俺の厨二病魂であった
「知り合いに詳しい女がいるのですけど。今どこの空の下にいるのやら」
なんとなくわかる
その女もヒトじゃないんだな…
残ったトーストをコーヒーで胃に流し込む
他にも気になることはあるんだよな
階段の上から聞こえた退魔の文言の主のこととか
でも姿は見なかったしな
「珈琲のお代わりは如何ですか?」
「ああ、もう一杯頂きます」
俺のカップにコーヒーが注がれる
黒く香ばしくゆらゆらと波打つ液体を眺めながら独りごちる
「「またな」とも言ってたな」
すげー怖かったよ
正直もう会いたくねえわ
「その点に関しては御安心を」
すっと胸を張って、俺の瞳を見つめながら笑顔を浮かべる
「…躾の悪い泥棒猫はキチンとお仕置きしませんとね」
…笑顔のまま、すーっと目を細めた雪音さんが、とてもとても怖かった