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ドライブ

 女の子は中学生とは思えないほど落ち着いていて、大人の雰囲気を漂わせていた。不思議な魅力があるのだ。頬がふっくらとしているせいか、見た目は少し幼く見える。だが、その割には体が華奢だった。そして、決定的に幸弘を動かす魅力があった。年齢の割に彼女は豊乳だった。華奢な体に不似合いなアンバランスさが妖艶な色気を漂わせていた。幸弘が抱くある法則に幸弘は確信を得る。頬がふっくらとしている女は胸が大きい。

「ねぇ、名前はなんていうんだい。」哲郎が助手席から身を乗り出して、何故か変な言葉遣いで訊ねた。

「ふっふふ。マコトです。シンカイマコト。面白いですね。お兄さんはなんて言うんですか?」女の子はシンカイマコトと名乗った。

「マコトちゃんかぁ。格好いい名前だね。おれは哲郎って呼んで。それで、こっちは運転手。」まず、馴れ馴れしい。そして、中学生の女の子に向かって格好いい名前とはどうだろうか。最後に、自分は最後まで運転手として扱われるのだろうかと幸弘は不安な気持ちになった。そして、何故哲郎は助手席にいるんだ、と首を傾げる。

「運転手ですか?ふっふふ。面白いですね。」マコトは笑うと身を乗り出して「運転手さん、今日はよろしくお願いしますね」と顔を近づけ囁いた。やばい。この子は普通じゃないぞ、と幸弘の勘が働いた。この子はやばい、と。

「でも、マコトちゃん。なんでジャージなんだい。」哲郎は相変わらずの口調で訊ねる。

「え~と、う~んと、これはね。」マコトは少しうろたえた。

 信号が赤になった。大型トラックの前に車を止める。ギアをドライブからパーキングに変えてブレーキを放す。

「ん? どうしたんだい?」哲郎が後ろを振り向いて不思議そうにマコトに訊ねた。

「あっ、言いたくなかったらいいんだよ。」幸弘はハンドルを持ちながらバックミラーでマコトが困っていないか確認してフォローする。マコトは首元のジャージを指で掴み困った顔をしていた。そんなに困る質問なのだろうか、と幸弘は思う。だがすぐに、もしかしたら彼女は苛められていて制服を隠されたりしたのではないのか、と思い直し、勝手に心配をした。

「違うの。」マコトが口を開いた。「これは濡れちゃったの。掃除の時間に。」マコトは残念そうな顔をして言った。その言い方があっけらかんとしたものだったので、嘘ではないと思い幸弘は安心する。

「あ~、マコトちゃんって意外とドジっ娘なんだ。」哲郎はうれしそうな顔をした。ドジッ娘という表現はいかがなものだろうか、と幸弘が疑問に思う。だが、哲郎の突飛な発言にもマコトは「ふっふふ。ドジっ娘って。哲郎さんって面白いですね。でも、わたし本当に少し抜けている所があるんです。周りからもよく言われるんですよ。天然なところがあるって。」マコトは笑顔を見せて答えた。

幸弘はバックミラー越しにマコトの笑顔を見ながら冷静にメリットというものを考えた。マコトがこの車に乗るメリットだ。冴えない男二人のナンパなんかに乗ってどうする。哲郎の言った通り、友達よりも先に進んでいたい、という気持ちが働いてナンパされるという経験をするのも一理あるかも知れないが、いきなり車に乗せられるというのはリスクが高すぎる。マコトの話しを聞く限り、そんな計算もできない女子中学生には思えなかった。

 信号が青に変わる。ブレーキを踏んで、ギアをドライブに入れ直す。大型トラックが動いたのを確認して、アクセルを踏んだとき、バックミラーでマコトを見た。マコトも幸弘を見ていたのか、はたまた、見られたことに気付いたのか、マコトと目が合った。マコトは幸弘と目が合うと、口元を緩めて微笑んだ。余裕のある笑みだ。母が子に与えるような、宥める笑みだ。幸弘は気まずくなって目を逸らした。彼女は本当に中学生なのだろうか、幸弘はそればっかりが気になった。

 なにか、裏に大きな秘密が隠されているのではないのだろうか、と勘繰ってしまう。例えば、後で怖い男が「おれの女に手を出したな。」と事務所に連れ込まれる展開とかあるのではないだろうか。幸弘はマコトに心を惹かれながらも、不安も抱いていた。


 しばらく、ドライブを楽しみたいとの哲郎の希望で幸弘は車を走らせた。

幸弘は引っかかる所がいくつかあった。まず、掃除の時間に制服のまま掃除をするだろうか。少なくても、自分の中学校はジャージに着替えて掃除をしていた。それに、本当に天然の奴は自分が天然だということに気付かない。また、マコトは確実に哲郎に合わせて会話をしている。まるで、キャバ嬢のようだ。話をずっと聞いているが哲郎は兄弟、誕生日、星座、趣味、部活はやっているのかなど質問を終えた後、いまどきの中学生はなにをしているとか、学校は楽しいか、と相手にまかせる質問しかできなくなっていた。哲郎はトークで女の子を楽しませると言っていたが、完全に楽しませているのはマコトであった。哲郎はキャバクラに遊びに来るオヤジのようにあしらわれている。しかし、こんな会話を中学生の女の子ができるだろうか。

「そろそろ、ドライブは止めてなんかしないか?」幸弘が二人に訊いた。

「そうだな、マコトちゃんなにやりたい?」哲郎が身を後ろに向けて訊く。

「なんでもいいよ。カラオケ、ボーリング、ビリヤード、ゲーセンとなんでも対応するから。お金も哲郎さんが払うし。あっ、別に食事でもいいよ。」幸弘がハンドルを握りながら言う。

「え~、本当。じゃあ、ボーリングがいいかな。」マコトは甘い声で答えた。

「ボーリングかぁ。可愛いなぁ。マコトちゃんは。」哲郎が助手席で独り言のように漏らす。ボーリングのどこが可愛いのだと、と訊ねてみたくなるのを我慢する。

「わかった。ちょっと先にあるショッピングセンターにボーリング場があったから、そこにしよう。」幸弘は国道の終わりを左折して、そこから十キロ程あるショッピングセンターを目指した。



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