10 男の戰い
前回のあらすじ。
藤井の中に入り込んでいた混乱の種を、
清らかなるウサ耳美少女ミミニはマジカルキック(物理)で浄化した!
その後スライムを連れてきたらミミニが襲いかかられた。
このままじゃミミニの服が溶けてしまう!!
乙女の危機を前に、果たして藤井の選んだ決断とは!?
世界の命運とR-18行きの切符は、藤井の手に託された!
「きゃーきゃー」
「……み、ミミニさんっ」
溶けてゆく、溶けてゆく。
もはやシャツは薬品によって焼け落ちたようになっていた。
あと少しで見えてしまいそうだ。
その……アレがだ!
胸とか、おっぱいとかの……アレだ!
……とても見たい!!!!
血走った目の藤井に、ミミニはささやく。
「……あの、フミヤさん」
「あ、は、はい?」
「そろそろ助けてほしいのですが」
「いや、あの、えと……はい」
ジト目で睨まれてしまった。
ミミニは片手でスライムを捕まえていた。
もう片方の腕で胸を隠している。
……スライムよええ!
「もうちょっと頑張れよお前……!
せめて下半身までちょっとさぁ、
そのために生まれてきたんだから、あとちょっとぐらいさぁ……っ!」
悔しさをにじませて、ちくしょう、とつぶやく。
ミミニはどうやら聞いていないフリをしたようだ。
「なんかぐちょぐちょで気持ち悪いです……」
「……」
暴れたため、ミミニの髪はほどけてしまっていた。
乱れ髪というやつだ。色っぽい。
さらに、上半身から粘液が滴っている。
腰のくびれから伝った青い液体は、ショートパンツを汚していた。
白いおへそや、胸の下のほうが見えてしまっている。
しかもそれらがてらてらと光っているからなんかもう。
色香とロリの両立、である。
……これはこれでいいか。
なんかやる気が出てきた。
「くそうーおのれよくもミミニさんをー。
ぜったいにゆるさんぞきさまー。
じわじわとなぶりごろしてやるぅー」
「なんかすごい棒読みっぽいんですが」
「くそう! なんて羨ましい……!」
「感情込めなくて良いですから早く」
「あ、はい」
藤井は面倒な手順で吹き筒に矢をセットする。
相手はスライムだ。
普通の矢は効果ないだろうと思い、黄色の矢『雷撃』をセットした。
「でもこれじゃあ、ミミニさんにも当たっちゃうんじゃ」
「だいじょうぶです。わたし我慢強い子ですから」
「そういう問題なんですか」
殺傷能力のある武器でも我慢出来るなら、
それはもう殺傷能力はないのではないだろうか、と思う。
まるで悪ガキを捕まえたように、
手をいっぱいに伸ばしてスライムを摘んでいるミミニ。
スライムはばたばたとうごめきながら触手を伸ばし、
なんとかミミニのラフな服をさらに溶かそうと苦心している。
見上げたエロスライムである。
下半身は良いから、せめて上だけでも。
ていうかもう、おっぱいだけでも。
心の中では彼を全力で応援する藤井。
けれど、だめだ。
今は彼と自分は敵同士なのだ。
「……お前とは、もっと違う形で会いたかった、な」
藤井は矢を放った。
びびびと音がして、吹き矢は見事スライムに命中した。
一瞬、黄色い火花が散って、スライムの体が痙攣する。
と同時に、ミミニが小さく悲鳴をあげた。
「ぴゃっ」
大丈夫ですか、と駆け寄ろうとした(ハイハイで)藤井だが。
ミミニが驚いた拍子にスライムを放り投げてしまった。
それはべちゃり、と藤井の顔に張り付いてしまう。
「あ、だ、だいじょうぶですか、フミヤさん」
「もがもがもが」
「よかった生きてて」
「もごもごもご」
あまり大丈夫ではなさそうだ。
藤井は顔に張りついたスライムを引きはがそうと手を動かす。
けれど。
「あ」
すぐにコテンと横になって倒れてしまった。
いつものアレである。
というか、死亡である。
まるで勝利の笑みを浮かべるようにスライムは藤井から離れた。
そして再びミミニの元にすり寄ってきて……
「……えい」
ミミニは拾った黄色い矢をスライムに放り投げる。
命中したスライムの中で電撃が弾けた。
大きく収縮し、スライムは今度こそ溶けて水になってゆく。
「……」
藤井の死骸とスライムの死骸を交互に眺めて。
半裸のミミニは胸を隠しながら、小さく拳を握り固めた。
「今回は、もうちょっとでした……ね!」
うん、惜しかった。
惜しかったと思う。そのはずだ。
ミミニはあくまでも諦めない。
ありえないほどのポジティブさである。
そう、ミミニは藤井の可能性を信じているのだった。
これこそがこの異世界を生き抜く企業戦士としての心構えであった。
15回目。
死因:スライム
初戦。
戦歴:vsスライム。敗北。惜しかったです。次も頑張りましょうフミヤさん。