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集合

 朝起きると二時だった。昼に起きるとなんだか損した気分になる。なぜなら、今日の夜はおそらく四時を過ぎるまで寝むれないだろうし、次の日もまた昼過ぎに起きることになる。悪循環になるんだ。そうして、三日間ぐらい、夜が中心の生活になる。それが耐え難い。夜はどうしてもネガティブになる。なぜなら、ファニーがフリーターだから。人生の展望が全く開けないからだ。そして、今日昼過ぎに起きたのはバイトの仲間であり、フリーター仲間のトミーのせいだった。トミーとは中学、高校と一緒だった。しかし、特別仲がよかったわけではない。それどころか、中学時代には見たこともなかったし、高校では二年,三年と同じクラスだったが、一度も話したことはなかった。トミーは女だ。だが、正直不細工だ。身長が小さいし、に太っている。だから、スタイルが悪い。そして、性格も悪い。褒めるところがないぐらいの奴だ。それが、ファニーのバイト先に新しい仲間として入ってきたのだ。最初はほとんど、無視をしていたのだがカツラ店長にいびられているトミーを見て、励ましてあげようと考えた。それが間違いだった。

 携帯を見る。三件のメールがあった。すべて、トミーからだろうと察した。どうして、自分は返信していないのに一方的に送ってくるのだろうと理解に苦しむ。メールとは送ったら、返信が来て、さらに自分が送るというのが正しいやり方だとファニーは信じていた。しかし、トミーは違うのだ。送って、送って、送って、送る。まるで、悪徳セールスマンのような奴だった。メールを押し売りしてくるのだ。一方的に送って来てばっかりなのだ。メールを開くと『今日ゎ話しを聞いてくれてありがとぅ。すっきりした。次会うのは明後日だね。』と絵文字が一杯のメールが来ている。ファニーはうんざりする。電話を終えた五分後だ。散々、かつら店長の愚痴を聞いて、さらには全く知らないトミーの友達の愚痴を朝方の四時まで四時間近く聞かされた後に送って来ている。もうそろそろ、と自分が何回言ったことだろう。トミーはファニーのそろそろ電話を切りたいという合図を無視し続けて約四時間喋り続けたのだ。さらにメールを開くと、十分後にも『ぁれ、ねたのかなぁ』などと、いけしゃあしゃあと送りつけてきていた。一週間前に時間が戻るなら、トミーとはアドレスを交換する自分を全力で止めるだろう。それどころか、まぁ、気にするなよ、なんてトミーに声を掛けない。バイトのことで相談に乗ってくれない、なんて相談に乗らない。ファニーは自分の選択に後悔をしていた。

 しかし、メールの三件目は違った。知らないアドレスだった。開くと、『一五時十分にバス停前公園に来い。スペード』とメールが送られていた。自分の電話帳のアドレスとは違う。奴はアドレスを変えたのに自分には送らなかったのだろうとファニーは察した。一方的にメールを送りつけてくる奴もいれば、必要なメールをしない奴もいる。この世界は自己中心的な奴ばっかりだと、ファニーは世界に対してうんざりした。


 予定よりも十分速くバス停前公園に着いた。スペードの話によればダウスの車があるはずであった。

辺りを見回して見る。一台のワゴン車が止まっているのが視界に入った。ダウスの車だ。近づいて運転席をノックするとダウスが窓を開けた。

「おう、ファニー久しぶりだな。元気か?」ダウスは相変わらずの老け顔を笑顔にして言った。

「ああ、ダウスも相変わらずだな。」と返すと「何が相変わらずなんだ?」ダウスは眉をしかめた。ダウスは筋肉質で身長が百八十五センチぐらいある。最初に会ったときは厳つい顔した奴だな、と思っていたが見馴れると老けているだけなのではないかと考えるようになった。だって、この顔でファニーやスペードと同じ二十二歳なんだから笑ってしまう。

「いや、相変わらず厳つい奴だなと思っただけだよ。」

「はっはは、そうゆうことにしておいてやるよ。」ダウスは笑って返すと、親指で後ろを差し、速く乗れよ、とファニーを促した。

 ファニーは後部座席のドアを開くとそこにはスペードではなく、ジャージを着た女が座っていた。一目見て『月とスッポン』だなとトミーを思い出して思った。

「あれ、君がファニー君?」女がファニーを見て言う。

「そうだけど?」ファニーは遠慮気味に答える。

「わたし?」女は自分のことを指差して言った。「私はマコト。マ・コ・ト、覚えてね。」

「マコト? えっ? マコトって女だったの?」ファニーはダウスに訊いた。

「ああ、驚いただろ?」ダウスは顔に似合わない白い歯見せて言う。ファニーはマコトのことを名前だけ知っていた。だが、完全に男だと決めつけていただけにマコトが美女だったことに驚いた。そして、マコトを見て、トミーと比べてしまうことにも、また自身で驚いていた。

「ああ、びっくりした。」マコトの身長は一五五センチぐらいでトミーと同じぐらいだが、決定的に違うのが顔とスタイルだ。短い髪は白い肌と小さい丸顔に似合っていて、活発な女の子に見えそうだけど、文学少女にも見える。丸い輪郭のせいか、幼い顔立ちに見えた。また、少し話しただけだが、がさつなトミーの喋り方と違ってマコトの話し方はアクセントが良く、リズミカルに言葉が耳に入ってくるのが気持ち良かった。これなら五時間は話を聞いているだけでも苦にならないだろう。

 しかし、一つだけ気になる点があった。彼女はジャージを着ていることだ。何故か、彼女は学校指定のようなジャージを着ていた。

「でも、なんでマコトさんはジャージを着ているの?」ファニーは気になったので訊いた。

「さぁ。あの変人が中学校のジャージを着て来い! とか電話で言ってきたのよ。だから、あたしは中学生じゃないからね。」マコト自分の着ているジャージを摘まんで、律儀に教えてくれた。

「マコトはおれ達の一つ上の二十三だぞ。」運転席のダウスが言う。

「へぇ~、一つ上か。」やっぱり童顔だと思った。

「うん。この中だと、私が一番年上かぁ~、いつまでも若いと思っていたけど、自分より年下見ると、自分もいい歳だなとか思っちゃうな。」

「何言っているんですか。一,二歳なら気合で何とかなりますよ。マコトさん美人だし。」ファニーが横にいるマコトを励ますとダウスが「ファニーが口説いている」とからかってきた。マコトも「ファニー君、顔はいいけど頼りなさそうだから嫌よ。」出会って十分も経たないうちに振られた。


 スペードは約束の時間を十分過ぎた頃に来た。スペードは何故か浮かない顔で助手席のドアを開けて座った。

「遅いぞ。珍しいな。スペードが約束の時間に遅れるのは? 何かあったのか?」ダウスが不思議そうに訊ねる。

「いや、変な奴がいてな。」スペードは首を傾げる。「そいつをちょっと観察していたんだ。」スペードが考え込むように言った。

「ねぇ、なんで、私こんな格好しなくちゃ駄目なの? いい加減、理由を教えてよ?」マコトが後部座席から身を乗り出してスペードを問い質す。

「ああ、それはな・・・・」スペードは先程の考え込む顔とは一転させ嬉しそうな顔で「釣り人大作戦だ。」と今回の奇跡を発表した。

「釣り人大作戦?」マコトがしかめつらになる。そして、答えになっていないでしょ、とでもいいたげな顔で「それが、私の格好と何が関係あるの?」と子供に訊ねるようにやさしく訊ねた。

「ああ、今日マコトの出身中学でナンパが行われるんだ。」スペードがマコトを見て言う。

「ナンパ? あの、知らない女を遊びに誘うナンパか?」ダウスが頭に『?』マークを浮かべるような顔で不思議そうに口を挟んだ。

「ああ、そのナンパだ。」スペードがダウスの質問に答え、海もない中学校で船の難破が起こるはずがないだろ、とつまらなくおどけた。

「ああ、そこで、だ。」スペードがマコトに視線を戻す。「その、ナンパ師達をおれ達が釣って、お仕置きをするんだ。」と豪語した。

「まさか、マコトさんを餌にして、釣るのか? ・・・危険じゃないか? だって、スペードが運命を見えたってことは・・・犯人は相当危険な人物なんだろ。」ファニーがスペードに危険性を訴える。スペードには人の運命が見えるらしい。らしい、というのはファニーにもまだ完全に理解ができていないからだ。そのスペードの怪しげな能力を生かして人の命を救うというのが『奇跡起し隊』というファニー達四人のグループである。

「大丈夫だ。」スペードは無根拠に自信に満ち溢れる顔で「おれ達が付いている。」と主張する。

「おれ達が付いているって・・・」マコトは困惑を浮かべる。

「それに、相手がマコトさんを選ぶっていう確証もないだろ。」ファニーが疑問を口にする。

「えっ?」マコトがファニーを凝視した。あんた本気で言ってんの? とでも言いたげだ。

「えっ?」ファニーも何故マコトに睨まれなくてはいけないのか、と意味がわからずマコトを見る。

「・・・なに? ・・・ファニー君はわたしが中学生より劣っているとでも言いたいわけ?」マコトは不快さと怒りをあらわにする。

「・・・いや・・・そういう意味ではないですけど・・・」ファニーはマコトの癇に障ることを言ってしまったのかと戸惑った。

「だってそうゆうことでしょ。私なんかナンパしないって言いたげじゃなかった。」マコトは口を尖らせる。なんだ、そのいちゃもんは、と思いながらも「いや、マコトさんは美人ですよ。」と前置きをしてから「でも、相手にも好みとかあるし、中学生をナンパに来るぐらいだから、かなり偏った性癖の持ち主かも・・・しれないじゃないですか?」ファニーはマコトの機嫌をこれ以上損ねないように慎重に言葉を選びながら誤解を解こうとした。

「じゃあ、ファニー君だったら、私と中学生だったら、どっちをナンパする?」マコトは唐突に質問してきた。

「えっ?」ファニーは眉をしかめる。

「中学生とわたし、どっち?」マコトは顔を近づけてむきになって訊く。マコトの体が近づき髪の匂いかわからないがマコトからほんのり甘い匂いがした。一瞬、甘い香りに意識を持って行かれそうになるが、しっかりと冷静さを取り戻す。正面を見ると、スペードとダウスが笑いを堪えているのが見えた。

「話の論点がずれていますよ。おれがナンパするわけじゃないんだから。」ファニーが態勢を後ろに下げながら訴える。

「いや、これは重大な質問だ。これにはファニーは答える義務がある」ダウスがにやにやしながら訳のわからない理屈を持ち出してマコトに加勢した。ファニーはその義務はどこから生まれたのかと訊ねたくなったが「そうよ。どっち?」とマコトの真剣さに圧されて無理だった。

「えっと・・・それは・・・マコトさんですよ?」ファニーは言葉に詰まりながら答えた。

 あからさまにも棒読みになってしまったにも関わらず「え~、やっぱり~」マコトは両手を合わせて喜ぶ。

「はい、やっぱりですよ。」ファニーはマコトが機嫌を取り戻したことをよそに調子の良いことを言う。 しかし、こんな答えの決まった質問で機嫌を取り戻し、全くわけのわからないことで怒るマコトを見て、なんだか行く先が不安になった。見た目は美人なだけに無性に残念な気持ちになる。

「それじゃあ、決定だ。『釣り人大作戦』決行だ。」スペードが嬉しそうに言った。


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