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真夏の雪神楽

酒杯はめぐる


村の誰それさんちの娘が年頃だとか

村の誰さんちに子供が生まれたとか


他愛のない話に花が咲く

その内に話題は村での雪音さんのことになる


村の皆が雪音さんのことが大好きで

男衆で村の美しい雪の精霊に恋しなかった者はいなかったとか


「そういえばオレ子供の頃に、村から引っ越したんだよなあ…」


子供の時以来、村に帰ってない

そーいえば、なんで急に引っ越す事になったんだろう?


確か雪音さんを「お嫁さんする」宣言して

しばらくしてだったよな


「村の皆に嫉妬されて身の危険があったからだったりして」

ハハハと笑いながら冗談めかして聞いてみる


貴兄が手酌で酒を注ぐと真面目な顔で

「いや、お前が難攻不落の雪音さまを落とした。ってことが村に広がると」

「「村の誉れじゃ!英雄じゃ!宴会じゃ!」って騒ぎになってな」


貴兄の話を、ばーちゃんが継ぐ

「男衆どもが連日連夜に渡ってお主を囲んで飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを開催し」

「お前が急性アルコール中毒でぶっ倒れる。という事態が発生してな」


思わず飲んでいた酒を吹き出しそうになる


「ちょっと!未就学児童に何してますの!」


「幸い、その場にいた村長さんと駐在さんのおかげで事なきを得てまして」

沈痛な顔をして雪音さんが継ぐ


「その場にいたのかよ!村長と駐在!とめろよ!」



やはり沈痛な表情でばーちゃんが

「流石に、これには村の女衆が怒りだしてのー」


「当たり前だよね」と俺


何故か目を背けならがら雪音さんが


「その…「私たちも混ぜろ!」と言い出してまして…」


「怒りの方向そっちかよ!」


こっちを向いて雪音さん!

貴女まさか…


「で、再び連日連夜の宴会が行われ。お前がまた急性アルコール中毒になった」

何のこともないように貴兄


「色々とおかしい!」

だんだん突っ込むのも疲れてきたぞ


「幸い、その場に村医者の直江先生がおってな。事なきを得たのじゃ」

ばーちゃんが遠い目をしながらシミジミと語る


「イヤ医者、まず子供に飲ますの止めろよ!」

大丈夫なの?その村医?


「じゃあ俺が引っ越したのは?」


ばーちゃんと貴兄と雪音さんに聞く


「ただ単にお前のオヤジの仕事の都合」


「うがー」


オチに、ちょっとだけキレる








そんなこんなの昔話とバカ話も落ち着いた頃

貴兄がポツリと呟く


「……俺も雪音様に恋してたんだよな」

「ん」


そのことで嫉妬しようとかは全く思わない

こんな美しい人に恋しない男なんているのか?


「…俺が昔、お前のことを嫉妬してた。って知ってた?」


「………」

「でもな、こっちに来てお前と会った時に、お前俺を見て嬉しそうに笑ってたんだよ」

「それで嫉妬してる自分がバカバカしくなった」


「あんちゃんは、あんちゃんだよ」


俺は貴兄の茶碗に酒を注いでやる


「俺にとって貴兄は兄貴さ」


「…そうか」

そう言うと貴兄は嬉しそうに笑った


そんな俺たちをやり取りを優しく見守っていた雪音さんが

「宜しくお願いしますね。お義兄様」

兄の茶碗に酒を注ぐ


「こりゃどうも」


嬉しそうに酌を受けながら


「ふむ、弟の嫁さんだから雪音さんは義理の妹か」

「日菜乃ちゃん、俺んとこ嫁に来るか?」


巫女がコーラを吹き出す


「あんちゃん、それは犯罪だ!

 こんな、お尻の青い子供相手に嫁に来ないか?とか」


巫女が「もう、お尻青くないもん!」と抗議の声を上げる


だが、貴兄は

「俺の嫁になるとな、もれなく雪音さんの義姉になれるぞ」


それを聞いて真剣に考え出す巫女


「やめれ」


そんなやり取りに皆が爆笑する




「ああ、すごく気分が良いですねぇ」

コップの中の、お酒をゆらゆら揺らしながら雪音さんが呟く

艶っぽいなあ


「…雪降らしちゃいましょうか?」

いたずらっぽく俺たちに聞いてくる


「真夏の東京ですよ?」

苦笑しながら俺は応える


「雪神楽しましょう」

楽しそうに雪音さんが提案する


「よしやろう!幸い巫女もいるぞ」

無責任に賛成するあんちゃん


「え!」

もきゅもきゅとツマミを食べていた巫女が

急に話を振られて驚く


日菜乃は俺たちを眺めながら

「…あの、皆さん酔っておられるのでは?」


「「「酔ってないよお」」」

俺と雪音さんあんちゃんがハモる


「酔ってる!」

酔っぱらいどもに抗議する


俺はふらーっと窓の側へ行きカーテンを開けると

そこは一面の銀世界だった


「いい感じの雪景色だネ!」


「うわ!もうやってるし!」


「それそれ舞え舞え」

根負けした日菜乃は部屋の中で舞い始める


雪の舞 雪の舞 雪が舞う 


日菜乃は

姫神の巫女は

それはそれは見事に雪神楽を舞っていたのだった


ばーちゃんは、そんな俺達を眺めながら静かに

そして嬉しそうに飲んでいた






翌日の朝テレビを付けると

東京で7月に雪が観測された!と大騒ぎになっており

天気予報で予報士が「やってられるか!」と原稿を床に叩きつけていた


「気象予報士さん、ごめんなさい」


誰ともなく、そんな言葉を呟いた

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