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対面

「あの女の運命にはまだ死がない。」スペードがボーリングをする女を見て呆然とした顔で言った。

「はぁぁあ、どうすんだよ。」ファニーは人目をはばからず大声で叫ぶ。

「・・・取り敢えず、中学校に戻ってリスタートするか?」ダウスが冷静に言う。

「ふざけんな。なにがリスタートだ。サッカーしているんじゃねーんだよ。」ファニーがダウスに声を荒げる。こちらがハズレならマコトが当りということだ。もう、マコトがナンパ師の車に乗ってから一時間は経過している。ファニーはマコトの安否が気がかりで仕方なかった。

「ブー、ブー」とスペードの携帯が鳴った。

「ん、もしもし」スペードが携帯に出る。呑気な出方だ。もっと、焦ったりしてもいいのではないか、とファニーはスペードに不信感を抱く。だが、「えっ、マコトか?」スペードが目を見開くので、ファニーは驚いた。

「マコトから電話なのか?」ファニーがスペードに訊ねる。だが、「・・・いや、おれらはいない。ちょっと待ってくれ、ここはうるさいから外に出る。いや、違う。」と言って、スペードは走ってゲームセンターの外に出て行ってしまった。ファニーとダウスは顔を見合わせてスペードの後を追う。

「・・・いや、本当に悪いと思っているって。違う。こっちにもトラブルがあったんだ。・・・・わかった、時間を稼いでくれ。・・・わかったって。すぐに行く。・・・・・」スペードは電話に向かって、事情を説明して電話を切った。

「マコトの居場所がわかった。」スペードが顔をしかめて言う。

「・・・そうか。よかった。」ファニーは安堵のため息を吐きながら答える。

「それで場所は?」ダウスが訊ねた。ダウスの顔にも安堵の色があった。

「・・・ほっかほっかステーションだ。ここからどう考えても2時間はかかる。どうやらあっちが当りだったらしい。犯罪の匂いがするっていていたぞ。」スペードは片手携帯を握りながら苦虫を噛んだ様な顔をする。

「じゃあ、速く行こう。」ファニーを促す。

 だが、スペードが「いや、それより先にやることがある。」と言って店内に戻って行った。

 先にやることって何だよ、とスペードに文句を言おうとしたら「そうだな。」とダウスもスペードの後に続いたのでファニーは仕方なく黙って二人の後ろに付いて歩いた。



 店内に入った後のスペードの足取りは軽かった。自動ドアを潜るとずんずんと奥の方に歩いていった。途中、ユーフォーキャッチャーを取り囲んでいる女子高生がスペードに気付き、隣の女の子の肩を叩いて、指を差す。言いたいことはわかった。スペードの容姿は人目を惹く。誰もが彼に近づきたくなる。だが、スペードはお構いなしに歩き続け、女子中学生をナンパしたもう一組の男達の前で止まった。そして、なにをするかと思ったら「おい、お前ら面貸せ。」スペードは三人の前で言い放った。低い声ですごみを利かせた言い方だった。

 一人はジュースを持ちながら固まってスペードを見上げている。ジュースはコーラとカルピスとオレンジジュースだった。

「・・・な、何ですか? ・・・警察呼びますよ。」ソファーに座った男がスペードを見上げて言った。驚いているようではあるが、怯えている様子は感じられなかった。発した声からは動揺の色は感じられず、スペードから目線を逸らそうともしない。意外と胆の座った男なのかも知れない、とファニーはスペードの行動に驚きながらも冷静に分析する。

「別にいいよ。呼んだって。おまえら、その子をどうする気だ。」ダウスが顎でジャージを着る女の子を差す。

 その一言でソファーに座る男の顔色が変わった。瞳孔が左右に動き、焦燥感に駆られていることがはっきりとわかった。

「・・・関係ないだろ。お前らに。」ソファーに座る男が力なく言う。

「ああ、関係ないけど、おれは犯罪が許せないんだ。」スペードが座っている男を見下して言った。

「おれらは見ていたんだよ。お前らがその子を遊びに誘うのを。中学生なんか遊びに誘ってどうすんだ。まさか、中学生を誘ってナンパしている気分になってんじゃねーよな。」スペードが大声を出して、テーブルに足を「ドン」と叩き乗せた。

 ボーリング、ゲーム、卓球、このゲームセンターで遊んでいる人達の目線がファニー達に集中していた。客同士の揉め事をどう対処するべきなのか悩んでいるのか、三人の店員が不安そうに相談をしていた。

「・・・」座った男はスペードを弱々しく睨む。ジュースを持った男はまだ、ジュースを持ったまま固まっている。

「・・・・・・兄ですよ。」

 今まで一言も言葉を発しなかったジャージを着ている女の子がぽつりと漏らすように衝撃の告白をした。

「・・・へ?」

 スペードが足をテーブルに乗っけたまま間抜けな声を出した。スペードの顔から血の気が引く。スペードの青ざめる顔を見て、スペードも動揺するときがあるのだな、と女の発言よりもファニーはそっちのことに驚いた。

「私の兄です。この人は。」ジャージの女の子は座る男を指差す。

 スペードはゆっくりと足を退かした。手でテーブルの土を払い、深々と頭を下げる。

 そして、走った。

「えっ?」ファニーとダウスはスペードを目で追う。スペードは颯爽と出口へと向かっている。目で追っていたのはファニーとダウスだけではなく、店内にいる全員の人間がスペードの行方を目で追っていた。

 ファニーとダウスも慌てて頭を下げてスペードの後を追った。



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