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「お祖父様、少し庭園内を散策してきても構いませんか」




 そう言ってそそくさと去って行く孫の姿に、やはり駄目だったかと、テオドールは落胆の溜息を吐く。



 兄のアレクシスとは違い、数えるほどしか社交場に出席しないフィリエル。

 フィリエルほどの年齢ならばそれなりに社交場で経験を積み、親しい人間関係が出来ていてもおかしくないというのに、フィリエルが家族以外で親しく話すのは、近衛隊長のガイウスや大元帥といった大人達だけ。


 今の内に同じ年頃で親しい人間関係を作っておかなければ、学園に上がった時に孤立してしまうのでは心配し、無理矢理連れて来たが………。

 そもそも、大人でも怯える魔力を放出しているフィリエルに、子供が耐えられるはずもない上、フィリエル自身が他人との接触を恐がっているので自分から話し掛ける事も無かった。


 そんな状況で友人など出来る筈もなく………。



 次の策を考えねばと思っていたテオドールだが、離れた所でフィリエルが同じ年頃の少年二人と話しているのを確認し、驚いた。


 遠目にだが、普通に話しているように見える。

 テオドールが少年達の事を聞こうとしたが、注目している事に気付いた周りの者が、頼むより先にぺらぺらと話していく。



「あちらはオブライン伯爵家のご子息ですわね。

 殿下と同じ年齢で、とても優秀らしく、すでに派閥ができ始めているとか」


「優秀だとは聞いているが、父親があの方ではな」


「ええ、父親の方はあまり良い噂を聞きません。

 殿下にはもっと相応しい者がいると思います」



 テオドールが少年達に興味を持っている事に焦っているのか、悪い印象を植え付けようと必死な周囲の者達。


 だが、フィリエルと普通に会話をしている時点で、テオドールにしたら家がどうだろうと関係ない。

 漸く現れた友人となり得る人物なのだから。


 それに、テオドールはある一言が引っ掛かった。



「(オブライン…………っという事はあやつの血縁者か!?

 ………なるほど。確かにあやつの血縁者なら、フィリエルを前にして普通なのも納得だのう)」



 一人納得したテオドールは、幸先の良い出会いに自然と頬が緩む。


 暫くは、次から次へとやって来る貴族の対応をしていたが、途切れない人の列にそろそろ嫌気がさしてきたので、主催者へ別れの挨拶をしてフィリエルを探す。


 庭園の奥の方へ歩いていく所までは見ていたので、奥へと歩いていく。

 奥に行くにつれ周りに人の姿がなくなると、突如としてテオドールの背後に人が現れる。


 現れるまで一切の気配を感じさせなかったその人物は、上から下まで黒い服をまとい、明らかに一般人とは違う異様な雰囲気を発していた。


 しかし、テオドールは驚く素振りは微塵もなく、平然と歩みを進めながら背後の人物へ問い掛ける。



「フィリエルはどこじゃ?」


「もう少し奥でございます」



 これといって特徴の無い平坦な声が返ってくる。



「こんな所でいつまでも何をしておるのじゃ、まったく」


「あ…………それが………」



 どこか困惑するような返答に、テオドールは初めて歩みを止め振り返る。



「なんじゃ、何かあったのか?」



 長らく王家に仕えてきた影の一族の頭領である目の前の人物は、何事も冷静沈着。

 テオドールがどれだけ笑わせようと試行錯誤するが、表情一つ動かさないのが常で、そんな頭領の動揺した姿は非常に珍しい。


 フィリエルに危険があったとは思わない。

 そうであれば、すでに報告が来ているはずだから。

 しかし、頭領が動揺するほどの不測の事態があったのは確実だ。



「実際確認された方がよろしいかと。

 言葉だけでは信じて頂けないと思いますので」


「はっ?なんじゃ、それは」



 疑問を抱きながら進んでいくと、声が聞こえてきたので、息を潜めながらゆっくりと進んでいく。



「フィリエルってなんだか言い辛い」


「そうか?母上にはフィルって呼ばれているが」


「うーん………………エルは?エルっぽい!」


「ぽいってなんだ。まあ、いいけど」


「じゃあ、エル」



 実に楽しそうな会話と笑い声。


 その一つが探していた孫のものだと分かり、テオドールは目を見開いた。


 大人達に囲まれる日々の中、あれほどに気安く話すフィリエルは初めてかもしれない。


 相手は声からして少女。

 今日はフィリエルにとって新しい出会いの宝庫だったようだ。

 連れて来て良かったと嬉しさを隠しきれない緩んだ笑みで、どんな子か確認しようと二人の前に姿を見せる。



 薄い金茶色の髪に水色の瞳。

 可愛らしい子だなと思った直後、テオドールは驚きのあまり口をかぱっと開け硬直した。


 突然現れたテオドールの姿に、警戒したユイが隠れるようにフィリエルの後ろへ移動したのだが、その手が服の上からではあるがフィリエルの腕を掴んでいたのだ。



 一言も話さず硬直したままのテオドールを心配したフィリエルが声を掛ける。



「お祖父様、どうかされましたか?」



 そこで漸く我に返ったテオドールだが、未だに頭は混乱していた。



「………フィリエル、その少女がお前に触れているように見えるが、わしの目が老いたのじゃろうか………」



 その言葉で、テオドールの様子がおかしかった理由が分かったが、フィリエル自身もどう説明したら良いか分からない。



「いいえ、老いてはいませんよ。

 何故か彼女は俺に触れても大丈夫なようです。………ほら。」



 フィリエルはテオドールに見せるようにユイの手を取り持ち上げる。



「(確かに実際に確認しなけば信じられないかもしれんな)」



 動揺していた頭領の理由が分かる。

 実際に見た今でも我が目を疑ったぐらいだ。



「エル?」



 ユイは困惑した顔をフィリエルへ向ける。



「俺のお祖父様だ」



 フィリエルの祖父=王族という言葉が浮かび、慌てて立ち上がり礼を取る。



「よいよい、そんなにかしこまらずとも。

 それより、本当にどこか体に変調はないのか?」


「はい………」



 未だフィリエルに触れる事の意味を知らないユイは、訳が分からないという感じで答える。



「うーむ」



 魔法や魔具を使っている様子はなく、テオドール自身もこんな事は初めてなので、どういう事か理解に苦しむ。



「ふむ、名は何と言うのじゃ?」


「はい、ユイ・オブラインと言います」



 あれの血縁者。理由が分からなくとも、それだけで少女がフィリエルに触れられるのも納得してしまった。



「(規格外の血縁者は規格外という事か………)」



 遠い目をするテオドール。

 すると、どこか居心地が悪そうにしていたユイが躊躇いがちに口を開く。



「あの、兄が探してると思うので失礼します」



 急いでその場を後にしようとしたが、後ろから「ちょっと待ちなさい」と声を掛けられれば止まらない訳にもいかず、立ち止まり振り返る。



「一つわしから頼みがあるのじゃが、聞いてはくれぬか?」


「何でしょうか?」


「そこにおるフィリエルとまた会って欲しいのじゃ」



 ユイが去ろうとした時、フィリエルが酷く落胆した表情をしたのを見て、漸くフィリエルが興味を示した存在を手放すわけにはいかなかった。


 もう少しフィリエルと話したかったユイに断る理由はなかったが、一つ気掛かりがある。



「父に話しますか?」



 王族と会うと知ったら、あの父親がどんな反応をするのか、分からないからこそ恐ろしかった。


 王族の話し相手になるのは名誉な事なので、家を通すのが基本だが、暗い表情のユイをみれば、ユイにとって宜しくない事だと分かる。


 テオドールが横目で視線を向ければ、険しい顔のフィリエル。


 それを見てテオドールの判断は早かった。



「ユイは屋敷から抜け出して来ることは出来るか?」



 あの家で母や兄以外でユイに関心を向けている者は皆無だ。

 母と兄には友人と遊びに行ってくると言えば難なく抜け出せるだろう。

 そう考えてユイは頷いた。



「では、家の者には内緒で、外で会うのではどうじゃ?」



 強引に進める事は簡単だが、漸く見つけたフィリエルの癒しとなれる存在。

 王族に、何よりフィリエルに嫌な感情を持ってもらいたくは無かった。

 その上、そんなことをした事を彼にバレた時が恐ろしい……。



 ユイは少し考えた末、了承した。



「それならば……でも、良いんですか?

 それって王宮を抜け出して会うって事ですよね」



 そんな簡単に抜け出して大丈夫なのかとユイに疑問が浮かぶ。



「全く問題無いから安心して良い。

 今日もほとんど抜け出して来たようなものじゃからな」



 ふぉっふぉっ、と笑うテオドールの後ろで、「バレたら父上に怒られますよ」と呆れたようにフィリエルが呟く



「では、近いうちに手紙を書くからのう」


「はい、お待ちしています。

 じゃあまたね、エル」


「ああ、またな」



 大きく手を振り去って行くユイが見えなくなるまで見つめるフィリエル。

 ふと視線を感じ振り返ると、にやにやと笑う祖父の姿。



「何ですか………」


「今日初めて会ったというのに随分仲良さげじゃのう。

 惚れたのか?」


「なっ……なな、そんなんじゃありません!」



 フィリエルは真っ赤になりながら狼狽える。



「照れるな、照れるな。

 そうか、やっとフィリエルにも春が来たか」


「ですから、違いますって」


「ベルナルト達に言えば泣いて喜びそうじゃの」


「うわあ、絶対止めて下さい!」



 魔力を抑えようと感情を押し殺そうとする普段と違い、面白いほど素直な反応を返すフィリエルに、テオドールはこの邂逅を心から喜んだ。




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