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羊の短編集。

神様解釈論。

作者: シュレディンガーの羊


神が世界を創り壊すというなら

それはなんて。




「どうして、なんでしょうね」


自嘲じみたその台詞に掛けられる言葉など俺には持ち合わせてはいなかった。

青年はそのことを責めもせずに静かな瞳で街並みを見下す。

丘の下に広がるかつての美しい街並みは面影がまだわかる分、凄絶なものだった。

家々を飲み込む炎は逃げ惑う人々を嘲笑うように燃え上がる。

崩れていく建物と立ち上る煙、いくつもの泣き声と悲鳴が上がりそれでも騒音に掻き消されていく。


「私はただ救いたかっただけなのに」


青年の頬を音もなく雫が伝う。

瞳は暗く淀み、口元には諦めからくる乾いた笑みが浮かぶ。


「私はこんなことを望んでいたわけではないんです。幸せな世界があると、あの子に教えてあげたかっただけなんです」

「……俺はかつてあなたに言った。手を出すべきではないと」

「なら、あの子は一人でいるべきだったんですか? 他人の温もりも愛しさも知らずに一人で生きて死ぬべきだったと言うんですか?」


振り返った青年はらしくない歪んだ言葉を吐いた。

俺は一度だけくちびるを噛んで頷いた。


「そうだ。そうすれば少なくともこんな結果にはならなかった」

「……結局、私は負けたんですね」


ふっと彼は微笑んだ。

疲れ果てたようなその表情に俺は目を逸らす。

もう一度だけ彼は眼下の惨状を見下ろした。

それから俺を振り返って、今度はなんのてらいもなく笑った。


「ーーーーーー」


彼の背後で大きな爆発音が轟く。

襲いかかってきた暴風に俺は目を庇うために腕をあげた。

たった一瞬の空白は過ぎてからその取り返しのつかなさをまざまざと俺に見せつけた。

再び開いた目に映ったのは、青い光を放つ彼の体で、


「な、」


なにやってる、という続きは爆音で掻き消された。

音のない緩慢な世界で彼は穏やかに微笑んだ。

崩壊していく世界にはなんて似合わない優しくてその分だけ悲しい笑み。

待て、と無意識に伸ばした手は届かない。

彼の口元が音のない言葉を紡ぐ。


『さよなら、』


青い光が彼を完全に飲み込んで、そして世界を染め替えた。



どうして気づかなかったんだろうか。

彼はどうしようもなく優しくて、優しすぎるから馬鹿で、救いようのないお人好しだった。

だからこうなるのは予測できたはずだったのに。



炎は消滅し、崩れた家々から緑が茂り始める。

蔦が絡まり、葉が伸び、花が咲いていく。

青い光が弾けた瞬間に世界は再生し始めた。


「馬鹿野郎……」


彼の立っていた場所にはもうなにもない。

彼の意思も姿も面影もすべてを世界から消し去ってしまった。

それが世界再生の対価。

世界から見たら小さい犠牲だろうか。

それでも、こんなことを望んでいたわけではないのだ。

赤い少年は世界を愛しすぎて壊そうとした。

青い青年は少年に愛を教えたことをそれでも悔やめずに、自分で責任をとろうとした。

どうしたら良かったのだと思う。

力なく零れる自嘲はまるで先刻の彼のようで。

俺にとっては世界の平和も崩壊もどうでも良かったのだと、三人で笑っていられれば良かったのだと今更に気づいてももう遅い。


「どうして」


零れた雫はひとつきり。

答え手のいない問いは風に攫われていく。


「どうして、」


俺を置いていく。




「おい、これはなんだ」

「あん?」


不遜な少年の声に俺は作業をとめて振り返った。

差し出されたのは硝子でできた小さな置物。

精巧に施された加工にきらりと光が反射する。


「お前、それ」

「あいつがいつも肌身離さず持ってるものだぞ。なんだ、これは」

「……神様、とでも言うんじゃないか」


人型の硝子の塊を見遣りながら、その持ち主の青年を思い浮かべた。

柔らかい笑みと馬鹿みたいにお人好しで損な性格。

その癖どこか芯の強い少年のお守役。


「カミサマ、なんだそれは」

「残酷な偉いやつのことだ」

「この世界を見守る優しい方のことですよ」


会話に割り込んだのは件の青年で、少年の手から穏やかに置物を取り返す。


「神様は素晴らしいお方です」


ふふと笑う青年に俺はため息をつく。


「あなたはまたそういうことを言う」

「私、なにか間違ってますか?」

「なんだ、どっちなんだカミサマって」


除け者にされて少年が不服げに頬を膨らませる。

その顔に青年がまたふふと笑って、俺も肩を竦めて表情を緩めた。

少年だけがさらにそんな俺たちに不貞腐れた。

そんな、そんなある晴れた麗らかな午後。




そして結局、少年は神を憎み世界を崩壊させようとし、青年は最後まで世界も神も少年も憎むことなくこの世界からいなくなった。

残されたのは俺一人きり。


「だから言ったんだ」


掌で顔を覆う。

噛み殺しきれない嗚咽が喉を震わせる。


「神様は残酷なやつだって」


世界は崩壊しない。

崩壊したのは三人のあの麗らかな午後だけだ。

少年も青年もいない世界で、俺にこれからどう生きろと言うんだ。

溢れる涙に俺は一人、膝を付いた。








俺:自分では冷血だと思っているけれど案外とお人好し。青年のことを損な性格と少し見下しつつそれでもある種、尊敬している。年上には無意識に敬語を使っている。生意気な少年に苛つくが結局、嫌いになれないきっと一番苦労人で不幸な人。


青年:柔らかで穏やかに見えてとても頑固な人。神様を崇拝している。「俺」のことも少年のことも大事にしている。困っている人を放っておけない、その癖ドジでより事態を悪化させたりする。世界が平和になればいいと思いながら、それは無理なことだとちゃんとわかっている。少年を拾ってきた張本人。


少年:わがままで常に偉そう。青年に拾われてくるまでちゃんとした自我がなく、身に余る力を持ちながらも自覚がなかった。「俺」のことを下僕と思っている節がある。青年のことはなんだかんだで大好き。最終的に力を暴走させて世界を崩壊させかける。



ネタだけで走り書きしたので中途半端です。

いつか機会があったらちゃんと書きたいです。




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