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初めての出会い(前編)

ユイとフィリエルの最初の出会い

 ガタガタと揺れる馬車の中は異様な緊張感に包まれていた。


 ユイの前には兄である、セシルとカルロ。

 そしてユイの隣には、この緊張感の原因とも言える三人の父親、アーサー・オブラインが座っている。


 誰も話す事はなく、沈黙が支配している空間に、ユイは居心地が悪そうに出来る限り父親に近付かないよう扉側へ身を寄せる。



 こんな状況になってしまったのは、とある貴族の屋敷で茶会がある為だ。


 普段ならば、優秀な兄二人だけを連れ、人前に出すことを嫌うユイはシェリナと共に留守番なのだが、今回はオブラインの事業の取引先の者がリーフェを見てみたいと言ったため、アーサーは仕方なくユイを同行させた。



 まるで珍獣を見せろと言うような失礼な話しだが、ユイに拒否権はない。



 向かった屋敷は、オブラインよりも数段立派な建物で、通された庭園は目を見張るほど美しく、庭園には幾つものテーブルと軽食が並べられ、既に沢山の人が手に皿を持ち、あちらこちらで談笑を始めていた。


 貴族の集まりには滅多に参加しないユイには、その全てがキラキラと輝いて見える。


 しかし、楽しかった気分も父親の言葉で直ぐに霧散する。



「勝手な事はするな、お前は聞かれた事だけを話せば良い。

 オブラインの名に傷を付けたらただじゃすまさないぞ、分かったな」


「…………はい、分かりました」


「私は少し挨拶周りをしてくる、くれぐれもこの場所から動くな」


「はい」



 去って行くアーサーの後ろ姿を、ずっと側に居たセシルとカルロは憎々しげに見送った。


 人混みに紛れ見えなくなると、同一人物かと疑ってしまうほど表情を一変させ、柔らかい笑みをユイへ向ける。



「あいつの事は気にしなくていいからな」


「そうだ、ユイ。お菓子は欲しくないか?」


「うん、欲しい」


「じゃあ、直ぐ取ってくるから少し待っていて」



 そう言ってユイの好きそうなお菓子や軽食を取ってきた兄二人と共に、食事を堪能したおかげで沈んだ気持は幾分上昇した。


 しばらくすると、庭園のある一角がざわざわと騒がしくなった。



「なんだ?誰か来たのか?」


「偉い人?」



 ユイとカルロが周囲を窺っていると、飲み物を取りに席を外していたセシルが戻ってきた。



「どうやら、先王陛下とフィリエル殿下が、お忍びでいらしたらしい」


「先王陛下はまだしもフィリエル殿下までか?」


「ああ」


 驚愕するカルロと違い、いまいち状況が理解出来ていなかったユイは首を傾げる。



「兄様、陛下と殿下って事は偉い人だよね」



 まだ八歳で、社交の場にあまり出席しないユイは王族を知ってはいても、どれほど偉い人かまではぴんとこなかった。



「そうだよ、無礼があってはいけないから、絶対に近付いたら駄目だからね」


「もし近付いたら、不敬罪で首ちょんぱされるぞ」


「首ちょんぱ!?」


「カルロ、余計な言葉を教えるなよ………」



 呆れ果てるセシルと楽しそうなカルロを余所に、絶対に近付かないとユイは心に決めた。



 楽しく話していた三人だが、不意にセシルとカルロの表情が強ばり、釣られるように二人の視線の先を見れば、でっぷりとしたお腹を揺らしたり初老の男性と共にこちらへ向かってくる父親の姿。


 無表情のユイの顔が更に固まる。



「お前達は、何処かへ行っていろ」


「ユイと一緒にいます」


「聞こえなかったのか、行け」



 血の繋がった我が子に対して話しているとは思えない、血の通わない冷たい声。

 ユイにまで音が聞こえそうなほど歯噛みしながらも、反抗出来ずセシルとカルロは背を向け歩き出した。



「これが噂のリーフェか」


「ユイと申します」



 ユイは失礼の無いよう淑女の礼を取る。



「薄茶の髪に水色の瞳、白磁を思わせる肌の色。確かに人形のように美しい色合いだ。

 しかし、随分と愛想がないようですな」



 アーサーから笑えと言うような厳しい眼差しを送られ、ユイも笑おうと努力したが、思うように表情は動いてくれない。



「申し訳ありません。

 やはり、リーフェは色々と欠陥が多いようでして」


「おお、それは何とも残念だ。

 伯爵も政略にも使えぬ欠陥品を娘としてお育てになるなど、なんと慈悲深いことか。

 私ならば、生まれたその日に母親共々施設へ送っている事でしょう」



 本人を目の前にして止まることのない蔑みの言葉の数々。

 ユイは心を無にして必死に耐えた。


 暫くして言い飽きたのか、ユイの反応が無かったので諦めたのかは分からないが、漸くその場から開放された。



 セシルとカルロを探し庭園を歩き回ると、二人を見つけたが、ユイはそれ以上足を進めず止まる。


 二人の周りには沢山の同じ年頃の子供達。

 その中心で楽しそうに笑顔で談笑する兄を見て、その中に入って行く事が出来ず踵を返す。


 何をするでも、何処へ行くでもなく庭園の中をふらふら歩いていると、一人の少女が目に入った。


 ユイと同じか少し下の少女は、父親に抱き上げられ楽しそうに笑っている。

 父親も少女を慈しむような優しい眼差しを向けている。



 それを見て、ユイは泣きそうになった。


 生まれてこの方父親から抱き上げられた事も、優しい眼差しを向けられた事は無い。


 今回のように父親の役に立てれば、あの少女のように接してくれるのではと、僅かな期待で付いて来たが、やはり父親の態度は変わらない。



 自分がリーフェで無かったら。

 兄達のように優秀だったなら。



 何度となく繰り返した自問自答に、涙がこみ上げてくる。



 しかし、こんな人が沢山居る場所で涙は流せば、父親に叱られる。


 失望した矢先に、また父親に嫌われまいとする自分に嫌気がさしながら、人の居ない場所を探し庭園の奥に入っていく。



 そうして見つけた邪魔する者のいない静かな場所で、一人涙を流した。






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