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実行、そしてトラブル

「なぁ、マコトさんって変わってないか?」ファニーはスペードとダウスに訊ねた。

「ああ、変人だ。」スペードが平然と言い放つ。変人にも変わって見えるのかとファニーは心の中でこっそりと笑った。

「ああ、顔が可愛いだけに残念だけど。」ダウスが頷きながら答え「だけど、変人じゃなかったら、こんなことやってもらえないから、そこにはちゃんと感謝しなくちゃな。」と言った。

「まぁ、そうだね。しかし、大丈夫かな。知り合いとかにあったら、可哀そうだけど。」ファニーは校門の前に立っているマコトを車の窓越しに見る。遠くから眺めるマコトはやはり可愛かった。

「なぁ、でもなんでジャージなんだ。制服じゃあ駄目なのか?」ダウスが制服ではないことに疑問を持ったのかスペードに訊ねた。

「いや、別に制服でも良かったんだが、セーラー服を着せるのはちょっと可哀そうだと思ってな。知り合いに会ったときセーラー服よりかは、ジャージの方がいいだろ」スペードが頬を触りながら答えた。

どっちもどっちだと、ファニーは思ったが、スペードにも人に気を使う心があるのかと別のところで感心してしまった。

 その時、ファニーの携帯が震えた。ファニーは携帯を開くとメールが一通届いていた。差出人は『トミー』と記されている。無意識で舌打ちが出た。

『ぉはよう。いま、何しているの?』とのメールだった。知るか、だいたい、おはよう、じゃないだろ、と心の中で呟く。返信しようか悩んだ。トミーのメールは一人言のようなメールが多かった。人のことを自身のブログだと勘違いしているのか、ブログをアップするような内容のメールなのだ。『東京で行列のできるラーメンを食べたの。おいしかった。』、『今日は王将の餃子を食べました。』など人によっては自慢話にもとれるようなメールを大量に送りつけてくるのだ。だが、今回は珍しく疑問形なのだ。勝手に送りつけて来る一人言のメールではない。だから、いつものように無視はできなかった。 トミーとはバイトで顔も合わせるし、お互いフリーターなので必然的にバイトの回数も時間も長いので一番顔を合わせる人間でもあった。ここは円滑に人間関係を進める為に返信することに決めた。『返信』のボタンをクリックする。内容を考えた。メールをやり取りすることは避けたかった。だから、トミーを黙らせる必要があった。頭をひねる。知恵を絞る。

『いまは忙しい。』と打ち『送信』のボタンをクリックした。

「おい、マコトがナンパされたぞ。」スペードが助手席から身を乗り出し嬉しそうに言った。

「えっ、マジで?」急いで携帯を閉じる。

「なんだ、この緊急事態に彼女とメールか?」スペード鋭い目でこちらを見る。冷やかしやからかっているのではなく、奇跡隊の活動をなめるな、と怒っている目だ。

 それと、ほぼ同時に車が発進した。

「悪い、でも、彼女ではない。バイト先の仲間だ。ちょっと仕事のことで。」彼女ではない、ということを強調して、弁明した。

「まぁ、いい。気をつけろ。」スペードは態勢を戻す。

「それより、マコトさんは?」

「ああ、あの車だ。」ダウスが顎で信号を止まっているワゴン車を差した。ダウスが運転するファニーとスペードを乗せた車もマコトを乗せた車の後ろに止まった。

「あれか。」マコトは大層傲慢な顔で車に乗り込んだんだろうな、とファニーは想像した。

 しかし、こんなに計画通りに事が進んでいいのかと逆に不安になる。マコトが簡単にナンパされるなんて最近の中学生は魅力がないのかと歩く中学生を見渡した。確かにぱっと見た感じはマコトに遠く及ばない。どの中学生もこれから大人女性になる発展途上中と感じだ。それなりに可愛い女の子もいるけど、ファニーもナンパするとしたらやっぱりマコトを選ぶだろうと改めて思った。あれはあながち間違った質問ではなかったのかもしれない。

 ファニーがそんなことを考えながら中学生の下校を眺めていると、ある光景が目に映った。

女子中学生が車に乗り込んで行く。あれは、おそらく親兄弟ではないだろう。車への乗せ方が接待のようだった。

「おい、あっちでもナンパが行われているぞ。」女子中学生の乗った車を指差して慌ててスペードの肩を掴んで揺する。

「えっ?」スペードがファニーの指差した方向を見た。女子中学生を乗せた車はファニー達の反対車線に動き始めた。

「今、動き出した車だよ。ほら、あの車」ファニーはもう一度声を荒くして指差す。

「うそだろ。」スペードは目を丸くして固まった。そのとき、信号が青になって前のマコトの乗る車が動き出した。

「おい、スペード、どうすんだ。車が動いちまったぞ。」ダウスが声を荒げた。

「あっちだ。ファニーが指差した方の車を追え。」スペードが大声でダウスに指示する。

 ダウスは言われた通りに、女子中学生の乗った車を追う為にUターンした。

 キッキー、プーと不愉快な音が響く。急ブレーキの音にクラクションの音だ。一歩間違えば事故になっていた。しかし、そんなことはお構いなしにダウスはアクセルを一杯に踏んで、大きなエンジンの音を発てて、女子中学生が乗った車を追った。


「おい、マコトさんはどうするんだよ」ファニーはスペードを問い質す。

「仕方ねぇだろ。まさか、二組も馬鹿がいると思わなかったんだよ。最悪マコトには携帯で連絡すれば問題ない。」スペードは携帯で急いでメールを打ち始めた。

「でも、心配だ。早めに手を打とう。」ダウスがハンドルを持ちながら重い面持ちで言った。

「ああ、そうだな。」さすがのスペードも心配そうな顔をしていた。

「ブー、ブー」とスペードの携帯が鳴った。ずいぶん速いな、と思ったがスペードがすぐに喚いた。

「お、おい、あいつアドレス変えてやがる。」スペードは信じられない、と言いたげな表情をした。大きな目をさらに大きくさせ、ダウスとファニーを交互に見た。

「お前だって、勝手に変えていただろ。」ファニーが起きたときのことを思い出し指摘する。

 ここで「あっ・・・」とダウス何かを思い出したように口を開けて固まった。「どうした?」スペードが刺々しい声で訊く。

「・・・そういえば、今日来るとき携帯買い変えたって言っていたな。」ダウスがハンドルを持ったまま言った。

「はぁぁあ、どうすんだよ。」ファニーが叫ぶ。

「電話すればいいんだろ。」スペードが眉をしかめて言う。「無理だ。」しかし、ダウスがすぐに吐き捨てた。

「なんでだよ。」スペードイライラが募った声ですぐに訊く。

「あいつ、彼氏と別れたらしいんだよ。先週に。」ダウスはハンドルを持ったままバツが悪そうな顔になる。

「だから、なに?」

「番号も・・・変えたらしい。」

「・・・」二人は黙った。

「おい、ふざけんなよ。どうするんだ。」ファニーはスペードの体を掴み、揺すった。

「落ちつけ。まだ、マコトの方が殺人者だとは決まっていない。」スペードはファニーの腕を払う。

「あっ、そうだ。ダウスの携帯は? マコトさんの番号入ってないのか? なぁ。」ファニーはダウスに訊いた。だが、すぐに「入ってない。」とスペードの声が遮った。

「なんで?」

「こいつは前に浮気がばれたんだ。それで、女の番号すべてを女に消されたんだ。」スペードは神妙な口調で言った。

「はぁぁあ、ふざけてる場合かよ。ふざけんなよ。」ファニーは前にあるダウスの座る運転席を殴った。

「大丈夫だ。」スペードが身を乗り出してファニーの腕を掴んで言った。「なにが大丈夫なんだよ。」ファニーは声を荒げる。

「奇跡は起きる。奇跡を信じろ。」スペードは真顔で言った。ファニーはもう呆れて何も言えない。言いたくなかった。


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