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3 愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないし死ぬ

  

 とりあえず、ミミニにミナゴロシ社員を紹介してもらった。

 といっても、四人しか社員がいない零細企業で、

 その上、会社にいつもいるのはパートの事務の少女ひとりだけらしい。

 

「ネネカですにゃ。よろしくですにゃ」

 

 栗色の猫耳だった。

 褐色の肌を惜しげもなくさらす薄着であった。

 ショートパンツの隙間から、その細い尻尾が伸びている。

 ミミニに抱えられていなければ、抱きついてしまいそうだった。


「藤井ふみやです。

 元チェッカーズではありませんが、よろしくお願いします」

「???」

 

 首を傾げられた。

 どうやらこの世界ではこのネタは通じないようだ。


「ちなみに地下室でフミヤさんを出迎えたのは、わたしと彼女です。

 万が一の事故があるといけないので、

 ネネカさんには召喚式のサポートも手伝ってもらっています」

「はあ」

「……その、すみません」

「え、なんで謝るんですかミミニさん」

「いえ、こちらの話です」

 

 ミミニは顔を赤らめながら咳をする。


 ちなみに、外套を脱いだ彼女はスーツを着ていた。

 タイトなスカートから伸びる脚が神々しい。

 もっちり感の豊かなナマ足は魅惑のマーメイドであったが、

 きっと網タイツも似合うだろう。ウサたんだけに。 

 実に素晴らしい。


「あとは社長と営業がいます。

 どちらも会社にいることは稀ですが」

「はあ。お忙しそうですね」

「はい。ハッキリ言ってしまえば、

 この魔王駆除事業に社運がかかっています」

「すごくプレッシャーがかかります」

「適度な重圧は程良い緊張感を生み、結果に繋がると言います」

「そういうものですか」


 きっぱりと言い切るミミニ。

 どうやら彼女は見た目に反してキャリアウーマンのようだ。

 

「若いのにしっかりしているなあ、ミミニさんは」

「ありがとうございます。

 世辞だとしても嬉しいです」

 

 再びぶらぶらと揺らされる。

 ひょっとしたら照れているのかもしれない。


「では、あとはよろしくお願いしますね、ネネカさん」

「は~いにゃ~」

 

 頭を下げて、ミミニはオフィスを出ていこうとする。

 担がれたまま、藤井は尋ねる。


「あれ、もう帰るの」

「はい。わたしは魔王退治の業務を一任されておりますので。

 きょうからは本格的にフミヤさんのサポートに回ります」

「そうなんですか」

「あ」

 

 その途端、ミミニの腕から藤井が滑り落ちた。

 土の上に落ちて、当然藤井は受け身を取れずに即死する。


「しまった、魔法が切れてしまいました」

 

 ミミニは慌ててオフィスに引き返す。





「また死んでましたか」

「ええ、また」

「お手数をおかけします」

「いえこちらこそ。

 しっかりと抱えることができずにすみません」


 ミミニの身長は150に届くかどうかといった具合だ。

 それで大の大人を持ち上げるのはさすがに無理がある。

 

 というわけで、ピンク色の空の下、

 光輝く黄金色の舗装道路を行く。

 

「この世界の色彩は、目に痛いですね」

「ええ、魔王城ですね。わかります。

 あれを放置していると景観が崩れますからね」

「違いがわかりません」 

 

 小さく首を振る藤井。

 三度の死亡により、頭を持ち上げることができるようになった。


 いつでもミミニの可愛らしい姿を見れるようになったのだ。

 これは大きい。

 スーツ姿が眩しくて、実に初々しい。

 のだが。


「それよりも、あの」

「なんでしょう、フミヤさん」

「少し、恥ずかしいんですけど」

「はい、わたしもです」

 

 藤井は今、乳母車に乗せられていた。

 ミミニは無表情でガラガラと車を押している。

 

「ちなみに死んでいる間に乗せました。

 ネネカさんに手伝ってもらいまして」

「お手数をおかけしました」

「前のパートさんが辞めた際に置いていったものが会社に残っていて、助かりました」

「備えあれば憂いなしですね」

  

 ミミニに脇に抱えられるのも、

 斬新なサラリーマン狩りの図のようでどうかと思ったが、

 こうして赤ん坊扱いされるのも同じくらいどうかと思う。

 

「あの、考えたんだけど」

「なんでしょう、フミヤさん。

 わたしはあなたの成功を心より願っております。

 そのためには力になりますので、なんでも言ってくださいね」

「ええ、その、ありがとうございます」

 

 淡々とした口調だが、

 誰かにそこまで求められたのは初めてかもしれない。

 藤井は、なんだかやってきたのが自分で申し訳ないな、と思いながらも提案する。

 

「死ぬたびにちょっと強くなるなら、その、

 そこらへんで歩けるようになるまで殺してもらうことはどうなんだろう」

「命はたったひとつしかない大切なものです。

 それを粗末にするようなことは言わないでください」

「今更感が過ぎるような気がしますが」

「……だめなのです」

「え?」

「あまり連続で死なれてしまうと、蘇生に失敗してしまう可能性があるのです」

「ままならないものですね」

 

 時間を守ってきっちりと死ななければならないということだ。

 その辺りもミミニは管理してくれるのかもしれない。


「なので、あんまり自分から勝手に死なないでくださいね」

「善処する」

 

 実は先ほどから、乳母車の振動でちょいちょい意識を失いかけていたのだが、それは黙っておくことにした。

 これ以上ミミニに面倒をかけるのも悪いと思ったのだ。

 

「もう少しでつきますよ、フミヤさん。

 家に帰ったらきょうはあとはのんびりしましょう」

「なにか、特訓とか訓練とかしなくていいんですか?」

「初日から根を詰めすぎるのは良くないです。

 お風呂に入って美味しいものを食べて柔らかいベッドで眠りましょう」

「俺、こんな時間から家でゴロゴロするのなんて、久しぶりです」

 

 溺死、窒息死、永眠という言葉が脳裏をよぎったが、

 藤井は少し浮かれた声を出してみる。

 するとミミニも顔をほころばせた。


「実はわたしもです。

 この日のために、ずっと休日出勤を続けてきましたから。

 きょうはたっぷりだらだらしようと思っています」

「いいですね、だらだらしましょう」

「ええ。一分一秒も惜しまずだらだらしようと、綿密に計画も立てておいたのです」

「おれのしっているだらだらとちがう」

 

 うめく。

 すると、ミミニが前方を指さした。


「あ、つきました。

 あそこがわたしの家です」

 

 するとレモンイエローの家とエメラルドグリーンの家に挟まれて、サーモンピンクの家が見えた。

 屋根は銀色。窓枠は蛍光パープルだ。

 

「なんというか、個性的な家だ」

「はい。知人からも、

 あまりにも地味すぎて逆に目立つとよく言われます」

「なるほど」

 

 容姿も言葉も雰囲気も地球とよく似ているから勘違いするが、

 ここは紛れもなく異世界なのだと気づかされてしまう。

 文化が違う。


「あ、段差があって少し揺れます。

 気をつけてくださいね」

「はい、作戦は『いのちをだいじに』ですね」

「お願いします。

 ではいきますね」

「任せてください」

 

 どん、どん、と車輪が段差を乗り上げる。

 

「どうですか、フミヤさん」

 

 ミミニが男の顔をのぞき込む。

 彼は白目を剥いていた。

 だめだったようだ。


「……バリアフリーにすれば良かったですね」

 

 ウサギ耳の美少女はため息をつきながら、

 男の死体を乳母車で家に運び込むのであった。

 



  

 三回目。

 死因:落下死。


 四回目。

 死因:段差による振動死。

 

 

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