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6 俺の同僚がこんなに可愛いわけがないヤバイ死ぬ

  

「おはようございます」

「……」

 

 目を開く。

 天使がいた。

 

「天使だ」

「え?」

「ウサ耳の天使がいる」

「なんかそれ昨日も言ってましたよ」

「あれ?」

 

 辺りを見回す。

 藤井はお布団の上に寝かされていた。

 ちなみにパンツ一丁だ。


「ここは」

「わたしのおうちです」

「あなたは」

「魔王駆除会社ミナゴロシのミミニです」

「はあ、平素お世話になっております」

「いえいえこちらこそ」

 

 と、さすがに会話の中で思い出した。

 そうだ、自分はこの世界に召還されたのだ。


 ミミニはすでに着替えて、スーツを着ていた。


「さ、きょうからがんばって鍛錬していきましょう」

「あれ、もう翌日?」

「そうですよ。もう半休は終わっちゃいましたよ」

「残念です」

「わたしもです」

 

 そのとき、どこからか唐突に声が響いてきた。

 ギィィィィヤァァァァという、断末魔のような絶叫だ。

 女性が殺人鬼に襲われたらこんな声を出すのではないだろうか。


「え、なにこれこわい」

「ああ、朝絶叫ですね」

「なにそれ」

「さあ。でも毎朝、地面から響いてくるんです。

 朝だなあって感じで、爽やかな気分になります」

「なにそれこわい」

 

 藤井は起き上がろうとする。

 だが、体が持ち上がらなかった。


「う……まだ、立てないみたいです」

「だめですか。昨日寝ながら二回も死んでたのに」

「二回も」

「ええ、一度は布団が重くて。

 二度目は、蚊に刺されたらしく」

「蚊に刺されて人って死ねるんだ……」

「わたしもびっくりしました」

「蚊に勝てない人間が魔王に勝てるようになるんでしょうか」

「それはこれから本人の努力次第ではないでしょうか」

「そっか……」

 

 なかなか納得しづらい話であった。

  

「ええと、というと……

 ミミニさん、夜通し、俺の面倒を見ていてくれたんですか?」

「あ、そういうわけではないです。

 たまたまお手洗いに起きたら死んでいたので」

「そういうわけではないんだ」

 

 ちょっと落ち込んでしまう。

 まあそれはいいとして。

 

「あ、あっ、ちょっと見てください、ミミニさん」

「はいはい?」

 

 寝返りを打ってうつ伏せになり、

 藤井は渾身の力で手と足を延ばした。

 すると、だ。


「お、おお……」

「ハイハイが、ハイハイができるようになりました!」

「すごいすごい、フミヤさん!」

 

 ミミニも手を叩いて喜んでくれた。

 その歩みは実にゆっくりとだが、

 フミヤは部屋の中を移動できるようになったのだ。


「革命だ……これはまさに、

 人類の移動革命だ!」

「これで会社にもひとりでいけますね」

「いやそれはちょっと」

 

 町中でハイハイで移動する25才。

 着ているものはパンツのみ。

 捕まるだろう。


「あ、でもまだ道がわかりませんよね」

「確かに。問題です」

「ならわたしがちゃんと首輪をつけて、

 引っ張ってあげますので、安心してください」

「大問題です」


 半裸の男を連れ回すウサ耳ミミカ。

 それはそれで。

 いやいや。


「では今から早速、魔王駆除の特訓をしましょう」

「いや、あの。

 俺、ハイハイしかできないんですが」

「大丈夫です。最初は軽いところからなので」

「まあ、それなら」

「素振り200回からとかどうですか」

「多分200回ぐらい死ぬと思います」

 

 藤井は首を振る。

 ミミニは顎に手を当てて考え込む。


「……じゃあ、どうしましょうね」

「俺に聞かれても」

「……ランニング、模擬戦、ウサギ飛び、地獄極楽ペロペロ走」

「全部死ぬと思います」

 

 最後の地獄極楽ペロペロ走だけ少し気になったが。


 極楽ペロペロ走なら、多分、とてもいいことだろう。

 もしかしたらミミニのふとももを舐めさせてもらえるのかもしれない。

 極楽だ。

 

 でも地獄だからなあ。

 ミミニの足の指とかだろうか。

 ……極楽じゃないか。


「ミミニたんペロペロ」

「え? なにか言いました?」

「あ、すみません。妄想が口から出ていました」

「就業時間内ですので、あまり気を抜かないでください」

「あ、今そうなんだ」


 時計を見る。

 相変わらずシカの目玉時計の見方はよくわからない。

 

「じゃあ、わかりました。

 わたし、今から本屋にいってきます」

「はあ」

「きっと『虚弱体質から始める魔王駆除』とか、

 他にも『きょうから1時間で誰でも魔王駆除』とか、

 そういう本が見つかるはずです」

「あるかなあ」

「あります。全ての英知は本にあります。

 この世の全てが本には描かれているのです」

「過剰な信頼だと思いますが」

「では、行ってきます」

「は、はい」

 

 しかし、ミミニはそう言うだけで歩きだそうとはしない。

 

「えと、なにか」

「いえ、出かけている間に死んじゃったらどうしよう、って思いまして」

「帰ってきたときに生き返らせてもらえばいいんじゃないでしょうか」

「それでもいいですか?」

「いいも悪いも、

 そのときに俺は死んでいるので死人に口無いです」

「あ、面白いことを言いますね」

「なにが!」

「あははは」

「わからない。全然わからない」

 

 朗らかに笑うミミニ。

 普段きりっとしているだけあって、

 少しでも笑顔を見せるとうっかり死にそうになるぐらい可愛い。

 

 まさに藤井ホイホイだ。

 

「あ、それで、ついでになにか買ってきてほしいものとかありますか?

 これから藤井さんもこの家で一緒に暮らすわけですし」

「あ、そ、そうですね」

 

 もう一晩をともにしたというのに、

 改めて聞かれると照れてしまう。


 まるで新婚さんのようではないか。


「えと、じゃあ、

 なにか薄手のパジャマがほしいです。

 パンツ一丁なので」

「かしこまりー」

「あとは月並みですが、

 歯ブラシとか、俺用のタオルとか、

 他にもひげ剃りなんかあると助かります」

「よろこんでー」

 

 なぜか居酒屋のような受け答えをするミミニ。

 新婚さん気分はあまり味わえなかった。


 彼女はきっちりと手帳にメモを書き込んでゆく。

 偉い。社会人の鑑だ。

 

「他には大丈夫ですか?」

「ええ、まあ、今は思い浮かびません」

「わかりました。

 それならそのつどに言ってください。

『豪華庭つき一軒家がほしい』とか言われると、

 ちょっと困っちゃいますけど」

「えーと、じゃあ、

 その、とっても可愛いウサ耳の彼女がほしい、

 とか言っちゃったらどうなりますか」

「え?」

「いや、あの」

 

 真顔で聞き返されて、言葉を濁す。

 ついつい調子に乗ってしまった。

 朝からこんなに可愛い子とお喋りできてしまったから。


「すみません、水を差してしまいまして。

 就業中におかしな冗談を言ってしまいました」

「……冗談、だったんですか?」

「いや、あの……」

 

 なんだか冷ややかな目で見られている。


「いえ……思ったのは、本当です」

「そうですか」

 

 ミミニはしっかりとうなずいた。

 あれ、これは。

 もしかして。

 ワンチャン?

 ワンチャンスあるか?

 あるのかどうか否か?


 ミミニは顔をあげて、藤井の目を見つめてくる。

 ドキッとした。


「じゃあもしそういうものが本屋に売っていたら、買ってきますね。

 可愛いウサ耳の彼女ができるマニュアル、的な」

「いやいやいや」

 

 ミミニはどこかズレていた。

 

 思わずずっこけてしまう。

 手足から力が抜けて、藤井は床にぺたんと倒れ込んだ。

 その拍子に顎を打ってしまったので、もちろん死んだ。

  

 

 ちなみにこれが十回目の死亡でしたとさ。

 めでたしめでたし。

 

 → TO BE CONTINUED

    

 

  

 八回目。

 死因:毛布による圧死。

 

 九回目。

 死因:蚊。

 

 十回目。

 死因:ズッコケ死。

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