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初めての出会い(中編)

「いつまで拗ねておるのじゃ、フィリエル」



 苦笑するテオドールの視線の先には、流れ行く外の風景を眺めながら、テオドールに答える事なく無言で不機嫌さを訴えるフィリエル。



 今、二人は馬車の中。


 テオドールの知人の屋敷で行われる茶会に、非公式で訪れようとしているところだ。


 しかし、フィリエルは出発の直前まで行くことを全力で拒否。

 体格でまだまだ敵わないテオドールに、馬車に放り込まれ、強制的に出発された。


 納得がいかないフィリエルは、未だに腹の虫が収まらないでいたのだ。



「俺は行きたくないと言ったのに」


「お前も、王族ならば、社交の場には慣れておいた方が良かろう。

 普段は滅多に出席しないのじゃから」


「俺が良くても周りが嫌がるでしょう」


「フィリエル…………」



 悲しげなフィリエルの呟きに、沈黙が落ちる。


 フィリエルは、まだ魔力の制御が甘く、そこに立っているだけで強い魔力の気配を感じる。


 それは、人に本能的な畏怖や恐怖を与えるようで、社交の場などに出席すれば、必ずと言っていいほど遠巻きに周囲から怯えるような視線を受けるので、社交の場に出席する事を極端に嫌う。


 王族故に、あからさまな態度は取られないが、気を使う周囲の行動が、尚更フィリエルを苦しめていた。



「フィリエルの気持ちも分からんでもないが、数年すればお前も学園に通うことになる。

 その時の為にも、顔見知りは増やしておった方が良い。

 せっかく通うのじゃから、友人達と楽しい学園生活を送った方が良いじゃろ?」


「俺に友人なんて出来るはずがないでしょう。

 怖がって逃げていきますよ」



 卑屈な態度を崩さぬフィリエルの頭を、テオドールは少し乱暴に撫でた。



 屋敷に着き、庭園へ案内されると、直ぐにテオドールとフィリエルだと気付いた周囲の者達が騒ぎ出す。


 テオドールの元に次々と貴族の者達が挨拶しに集まってくる。

 テオドールはそれを慣れたように対応していくが、挨拶に来た貴族はテオドールの側にいるフィリエルから溢れる魔力に怯えを見せる。

 中には、フィリエルに近付けないと、挨拶を諦めて離れていく者も居る始末。


 怖くて仕方が無いはずだというのに、表面上は取り繕い、笑顔でフィリエルに話しかける大人が滑稽に思えてくる。



「お祖父様、少し庭園内を散策してきても構いませんか」



 あからさまにほっとするも、一瞬で取り繕う周囲の大人達達。

 テオドールは難しい顔をするも、許しを与えた。



 フィリエルがうろうろと彷徨っていると、自然と周囲から人が居なくなり、ぽっかりと空間が開ける。


 フィリエルに触れれば危ない事は貴族だけでなく、国民全てが知る事なのだから当然かもしれない。

 わざわざ危険を犯す自殺志願者はここにはいないだろう。


 そう思っていたが、目の前に人が立ちはだかった。

 それはフィリエルと同年代の複数の少年と少女。


 王族の行く手を阻む無礼な行為に、周囲の大人達が驚くが、フィリエルはそれよりも自分に近付いて来たことに驚いた。



「初めまして、殿下。

 私は……バリュー男爵家の息子です。

 ぜひ、お話をご一緒……に致しませんか……」



 王族と顔見知りになりたいと、思っての行動だろう。

 しかし、残念ながら誰もがフィリエルの魔力に怯え顔色を悪くし震えていた。


 声も出なくなり動くことも出来なくなった少年少女達を前に、フィリエルも立ち去るべきか悩んでいると、横から助け船が入った。



「失礼致します、初めまして殿下。

 私共は、オブライン伯爵が息子、セシル・オブラインと申します」


「私は弟のカルロ・オブラインと申します」



 突然現れた自分と同じ年頃で同じ顔の少年二人を交互に見つめる。



「双子?」


「はい、仰る通りです」


「初めて見た」


「それは、光栄でございます」



 セシルは固まって動けなくなった子供達を一瞥すると、フィリエルも思い出したように視線を戻す。



「あ……あの、あ………。」



 フィリエルの注目が再び自分達に戻ってきた事に、彼等は動揺し言葉を上手く言葉にならない。



「どうやら、殿下を前にして、緊張して言葉も出ないようですね」


「殿下とお話したいならば、先に礼儀をきちんと学んでおくべきだろう。

 殿下の行く手を阻むなど、もってこのほかだ。

 分かったな」



 セシルとカルロの助け船に、少年少女達は無言で頷き、逃げるようにその場を去る。




「助かった、礼を言う」



 彼等がフィリエルの魔力で動け無かったのは、誰の目にも明らかだったが、セシルのフォローで緊張故の行動に変わった。

 いくら非公式とは言え王族に無礼な態度を取ったのだが、子供が緊張から失敗したと言うなら、そう酷い罰は受けないだろう。

 せいぜい、親からこっぴどく叱られるぐらいだ。



「いいえ、殿下のお役に立てたのなら、これ以上の喜びはございません」



 笑顔を絶やさない二人を見つめながら、二人が自分に対し怯えを見せていない事に気が付いた。



「お前達は私が怖いないのか?」


「勿論、怖いですよ」



 あっけらかんと告げる言葉は、内容を裏切っている。



「ですが、殿下はその強大な力で人を傷付けようとは思っておられないでしょう?

 傷付けようと思っている人間は、自分が怖いかと不安そうに聞いたりしませんからね」



 初めて言われた言葉にフィリエルは面食らう。



「学園で同じクラスになられるかもしれませんので、今からお近付きになっておこうという、魂胆でもありますが」


「私と同じ年なのか?」


「はい、学園で共に勉学出来る日をお待ちしております」


「では、私共はこれで失礼致します。

 機会がありましたら、また」



 礼を取り去って行く二人を見ながら、フィリエルはセシルとカルロと言う名を胸に焼き付けた。

 あれほど嫌だった学園生活が、少し楽しみだと感じた瞬間だった。



 そして、フィリエルは再び庭園内の散策を始め、日差しの暑さに負けて手袋を外しながら、人気の無い奥へ入っていく。







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